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2.【俺】オープニングで感動する

 ≪オープニング≫


 羽ばたきが聞こえる。視点は空を飛ぶ生物であり、雲の中にいるようだ。静かな音楽と共に白い靄を抜けると壮大な音楽へと切り替わり眼下に巨大な大陸が現れた。どこまでも続く地平線。凄まじいマップ造形。


「すげえ……」


 想像以上のヴィジュアルにゲーマーとして感銘を受ける。VRでないことが惜しい。いや、まあVRだと予算的にこんなの再現できないだろうが。きゅいいいっと視点生物が一鳴きでスピードが上がった。


 凄まじい速度で視界が流れ、街、ダンジョン、人の暮らし、生物達の輝きが映し出された。これは……オープニングだけ凄いやつだろうか。


 やがて視点生物は森に辿り着いた。大地を含め全てが紫で禍々(まがまが)しい。魔の領域であると一目でわかった。


 人の軍隊が魔物の大群と戦っている。指揮官であろう容姿の整った者達が敵を蹴散らしていた。魔王を選んだからもしかするとボスになるのかもしれないと軽く顔だけ覚えておく。


 視点の生物は少し離れた場所に降り立った。そこは遺体置き場。一つの遺体の前で金髪サイドポニー少女が泣いていた。俺は驚いてしまった。彼女が美しいという理由からではなく、死んでいる者が俺がクリエイトしたキャラだったから。


 親族なのだろうか。ゲームとは思えないほど泣き叫んでいる。これはネタでモヒカン男にしなくて良かったとほっとした。女の子はやがて後ろからやってきた魔導士に起き上がらされ、抱き着いた。周りの兵士たちも泣いていた。魔導師の土魔法によって俺のキャラは埋められてしまった。


 そして時間が経つ描写があって……。【A連打】と表記があったのでカチカチカチと押してみる。すると黒い触手が伸びてきて遺体を掘り起こし、運び出した。


 ちょっと気持ち悪いと思いつつもボタンを押して動かしてゆく。黒い泉に沈ませると遺体が下へ下へと落ちてゆく。やがてボトリと落ちたのは地下牢だった。


 シュルシュルと黒い触手が絡みついてゆき、青年が立ち上がり、腕を見るしぐさを行う。一瞬、龍の影が見えたと思えば画面が背中越しに見る視点となり──


「おっ動かせる」


 リーンと鈴の音が鳴り≪謎の地下牢≫という場所が表示された。


「ちょっと待て。糞おもろくね?テンポいいし」


 いやいや待て待て気が早いと首を振る。アクションがダメダメかもしれないのだ。


「えっとメニューはこれか」


 Xボタンを押すと表示され、初期装備を整えてゆく。


「リーデシアの直剣?」


 恐らくはあの軍に所属していた兵士のものであろうからリーデシアという国なのだろうと俺は思った。全く違う可能性あるかもだけど、上に上がれば武器が落ちてそうなのでそれで確認はできるだろう。


「えっと、Aで攻撃と」


 フォンっとサブローが振るう。


「で、連打で」


 フォン・フォン・フォンフォフォンと連続攻撃。最後に大振りがでる仕様のようだ。そしてステップするため俺は壁に放ってしまった。ガキンっと壁にぶつかりサブローが仰け反った。


「げっ……耐久値あるのかよ」


 耐久値っぽい黄色のバーが減った。所持重量もあるようで、気を付けなければならないかもしれない。ただ、アクションは直感的でいいゲームのように思えた。


 そのまま適当に走り回って操作感を確かめた俺は周囲の探索に入った。こういうの一個一個丁寧に見てゆくタイプである。まあ、途中で面倒になって雑になったりするけれど。


「オープンワールドかなこれ?オープニングで流れたところまでいけたら最高だけどまさかな」


 何せ10円だ。ここを脱出したら終わりも覚悟している。


「何もねえな。ってか魔王が捕まってたってことだよな?んで人間の体を手に入れたから弱体化って感じか?」


 ちょっと引っかかるのはここが魔物側の領域だと思っているから。この本体の化け物、魔物側に捕らえられてた?って思ってしまうのだ。


「でもここ作ったの人間っぽい……って何でこんなゲームで考察してんだ俺は」


 ついついやってしまったと目の前の牢をタックルしてみる。するとバゴンっと外れ簡単に外に出ることができた。


「おーサブローつええー」


 そして既に名前に後悔している俺がいた。まあ、でもやり直す気はない。


「よし、外行くぞ。敵だ敵……。ってやっぱ魔王だから人と闘う感じなんかな」


 俺はスティックを押し込み、サブローを走らせるのだった。


 ◇◇◇


 画面左上にはHPバーと体力バーが存在していて、走るだけでも体力を消費するタイプのようだ。使い切るとぜえはぁモーションが入る。ただ、魔王と考えるとちょっとおまぬけ。


「人間の体盗ったから能力値も人間になった的な?」


 そうやって色々確かめながら進むと光が見え、俺は外に出た。


 ≪魔族領:空白の大地≫


 やはり紫色の大地で毒々しい。魔族領であっていたようだ。しかし、空白の大地というのはどういうことなのだろうか。特に意味はないのか。それとも……。


「何か一々名称もワクワクさせてくんな」


 ゲーマーの俺、こういうの大好物である。風が吹きサブローの装備が揺れた。空白の大地はその名前どおり何もない。いや、遺体があった。戦争をやったであろう兵士たちや魔物達の。


 現実だったら吐き散らかしていただろうが、画面越しのゲームだ。ダークな世界感も慣れっこだった。


「おっ装備取れるな。成程、ここで武器選びって感じか」


 種類はあるが初期装備っぽいので多分そういうことなのだろう。そして漏れなく前にリーデシアの~と付いているのでまあその国の軍で間違いないだろう。


「んー大体大剣だしな。よし斧でいこう」


 いつもと違ったプレイをしたい。ということで俺はサブローに斧を装備させるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あまりこの手のジャンルのゲームには詳しくないのですが、私のやった中でdead cellsっていうゲームに近しい要素を感じたので、それのシステムを思い浮かべながら読み進めてます! ワクワクしま…
[一言] 視点は画面を見てる感じで、中に引きこまれたりはしないのね(//∇//)安心~
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