172.【魔界鳥】帰還とビバップとの出会い
故郷の連中をここに連れてきたい思いがないと言われると嘘になる。けれど一度それが原因で冒険者に殺されサブサブロに生き返らせて貰ってから俺はずっとその気持ちを抑えていた。でも──
「お前……強くなりすぎだろフェブラリー。嫁の貰い手全員が逃げ出すぞ」
「そんなことないもん!お父さんの馬鹿」
「ふぎゃ!!」
目の前で娘にいらんことを言ったゴブリンフライデーが娘の一撃を受けて吹き飛んだ。彼は先日自分のように黄泉から甦った者。当然、死んでいた間の時間はストップしていてゴブリン達の中で浮いていた。
壁に激突した彼に祝日を与えて欲しい。そんな冗談はさておき、注目すべきは僅かな期間であれほどの差が生まれたという事実だ。スパーダにいる魔物の強くなるスピードがいかれている。
特にゴブリンは異常で存在格が上がったためその見た目すらも変化している。何故、ゴブリンが突出しているのか。それは彼らが人に対して共に住むことに抵抗を抱いておらず、良くも悪くも人馴れしているからだと俺は分析した。
殺し合う関係とはいえゴブリンは人の生息圏で活動していた者達。そして意外にも彼らは恨みより自らの欲を優先し、素直にハヤテを通して人間たちと会話し知識を得ていた。どちらかというと引いているのは人側だ。
その姿勢がスパーダでも弱者側だったゴブリン達を忽ち変化させた。そして俺たちはそれをまざまざと見せつけられたのだ。
俺、バッツがサブサブロからエルーグルの群れを連れてくるよう命令を受けたのは丁度そんな時だった。
◇◇◇
羽搏く俺は眼下に見える空白の大地。その不毛ぶりにゾッとする。よくこんな所にいたと思えるほどに何もない。やはりスパーダに来た方がいい。でも、親父たちが人と暮らすことを受け入れられるとも思えない。
それはスパーダの者として致命的。時間が止まっているのも同意であのフライデーのようにお荷物となるだろう。いや、それならまだまし。エルーグルが足手纏いになりそれが原因でスパーダが敗北すれば……。
俺は群れの者だけどもうスパーダの一員だ。説得できなければ連れてこない方がいい。気づけばそう考えるようになっていた。
魔界鳥エルーグルの巣は空白の大地の奥にある。これはエルーグルがここにいる生物の中でも弱いという証でもある。虐げられた種族で人に対する恨みはそこそこ強い。
久しぶりの故郷に着地したというのに嬉しさが込み上げてこない。
(俺らこんなにしょぼかったんだな)
何とか暮らしているがいつか滅びる未来が見える。閑散としているのは狩りに出ているせいだろう。ここで食い物を得るのも容易ではないから群の皆総出で何日も獲物を狙うのがエルーグル流だ。
(親父たちもいなさそうだな。こりゃ)
俺と姉者の父と母は狩りの達人で頼りにされている。まず間違いなく不在だろう。いるのは飛べない者。家に世話してくれるホケキョばあさんがいるだろうと近づくと案の定彼女の声が聞こえてきた。
「ホケーキョ ほーホケキョ ほらバッツやたんとお食べ」
「いや、だから私はバッツという者ではないと」
ん?誰だっ知らない声だと首を捻って俺は実家に押し入った。親代わりであるばあさんが青色のエルーグルを世話していた。目と目が合う。話し方は雄っぽいが雌。切れ長の目でここいらではお目に掛かれない美鳥。
実際、青い羽を持つ者などいないから別の大陸から来たものと察せられた。ホケキョばあさんのボケ進行度合いが恐ろしい。
「ホケキョ バッツが二匹?」
「いや、どう考えても鳥違い。婆さんちょっと外してくれ。俺が話すよ」
全く年寄りはいつも邪魔者だよとホケキョばあさんが外に出て青の美鳥と二匹きり。あれ?何でバッツって名前を婆さんが知ってんだ?まあいいか。ドキドキする気持ちを抑え、俺は自信のある角度で睨みつける。
「アンタ誰だよ?」
「私はビバップ。テイマーに連れられこの地にやってきた。主人とは逸れてしまってね。彼を探すついで
に任務をこなそうと同族に聞き込みを行っていたというわけさ。気に障ったら謝るよ」
ぐっ姉者など相手にならないほど大人の女性の波動を感じる。そして超可愛い。でも惑わされてはいけない。彼女は人間と繋がっていると言ったのだから。
「従魔かよ。その任務っていうのが何かは知らねえが群れに手出ししたら許さねえぞ」
「同族に害を加えるようなことはしないさ。それに目的のものが遂に見つかったんだ」
「目的のもの?」
「君だ」
「おっ俺!?」
「あるものを探すため私は鑑定を仕込まれていてね。悪いけど掛けさせてもらった。不死鳥バッツ。どうか教えて欲しい。君がそのネームをどこでどうやって手に入れたのかを」
どこの手の者か分からない奴に絶対に話す訳にはいかない。でも吸い込まれそうな彼女の瞳。姉者バワンを見ていたからこそ理解した。俺は彼女に恋をしてしまったのだと。そして思う。俺いつ不死鳥になったのと。




