167.【俺】願いを聞き届ける
シンとし、さしものぐる髪お嬢様も俺の決断力に目を見開いた。
「まさかタダで頂けるとは思ってませんよね最上一郎、当然条件がありますわ」
「条件?」
「思われていたのですか……」
背後が引いた。よし、そのまま運転席まで下がっていけ。俺はこれこそを狙っていた。まさかそんな何も無くポンと3000万貰えるとか思うやつがいるわけないだろう。ちょっとくれたらいいなって思っただけ、高校生らしい可愛げのある淡い期待を寄せたに過ぎない。
「貴方の持つ3000万の価値があるものと交換ということですの。これで何の事を言っているかわかりますわの」
俺が持つ3000万同等のもの?悪いが我が最上家は貧乏。そんな高価なものうちには……。いや、成程そういうことか
「つまり、お前が欲しているのは俺自身」
「そんなもの要りませんの。当然、デュアルミッシュですわ」
「デュアミ?」
何で?そういえばこの下り有栖川ともやらなかったっけ?え?白百合学園空前のコンシューマーゲームブームなの?しかし、言っちゃなんだがデイジー鹿島さんコントローラーすら握ったことなさそうなんですけど。
「部下に調べさせましたが販売どころか、全く存在しないようで謎ゲーというのは本当のようですの。私”希少”なものには目がないんですわ。松江」
「はい、最上様此方3000万のアタッシュケースとなります」
ドンっと目の前に置かれた。え?マジなのこれ……。3000万は流石にあれだ。有栖川を彷彿とさせる交渉方。白百合のお嬢様って皆こんななの?当然、受け取れるわけがないが想像はしてしまう。
この大金があればVRは余裕でできて高瀬彩と”二人”でキャッキャウフフできるし、親孝行できるだろうし妹のお兄ちゃん格付けもきっと改善されるだろう。ご飯だって毎晩ステーキになるかも。そう考えると思わずゴクッと喉が鳴った。
「さあ、お売りなさいですわ」
誘惑に負けて手を伸ばしてしまう。でも、直前デュアミでの仲間達の顔が過った。白銀連盟面々にシスタークレハ、スパーダ6傑のバワン、大福、ツリー、プニキ、ゴブウェイ、ハヤテに不死鳥バッツ。そして坊主化したサキュバスのラザニアと髪が生えてイケメン化したミハエル。発情しだした捕虜たち。
何か後半で急激に感動が薄れたけど、ペルシアの町の連中だって嫌いじゃない。何よりあの世界に俺はハマっているのだ。
「鹿島、一個聞く。デュアミを買ってアンタはどうする気なんだ?」
「勿論、コレクトなので保管しますの。プレイすることはありませんわ」
成程、そいつはゲームが可哀想だ。コレクターを否定するわけじゃないがソフトはプレイしてこそ輝くものだ。
「それなら絶対に売れねえ。確かにゲームだけどもう俺一人のもんじゃねえんだ。あのディスクには皆の思いが宿ってる。それにな鹿島、あまり俺を舐めるな。俺ら最上家にもプライドってもんがあるんだよ。金で俺を動かせると思ったら勘違いも甚だしいぞ」
ぎゅっ
「それは……胸にアタッシュケースを掻き抱いていうセリフではありませんの最上一郎、松江」
痛っ!バシってされてドスっと落ちた。危なっ!怪我してるところに落ちる所だった。さて怒らせたかとデイジー鹿島をチラリと見れば満面の笑みを浮かべていて逆に怖い。
「ふふっまさか3000万を蹴るだなんてそれだけの価値があるのを認めたも同意。アレがどうして貴方のような凡庸な者に拘りを見せていたか疑問でしたがそのゲームこそが有栖川夜花を惹きつけた原因のようですわね」
「いや、最初から言ってただろそれ」
「隠したって無駄ですわ。コメ欄に現れる夜ノ花、その正体は有栖川ですの」
コイツ、一切話聞かない系女子!?ドヤ顔で言ってるけど別に隠してねえからなそれ。ペシっと手にしていた扇子で顎クイされた。
「そして教えてあげますの。うずまき姫の正体は何を隠そうこの私ですの」
知ってた。やっぱお前かよ。俺のコメ欄知り合いばかりだよ。
「松江」
ハッと言って今度はドサッと資料を置いてきた。ナニコレいらない。
「こちらお嬢様が深夜までうんうん唸って考えたスパ迷宮改築案となります」
可愛いかよ。ってかこいつらの方がデュアミに嵌まってない?いいけど、貧乏人唯一の楽しみであるデュアミを皆で取ろうとしてません?やめてよ。
「この案、有栖川夜花より多く採用して頂ければスーパーチャット5000円」
「やろう」
後ろから白い視線を感じるが男最上一郎、女性の願い聞き届ける。我が最上家の誇りに賭けて。




