20.【ペルシア住人】何かやべえのがきた③鍛冶屋編
【大鍛冶師ガストロ】
「ガスの親方。大変でさあ」
「んだ朝っぱらから五月蠅え」
俺の名前はガストロ。この国の鍛冶を取り仕切る総元である。なんでそんな凄い奴が辺境にいるかって?まあこっちにも色々あんだよ。
「国がまた魔光鋼の値段を吊り上げやした」
「っチ、またリーデシアの要求に負けやがったか」
俺達ドラムニュート王国はリーデシア帝国の属国となった。統治権こそ奪われなかったもののその要求は年々酷くなっている。
特に狙われているのが魔道具に関わる素材。魔法技術に長けている帝国にとって喉から手が出るほど欲しいもの。理解はできるがそれはうちも必要なものだ。
魔物の生息地と隣接しがちな王国にとって装備は命を守るもの。それが原因とまでは言わないが長年のツレが死に俺は不機嫌だった。
第一、作りたい装備を打てねえってのはドワーフにストレスを与える。俺はガストロ鍛冶屋の椅子にドシリと座り、俺も年を取ったと息を吐く。延々と鍛冶をしていたいが体に来る。魔光鋼の取り出しは俺にしかできないため引退はできないが、いよいよ、鍛冶業は弟子に技術を授け終えどころかも知れねえと。
そんな時だった。ある客が入ってきたのは。まだ開店前。俺はウンザリした顔で立ち上がり──
「おい、店の看板読めね……」
ぐっと口を結ぶ。噂をすればというやつか。リーデシア兵が立っていたのである。
「リーデシア兵様がこんな寂れた店に何のようだ?」
「……」
「随分なやられっぷりだな。魔獣にでもボコされたか?」
「ソンナトコロダ」
「何だ?その話し方は喉でも潰したか?」
「ソンナトコロダ」
暖簾に腕を押したような奴。こちらを見下す気配はないが、そもそも一切興味がないといった感じだ。シンとし、無言に俺が耐えられなくなった。
「っチ……悪いが俺はリーデシア兵士が大っ嫌いでな。幾ら積まれても打たんぞ?」
リーデシアの武器なんて誰が打つものか。その刃が同胞の胸を貫くかもしれないのにだ。
「ソザイヤ ブキヲ カウノモ ムリカ?」
「素材?武器はまだしも素材など何に使うつもりだ?」
「ジブンデ ソウビヲ ツクル カジバヲ カシテイタダケルト アリガタイ」
ふざけている。ちょっと国の魔道技術が優れているから調子に乗っているようだ。
「くっははは 正気か? 先の戦で頭やられたりでもしたのか?ふっまあいい鉄なら売ってやる。鍛冶場は端なら使っても構わん。ただ汚したり壊したりすれば弁償させるがな」
酷い見た目になるだろう。ちょっと意地悪かと思ったがまあ面白い奴だ。笑いを披露してくれるならそれなりの装備を見繕うくらいはやってやろうじゃないか。
◇◇◇
あれからさして時間は経っていない。にも拘わらずうおおおっというどよめきが聞こえてくるのだ。
(なんだ?)
気になるがイキった手前いけない。モヤモヤしたものを抱えながら待っていると
「ダイセイコウダ! ダイセイコウダ! ダイセイコウダ! ダイセイコウダ!」
「!?」
さっきの奴が自慢気に咆哮しだした。弟子達のボルテージがマックスに達する。一体何が起こっている?
(駄目だ気になる。行こう)
立ち上がろうとしたその時、黒の騎士が部屋に入ってきた。もし、こいつが先の兵士なのだとすれば作ったなどあり得ない。だが、無常にも中から聞こえてきたのは奴の声だった。
「セワニナッタ」
「ちょちょちょっ何だそりゃ?初めから持ってたのか?いや、まさか」
「ワレガツクッタ」
「嘘をつけっ!こんな短時間でどうやって!?おいこら行こうとするな」
いや、馬鹿げている。ツッコミどころ満載である。だが、この自信を迸らせた出で立ち、何より弟子たちのざわめきが事実であることを告げている。
(魔法で作った?リーデシアと俺達との文明の差はそこまであるというのか?)
「その技見せてくれ。代わりに俺のドワーフ技術をお前に見せてやる。確かに凄い腕だが俺の方が硬度をもっと出――」
「チュートリアル ハ スキップスル」
「何?あっおい!」
謎の言葉を残した男は気づけば颯爽と出て行ってしまった。嵐のような男。一体何だったのか。
「親方っ!ありゃ親方の弟子ですかい?とんでもねえものを見せて貰いましたよ」
「チュートリアル……」
奴は俺を見てそう語った。何故?俺はハッとする。どうして奴は何故この場所に入った?鉄など商業区に行けば安く手に入る。魔法で作ったなら鍛冶場にいく必要もないはずだ。
いやそもそもだ。幾ら魔法でもあの短期での装備作成など人の身では不可能。なら、神であれば?
彼は俺が信仰する鍛冶の神オキドゥス様だったのでは?
そしてここに入ったのは俺の作った作品を見るためではないか?
そして失望し、自ら作った。残した言葉はチュートリアル。それが俺に足りないものだとすれば……
「レジットっ! ありとあらゆる文献を持ってこい。今すぐにだ」
「へっへい」
チュートリアル。その正体掴んでみせる。