246.【俺】諜報活動させない包囲網
ペルシアに着き、門を抜けたタイミングで配信を始めた。待機勢と共に知った名前が一気に雪崩込んでくる。
ヤヒヤヒ :ちは
ゆうゆう :ういっす
彩高 :こんにちはー
赤の貴公子 :来たぜ
うずまき姫 :全く毎日やって欲しいですの
松江 :お嬢様、サブイチ様もご学業がありますから
自宅警備兵 :視聴者数マジ増えてきたな
百獣 :ええ、嬉しい反面ちょっと寂しい気持ちもありますね
小蕎 :でも当然だと思う。このクオリティでこの数のコンテンツを提供できるのは配信者として余りに強いですよ
モブ聖人 :VRMMOはどうしても物量がな 後、一人称視点はストーリーものと相性悪いし。サブイチはある意味配信者としていいところを牛耳った
丸助 :そもそもオフゲーの大作なんか今更出ない。まさに唯一無二。ビビるくらいでかくなるんじゃねえかなこのチャンネル
木のみん :有名人になっちゃうのサブ君
ん?何かメッセ来た。久しぶりの有栖川お嬢様だ。
◆───-- - - - - - - – --───◆
夜ノ蝶 :そうここまで有名になってくれば、百鬼会だけじゃない。世界が貴方という存在に気づきはじめる。その流れは止められない。当然これも計算なんでしょうけど、もう私には貴方が何を狙って動いているのすら分からないわ。それでも私も目的のためについていきたい。私の力が必要ならいつでも声を掛けなさい
◆───-- - - - - - - – --───◆
世界?なんのこっちゃ?コメでよくね?何でメッセ。そしてこの百鬼会ってのは小鬼の百鬼のファンクラブってこと?イケショタだからって登場一回目にしてアイツもうそんなに人気なのかよ……。にしても相変わらず有栖川お嬢様はようわからん変な人だ。俺は何言ってんのかわからんぞ。とりあえず、ういって返しておいた。
ヤヒヤヒ :でも例え人気配信者になってもこいつはきっとアホのままでいてくれる。サブイチはずっと俺たちの傍にいる
ココアイ :赤点取ったらサブイチに会えるかな
ゆうゆう :会えるさ。補習=サブイチ、サブイチ=補習なんだからな
お前らいじめっつうんよそれ。俺じゃなかったら泣いてるのよ。見てろ、稼いだ金と100点のテストを束ねてその頬ペチペチしてやんよ。
彩高 :それでイチ君、今日はどうするの?
やっぱ高瀬さんは癒し。彼女の陸上大会は全力応援する。なので理想はその前日くらいにイベントが終わってクリア。それがリスナーには内緒の裏ミッション。そして表のミッションは。
「兎に角、情報を得る。一応、迷宮も軍も構成したけど相手によって変えなきゃだから。ストーリーの流れ的にサブサブロはロックされる。それを解決できる方法を探るのは勿論だけど、多分」
百獣 :同タイミングで仕掛けてくるということですね
先読みしたであろう百獣さんのコメについ頷いてしまった。いや、顔出し配信じゃないんだし、これじゃ伝わらんわと口を開く。
「ああ、冒険者達は既にファームっていうトレントの集落があることを知ってる。精霊じゃなく魔王が率いていると分かった今、二方面作戦仕掛けてくるのは確実だ」
丸助 :軍記物だと兵力の分散、逐次投入は基本やっちゃいけない行為って言われるもんだけどな。さすがにゲームだし考えすぎか?
「いや、そういうの助かるよ。ギャグめいてるけど、わりとそういうところはしっかりしてたりするゲームだから。ただあいつらの最終目標はあくまでも魔王だ。打倒さえすれば魔物は協力することができなくなって勝手に四散するからな」
メモを開き、俺なりに町にある書物でコツコツ調べまくった結果を披露する。俺は隅々までチェックするコンプ気質のゲーマーなのである。
「魔王を放置すれば軍隊は強化され、何度倒しても魔王存命の限り軍は再生する。だから魔王即討伐がエルダインの常識」
ヤヒヤヒ :それなのに魔王に全力集中攻撃じゃないのかよ
「戦ってる最中、軍の指揮が必ず乱れるのが通説となってるって設定があるっぽい。失敗した時のことも考えてそのタイミングで削るのがベストって考えられてる」
この世界の兵法書とかドン引くレベルで作り込まれててビビった。対魔王のところしか見なかったが数百ページあった気がする。流石に飾りだろうけど実は好きなのでチョコチョコ読もうと思ってる。俺はこれからも軍隊率いるだろうしね。
自宅警備兵 :ならサブロ、スパーダ軍サポートの方がよくね?
「きつい言い方だけど魔物の方は最悪蘇生できる。迷宮は踏破されてメインコア抜かれたら詰む。そう聞くと迷宮防衛一択だけどコストが重いのと一度戦闘状態になると軍サイドに何があっても倒すまで動けなくなる」
百獣 :成程、バランスがとられているというわけですか
「まあだから結局情報得てからどっちが得か動けって話なんだけど、問題は」
そこで止めて俺がサブサブロを動かすと明らかに周囲の人影の動きが変わった。
「今回は簡単じゃなさそうだってこと。先に言っとくけどイライラさせたらごめん。苦手なんだよなこういうの」
やっぱりかと俺は息を付き既に包囲されてると顔を顰めたのだった。
◇◇◇
≪脅威度70% 貴方は包囲されています≫
≪怪しい行動をとらないよう心掛けてください≫
三角形で視野角が表示され、入ればその人物の頭部に?マークが表示されメーターが溜まるように色づいてゆく。マジでスニーキングゲームでよくあるやつ。ただ想定の何倍も警戒されていて何もできないだろってくらい敵だらけ。
逃げるように入ったオープンレストランで兜を被ったまま食事をするサブサブロを店員や客が不思議な目で見ている。
彩高 :これ範囲線に入ってる時に怪しい行動をとったらアウトってことなのかな?
「うん、そういうことっぽい」
ヤヒヤヒ :えぐ きつ過ぎないか
モブ聖人 :しかもオートセーブだから一発勝負だぞ
というか常時範囲にほぼ入っていてかなり無理ゲー寄りである。つまり──
うずまき姫:皆まだまだですの。要は魔物を使えってことですの
松江 :流石はお嬢様です
デイジー鹿島がきっと正解。サブサブロのスキルに魔物達の得能を駆使し突破しろってことだろう。で、これだけ警戒してる冒険者達が簡単に情報を漏らすってのは考えにくい。となると狙い目はそれでも喋っちゃいそうな子供で構成されたペルシアの星と除け者だが色々知ってそうなダンプスト。さてどうしたもんかと視聴者と相談し俺は作戦を立て──
自宅警備兵:鑑定は通るんじゃね
「ん、あーそうだな」
≪高位鑑定を使用≫
うーわ、中位鑑定やら追跡やら厄介そうなのがゴロゴロ。それに覚えのあるやつもいる。
◆───-- - - - - - - – --───◆
ヒューイット(22歳男) LV24 種族人族 ソロD級 ジョブ戦士
HP1380 MP290 ATK490 DFS130
グレートソード+4 蜥蜴小竜の軽鎧+5
≪中位鑑定≫≪危機察知≫≪軽業≫≪追跡≫
◆───-- - - - - - - – --───◆
リッケン(23歳男) Lv21 種族人族 万年ソロD級 ジョブ盗賊
HP1130 MP540 ATK320 DFS230
クレイダガー+10 自作の服
≪中位鑑定≫≪不屈≫≪ルーティーン≫≪裁縫≫≪木工≫≪鍛治≫
所持アイテム 木彫りのリッケン像
◆───-- - - - - - - – --───◆
「なっつー何かいたな、こんなの。あっ」
≪盗賊の指輪が発動≫
≪木彫りのリッケン像を盗みました≫
世界一いらないものばっか持ってくるやんこの呪われ指輪。机に置かれたリッケン像。ハッとして荷を弄ったリッケンは己が持っていたものと気づき、ビっと指を立てた。何だこのイベント。頼む、大事なものにだけは入らないでくれ。




