169.【ゴブリン】蘇った金曜に祝日を
【ゴブリンフライデー】
家族のためにも死ぬわけにはいかない。そんな思いから仲間達に申し訳ないと思いつつも俺は目立たず後ろに立つようになっていた。強くなろうと思わなかったこともない。けれどゴブリンがどれだけ努力しようと付け焼刃。人間には絶対に敵わず生物としての格を思い知らされる。俺達ゴブリンは狩られる側で泥を啜って生きるしかない。
それがこの世界の理なのだ。娘フェブラリーにもそう教えた。
◇◇◇
意識が遠のく。後頭部を殴打されたと理解した。ドシャっと糸が切れたように地に転がる。人間の下卑た笑い声。ゴブリンを馬鹿にするがお前らも下の奴らは相当だ。俺は新しい主人であるサブサブロを恨んだ。最初から危ないと思っていた。あの糞主人が人のテリトリーで遺品を漁れなんて馬鹿げた命令を下さなければこんなことにはならなかったのだ。ゴブウェイなんて怠け者をトップに据えるし。やはり捨て駒なのだ。俺の前で翳されたナイフが鈍い光を放った。
俺は家族のためにも死ぬわけには──魔物と人の間に情けなど存在しない。意識が途切れ世界が暗転した。
……
………
…………
深い水から浮上したように俺は目覚めた。空気を求め呼吸が乱れ、禁忌を犯したと言わんばかりに手足が震えている。何が起こった?混乱から回復するより先に茫然とする俺に声が掛かった。
「蘇ッタヨウダナ ゴブリンフライデー」
見知った声だがゾッとした。此方をじっと見据えるのは主人である魔王サブサブロ。しかし知らない。誰だこれは。その身から迸るマナは別人であり時間が経っていることを理解させられた。
そして今なんと言った?蘇った。俺は自らの死を思い出し目の前の存在に恐怖を芽生えさせた。
「我ニ仕エヨ。我ガ望ハ唯ソレダケデアル」
そう告げ去ってゆく主人サブサブロ。再び命を手にできたことは嬉しいがそこまでしてゴブリンに何をさせるつもりなのか。考えるだけでも恐ろしい。
「おっ蘇らせて貰ったみたいだな。良かったなゴブフラ」
ひょこっと顔を出したのは同僚であるゴブリンマンデー。声は一緒だが見た目が違う。上位種のハイゴブリンとなっていて固まってしまった。
「ん?何だよ口なんか開いて」
「おまっハイゴブリンに」
「あーそうか。そっからか。曜日の名持ちは人間に勝ったから全員なってる」
「へ?人間に勝った?」
「そーそーお前が死んでから大きな戦いがあってな。グレーターウルフに乗って奴らをボコボコよ。逃げだす奴らの姿は傑作だったぞ。っとお前歩けるか?行くぞ」
「……ああ」
全員が人間に勝利してハイゴブリンに?変化についていけない。夢でも見ている気分だ。というかここもどこなんだ?
「ここはスパ迷宮でサブサブロ様の拠点であるスパーダがある場所だ。ただ俺達ゴブリンはファームでウルフどもと訓練を厳命されてるからそっち住み。まあそっちもいい場所だ」
「ゴブウェイは?」
「相変わらず寝てばっかだがサブサブロ様に見いだされただけあって俺達とは格が違う」
「ハイゴブリンより上なのか?」
「あいつはもうキング級だ。怠惰だがな」
「嘘だろ……」
頭が痛くなってきた。案内されたファームでも絶句する。マナが満ち溢れていた。魔物にとっては天国だ。
「どこなんだここは」
「どこだろうと一緒さ。生み出してるのはトレントだからな。あいつらがいるならどんな場所もこうなる」
信じられず言葉がでない。あの最弱と謳われるトレントにそんな力が。
「俺たちはサブサブロ様の元で多種族で協力し合うことを学んだ。ここでの生活が気に入ったならトレントに返してやることだ。それとあれだ。ジェネラルから容姿が変わるのは仕方がないことだ。だから何ていうか気を確かに持てよフライデー」
何を言ってるのか分からない。これ以上驚くことなどあるものか。
「貴方」
妻ジェニュの声。振り返った俺はピシッと石化した。
「おかえりなさい。私色々あってゴブリンジェネラルになったの」
「ええええ」
妻がムキムキゴブリンになっていた。どんな姿でも彼女を愛しはするが……
「お父さん」
そう、俺にはまだ娘のフェブラリーが
「私もゴブリンジェネラルになったのっておっお父さん!?」
「貴方!」
サブサブロ様、復活したばかりですがどうかフライデーに祝日をください。俺、スパーダの変化の速さについていけません。誰か助けて。
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スパーダのゴブリン
知力が異常に高く地球と同じ暦を使うようになる
金曜が祝日となるがこれが原因かは不明である
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