254.【夜花】 みきみき つんぱつんぱ?
憎き百鬼会打倒のため、彼最上一郎のサポートを決めた有栖川夜花。もしかしてもしかすると勘違いなんじゃないと思っていた気持ちも──
“正解だ 有栖川夜花 俺は百鬼会メンバーであり、彼らのやり方に失望し百鬼会打倒のため動いている 百鬼会の振る舞いによって 君達を傷つけてしまったこと俺だけの謝罪で済むわけじゃないが謝罪する 君が協力してくれるのは非常に嬉しい だが危険なためメッセ レコチューブ等のやり取りは極力控えよう 君も重々承知の上だと思うが敵はそれほどに巨大なんだ 慎重にだ みきみき”
「はい」
勇気を振り絞って直接聞き、帰された返答によって吹き飛んだ。思わず返事をしてしまうほどあの普段のおちゃらけた配信を行う少年のものとは思えないしっかりとした文章。やはり最上一郎には裏の顔があり、あれは演技。アホのフリなのだと夜花は確信する。
しかしどんな目的があろうと他のプレイヤーに情報を握られる配信はライフイータープレイヤーとして愚行の極みである。エルダインで結ばれた縁とソフトそのものを失うという恐怖に耐え、一万という大衆の前で間抜けな姿を晒すことも厭わない最上一郎。更には切り抜きによって残り続けるデジタルタトゥーに、もう身バレしてるのではと疑うガバガバな個人情報の管理っぷり。当然、わざと火中の栗を拾いにいってるのであろうが──
「最上一郎、貴方は一体どれだけの覚悟を持ってそこに立っているというの」
自分には絶対にできないと夜花は息をつく。これは張り詰めた糸に片足で立ち、道化を演じる男の姿。この状況でケタケタ笑っている。何という精神力とお嬢様夜花は戦慄する。
そして何よりも凄いのは彼が何をやってるのかエルダインプレイヤーである有栖川夜花にもさっぱりであるということ。幾ら、百鬼会に監視される彼がその目的を気取られないように動いてるとはいえ、本気でキャッキャと遊んでいるようにしか見えない。
計算されつくされた壮大な計画。常人には理解できないルートで彼は百鬼会打倒という目標に向かい細糸を通そうとしているのだろう。きっと。
だから、少しでも彼の邪魔はしちゃいけない。
そう思うもただ一向に進まない状況。自分がいることを忘れてしまったんじゃないかって思うくらいの放置ぶりに夜花はずっとやきもきしていた。しかし、それでも遂に彼女の興味をくすぐることが漸く起こり始める。
プレイヤー13番の登場である。
プレイヤーキルが可能であり、それが行われば二度と復帰不可という過酷なゲーム『ライフイーター』。そのため他のキャラについていけない雑魚ステータスに加え居場所が割れやすいという特徴もあり魔王は最弱とされる。情報が出回ってるだけでなく、そういった説明書もついていた。だから、魔王を選ぶプレイヤーはほぼ存在せず、少なくとも有栖川はその機能をよくしらなかった。故の驚愕。
(魔王ってこんな事ができるの)
ミミックという分身体を使ってやりたい放題してる魔王と一郎。遂にはその魔王の分身をテイムし始める始末。意味不明。そしてそもそもこのplayer13とは何だと夜花は眉を顰める。エルダイン大陸の中に存在しないこのリーデイル、ドラムニュート、メルカトルの三国からなる謎大陸は百鬼会の拠点じゃなかったのかと。
最上一郎は百鬼会の一員であり、何らかの命令を受けて動いている。拠点の発展とかそんな感じなんだろうと勝手に思い込んでいたがもしかして誰かの土地でその任務は潜入なのでは?そう疑問が抱いた夜花は迷惑が掛かると思いつつ連絡してしまうが──
“ネタバレすることはできない 続報を待て”
とよく分からない返答。もしかすると多忙を極めているのかもと反省し、再び配信を見るだけの毎日に戻った彼女はあれを目撃したのである。
≪浸食率20%≫
≪起動シークエンス chaos field Dual Misch≫
≪ムービーシアターhack成功 再現率73%≫
(これは一体どういうことっ!?)
謎のメッセージが流れたと思えば最上一郎が明らかに他のプレイヤーの視点を覗いている。この視点となっている□□□というプレイヤーの事も勿論気になるが……それよりももし見た目通りなのだとしたらVR筐体『パンドラボックス』をゲームにいながらハッキングしたことになると夜花は息を呑む。
これでは強制的に配信に駆り出されたようなもの。ゲームの機能とは思えない。では、どうしてこんなことが可能なのか。はっ!として夜花は過去、執事である黒沢に頼んだ最上一郎の報告書を読み漁る。
「父は大手ゲーム会社に勤める、敏腕クリエイターッ」
衝撃を受け資料を落とした彼女はものの見事に現在は営業なうの文字を読み落とした。どうやったのかは不明。しかし、この父を持つ子であれば可能なのかもしれないと夜花は震える。まるで一プレイヤーの動きがシナリオの一部であるかのよう演出。何故配信を行っているのか疑問に思っていたが最上一郎は視聴者そのものを味方につける気なのかもしれないと夜花は目を見開いた。
今はまだ無名。しかし、既に一万越えと謎ゲー攻略サブイチチャンネルは破竹の勢い。影響力をもった彼がハッキングすらも使用し牽制し合い動けないライフイータープレイヤー達を表舞台に引きずりだせばある意味均衡を保っていたといえるエルダインのパワーバランスを変革する。まさにライフイーター始まって以来の異端児。
「鬼才」
一体どこまで考えた上での行動なのか。ちょくちょく挟んでくる馬鹿のフリがカラ恐ろしいと夜花は身震いし、その注目を赤鎧に移行した。
「人形遣い?」
この名どこかで聞いた事があると夜花は即座に連絡を行う。相手は彼女の親友である真白。彼女もライフイータープレイヤーであるがプレイヤーキルに遭ったことで失意の底に沈んでいた。
「夜花ちゃん?」
「真白、ごめんちょっとライフイーターのことで聞きたいことがあるんだけど今いいかしら」
「あの……夜花ちゃん私あのゲームはもう」
「必ず手に入れるからそう落ち込まないで。それにまだ生きてる子だっている。会いたいでしょ?」
「それはっ……そうだけど。また」
「大丈夫よ、百鬼会はぶっ潰すから」
「駄目だよ。かないっこない。絶対ダメ、夜花ちゃんは折角逃げたんだから。残った子達のためにも」
「とんでもない協力者を得られたの。驚かないでその人配信してるのよ」
「え?あのゲームを配信?」
「その名、謎ゲー攻略サブイチチャンネル」
「……えっと」
「アホそうって思ったでしょ。実際見てもアホだと思うかもしれない。でも、それは演技。アホの舞いをする鬼才なの」
「ごめん、夜花ちゃんちょっと何いってるか私分からないかも」
「兎に角見て!それと真白、あなたは人形遣いって名前のプレイヤーに覚えはないかしら」
「人形遣い……記憶違いかもだけど古参プレイヤーの一人がそんな名前で呼ばれてたことがあったかも。糸を使うってだけ覚えてる」
「糸。ねえ、真白。エルダインのこと考えるだけでも辛いってこと分かってる。でも、調べるの一緒に協力してくれないかしら。百鬼会は数が多いだけじゃない。彼らから利益を貰い協力関係にあるプレイヤーも多くいる。そんな場所に彼はたった一人で殴り込もうとしてる」
「……嘘だよね?」
「彼はやるわ、絶対に。そして彼からこの謎のメッセージが送られてきた」
タンっと夜花は文章を送った。
“みきみき つんぱつんぱ かるていは YESかNOか 半分か”。
「合図かこれを解かなきゃ参加させないという試験か。きっと私達が戦慄するような内容ね」
と夜花は語るが一郎を知らないせいかすっごくしょうもない内容な気がすると元ライフイータープレイヤー真白は思う。そして彼女は
「あの夜花ちゃんそもそもデュアルミッシュって何?」
当然の疑問を夜花に投げたのであった。




