171.【王都ギルド】偶にはデュアミも真面目な話②
「真面目な話やだやだという謎の圧を感じるので今回で終わりたいと思います」
「キアラ、君は誰と喋ってる?兎に角、君に抜けられたら困る」
追いすがるようなカイサレンの視線にコホンと受付嬢キアラは咳をうった。
「お暇と言っても仕事ですマスター。ペルシアに新迷宮が出たということで迷宮探査官の派遣依頼が来ているのです」
「新たな迷宮だとこの糞忙しい時期に。だがどうせ片田舎の迷宮、わざわざ君が行くこともあるまい」
「C級PTが退けられたと言ってもですか?」
「何?いや、待て。どこの誰だ許可なく勝手に入ったのは」
「C級PT『森騎団』レグナード殿下ですマスター」
目を見開いたカイサレンは深く椅子に凭れ直した。
「……どこに飛ばされたと思ってはいたがまさかそのような僻地におられるとは」
「第一王子とは犬猿の仲でございましたから命があるだけマシと言えるかも知れませんが、此方手紙を預かっています」
「確かに王子の相手となれば君が出る必要があるかも知れないが……」
「マスター実はそれが理由ではなく、私が赴きたいのは妹のことなのです」
「君の妹?」
思わずカイサレンは首を捻り、キアラは頷いた。
「ギルドの悪習はまだ地方には残っているようで冒険者の繋ぎ止めとして結婚させられそうだと」
「っチ、あそこはダンプストだったか。彼の悪い噂を聞くが今は手が回らない。私から君の妹さんを王都に召還するよう命令を」
「いえ、妹は乗り気ということなので不要です」
カイサレンはガクっとなった。
「?では何で?」
「その相手というのがリーデシア兵なのです」
「何だとっ何故リーデシアの者が」
「私の妹はちょっと頭があれでして、手紙は惚気が入って見れたものではありませんでしたが恐らくそれなりの身分の者であると。これで何もないということはないでしょう」
カイサレンはカリっと爪をかみしめた。
「辺境の地にリーデシア兵?更に都合よくそこで迷宮が生まれた?」
「正直な話をさせて頂きますと、この王都状況いつまでもこのままと言うわけにはいきません。とはいえ、現状これを覆す手段がゼロなのも事実。自分の足で動き、どんな些細なことでも飛び込みきっかけを掴むしかありません」
「しかし……」
「何より姉として妹が心配なのです。例え相手がリーデシア兵であろうとはいそうですかと大切な家族を無法者に渡すわけにはいきませんから。せめてどういう人物であるか自分の目で確かめなくては」
深い溜息を吐いてカイサレンはガシガシと頭を掻いた。
「はぁ君は頑固だからな。分かった許可しよう。向かわせた冒険者や監査官がリーデシアと揉め事を起こすパターンもありえる。だが君がいれば安心だ」
「有り難うございますマスター、後任は既に指示しておりますのでご安心を。終わり次第、直ぐに戻りますから」
「キアラ」
「はい?」
「今思い出したが、サブカル教の集団がペルシアに向かったという情報があったはずだ。手は出してはこないと思うが、よく分からん怪しげな連中だ。彼らにも気を付けるように」
「はい。では、行ってまいります」
ペコっと頭を下げて出て行ったキアラを見届けて、再び深いため息をついたカイサレンは棚から指輪を取りだした。
「また渡し損ねてしまったか」
プロポーズできなかったとカイサレンはシュンとするがこんな顔で業務に携わる訳にもいかないと鏡を見る。
「リーデシア兵に第二王子レグナード様か」
ちょっとそんな者が集まっている場所にキアラを送るのはグッとなったが、ギルドマスターという立場に加え、エルフという美貌。大丈夫、そう簡単に彼女が恋に落ちるなどありえないと息をつく。
更に今回で度量を見せられたとカイサレンには手ごたえがあった。言葉にせずとも自分の思いは彼女に伝わっている。可能な限り能力の高い冒険者を送るとしよう。鈍感な彼女も察するはずだと。
“カイサレン様、私のことをそんなに思ってっ!好きです”
告白される自分の姿を想像してカイサレンの口角が上がった。
(行ける、後は渡す勇気さえあれば彼女を落とせる)
が、先にネタバレしておこう。彼はNTRという概念を知ることになると。サブイチチャンネルの心無き悪魔のようなリスナー達によってネトラレンという名を賜ることを。そんな事を知らないカイサレンは王子からの手紙を読み驚嘆した。
「なっ!森の精霊が造反っ!しかもメルカトル魔導国が手を引いている可能性があるだと!何だこれは!おいふざけるな!いい加減過労死するぞ」
ガシガシと金髪を毟るカイサレンは新ミハエルの扉を開いた。カイサレンは不憫キャラ、皆さまそう覚えておいて下さい。




