224.【ラティオ】私はトングの気持ちを理解した
【ラティオ】
「40層ニ行クゾ」
反論は聞かれず、首根っこを掴まれたり抱えあげられるなどして運ばれる私。流れに身を任せろとトングの奴は言ったが本当か?どんどん戻ることのできない奈落へ沈んでる感覚があるのだが。それにしてもこのサブサブロという男、常識外にもほどがある。
あの狂ってると名高い百獣旅団が可愛くすら見えるのだ。リーデシア兵の狂気ぶりは聞いていたが本当にここまでとは思ってなかった。
それに彼は──戦闘中にスキルを覚えていた。
通常では決してありえぬことだがこの特殊な特徴を持った存在を私は知っている。それは英雄。トングを仕立てあげているようだがやはり彼を隠れ蓑にするのだろう。それにしても自身を鍛えることに異様な焦りを感じる。
まさか魔王復活を知っている?そう考えてハッとする。英雄の中で魔王討伐の任に当たった者をかつてこう呼んだと聞いたことがあったと。その名、勇者。
(サブサブロは勇者かも知れない)
カチリと私の中でピースが嵌まった気がした。それならソロで強さに拘り名声を拒む理由が分かるというものだし、あの竜と関係を結べたことも理解できる。竜と勇者が協力関係にあったとする伝承があるのは有名だ。トングは帝国の任務だろうと言っていたがやはり違うのではないだろうか。
40層ボス部屋で私は下ろされた。扉が閉まり、アラクネ戦から10分と経っていないのに階層主との戦が始まる。そこからの私は言葉を失ってしまった。ずっと戦い続けているのだ。
40層の主はカメレオスコルピオ。全属性を操る怪物であり、二人で戦うようなボスではない。
しかし彼は果敢に立ち向かってゆく。私は惚れてしまったかも知れない。恋愛感情ではなく主人としてだ。彼についていけばずっと面白い景色が見られるかもしれない。言葉にはできないが何故か彼が光の道に見えた。
「ただ死ななければだな」
GUGYAAAAAAっと咆哮したカメレオスコルピオの目がギョロリと私達を捉えたのだ。
◇◇◇
【アクアボール】
【サンダーボール】
【ファイアボール】
壁に張り付き、三つ指の手を翳したカメレオスコルピオ。すると三つの属性魔法が放たれた。魔法によって軌道が異なる。折り重なるような攻撃。どうすると見れば何と斧で弾き返していた。
そのハチャメチャ具合に思わず笑ってしまうが、いつまでも傍観者ではいられない。私ができることは隙を作ることだと足に力を入れる。
「ダイナステップLV4」
弾ッ!!っと武道家のスキル使用で地を蹴り滑空するように跳ぶ、相手が着地したところを肘打ち。堅いッ。怯むことなく抱き着こうとしてきたがそこにサブサブロの手斧が飛来した。何と言う戦闘の冴え。思わず振り返りたくなる気持ちを必死に堪え、彼を信じ前に出る。
「疾風蹴りLV3」
廻し蹴りを放つがまるで効いておらずギョロリと睨まれた。カウンターを腹に貰って私は吹き飛ぶがこれでいい。代わりに前に出た彼が斧を振るった。凄まじい轟音と魔物の悲鳴。彼のレベルは一体どれほどなのか。少なくともAランク、下手をすればAソロにも届きそうな実力。
雄叫びを上げ色が変化しカメレオンスコルピオが本気となった。バチバチと電気を放ち、速度がアップする。そこからはもう神話の戦いとしか思えなかった。Cランクソロの私など入る余地はない。
両者共に速度が増してゆく。スキルの応酬と生物の知恵の激突。しかし──
「サブサブロっ!!」
大口を開けるカメレオンスコルピオ。獄炎ブレス。完全にサブサブロの身が炎に包まれ消し飛んだように見えたが、彼はその中を歩いた。
(ジュネラルウォークッ)
確かに無敵技。しかし効果が切れた瞬間まる焼けだ。彼に恐怖心というものはないのか。私の目には魔物よりずっと彼が恐ろしく見えた。彼の手がガっと喉を掴む。
「剛力破砕Lv1」
腕力強化のスキルを唱えた彼は地面に叩きつぶした。銀の鎧が魔物の血に塗れる。しかし、その禍々しい姿こそが何故か彼に相応しく見えた。
トング……君は嫌がっているが彼は本当の勝ち馬かも知れないぞ。
「ラティオ ヨ 50層ニユクゾ」
ただし生きていれば。
50、60、70層と彼はクリアし最終層である80に信じられないことにたった数時間で辿り着いてしまったのだ。リーデシアの魔道具を含めれば彼はSランク冒険者にすらも届く逸材かも知れない。




