26.【俺】コグの森 切り株の迷宮へ
迷宮。それは正体不明の穴。強力な魔物が生息し危険が伴うが様々な魔道具やアイテムがドロップしそこに住まう者達を豊かにする。
莫大な利益を生むため当然、国によって管理される。仕切るのはギルドであるが迷宮で獲得したもの自体に税が課せられる。
また高価な魔道具はオークションに掛けることが義務づけられているのだそうだ。ちなみにランクが高いと拒否できるようになるらしい。
ホント設定厨が歓喜しそうな細かさである。
今、俺はコグの森に向けて乗合馬車で移動している。当然、他の冒険者たちもいて気まずそうに口を噤んでいる。俺が邪魔に思われているという演出だろう。
まあリーデシア兵が嫌われてるってのは散々理解させられた。
(兵の恰好で町入ったの失敗だったかな)
だとしても服を用意するのは困難だったが……。
そして大きな問題と俺はカメラを引いて後方にいる者達を捉える。
「んで?なんで『白銀連盟』が乗ってんだよ」
ギルドで遭遇したばかりの冒険者PT『白銀連盟』はCランクである。Dランクの迷宮にいても不思議じゃないが、俺をチラチラ見ているのが確認できるし、冒険者を壁にしてこそこそ耳打ちを行っていて怪しいことこの上ない。
サブサブロからは見えないが、プレイヤーの俺視点ではバレバレである。
(魔王ってバレた?いやバレたら拘束されるよな。でも俺に対する依頼とか入ってそーこれ)
一瞬、受付嬢シアラちゃんの裏切り顔が浮かんだがあの子は純粋だと首を振る。そもそも実際俺は怪しいので裏切るも糞もない。
「何か迷宮でバレたら駄目な奴っぽいな。めんどくせえ」
まさかのよくあるスニーキングモード。折角、迷宮の魔物を使役できるか試そうと思っていたのにとちょっと楽しみを奪われた気分になるのだった。
◇◇◇
コグの森──迷宮前の広場に辿り着いたがまだチラってくる。多分、色んな魔法を駆使してるっぽいが引きカメラで捉えられるので台無しである。とはいえ、気にしていても進めない。
「さて攻略いくかー」
と呟いたところでコンコンっと現実の扉がノックされた。
「ん?」
「兄お母さんがご飯だって」
「あーあ「後でって言ったら小遣い消滅するって」」
「いきます」
お腹すいていたし、いい休憩どころかと俺は付けっぱなしで下へ降りリビングに向かった。
めっちゃ今更だが、俺の家族構成は妹、俺、オトンとオカンの4人家族。妹は一個下で奈々という。父は単身赴任でほぼ家にいなかったりするので三人でご飯を食べる。前にもいったが母は元ヤンキー。そして22世紀には珍しい家族の時間を大事にする系お母さん。降りてこなかったらキレちらかすのである。
食べ終えて茶を啜っていると母が封筒を奈々に渡した。
「はい、奈々。給料日」
「ありがとお母さん」
俺はすっと手を差し出すとぺチンと叩かれた。
「痛って!何で奈々だけ!?」
「駄目だよお兄ちゃん。これは私が働いて貰う正当なお給料なんだから」
「え?何?家の手伝いとか?」
「イチ兄、何歳だと思ってんのよ私の事……」
普段は可愛いが家では三つ編みに眼鏡の地味子化する妹、奈々。顔が童顔なのでつい子ども扱いしてしまう。
「レコチューブの収益化通ったの。ほら歌ってみたあげるって言ったじゃん」
そういえばそんな話を聞いたかもしれない。しかし、兄よりお金持ちの妹とかどうなの?嫉妬しちゃうぞお兄ちゃん。
「アンタも自分で稼ぎなさいって」
母の言葉にぐぬぬと唸る。でも動画投稿か。頭を過るのは『デュアルミッシュ』のゲーム実況。
(もう新規は厳しいって聞くけど、もしかしたら珍しいしワンチャン人気出るかも?主流はVRゲーでオフゲーとか見向きもされねえ時代だけどデュアミなら奇跡を)
「ちなみに動画とるなら機材結構するよ?」
「ぐっ」
「奈々、貸さないからね?使うから」
妹が冷たい。ゲームのシアラちゃんに癒されたいレベルで冷凍である。
「動画か」
動画って言うかあのゲーム性なら生放送もありかもしれない。ただ、小遣いを失っているので買い揃えるとなるとちょっと先になるかもだ。
計画を立てる俺は戻ってきて冒険者に囲まれているサブサブロを見て絶句するのだった。忘れていた。そういえば勝手に時間が進むんだったと。