165.【俺】前言も方向も転換したくなる
前回、こういう空気を俺は選ぶっキリッとかやっちゃったわけだけどやっぱ絶交へのルート変更いいですか?
「猿飛君それって本当?」
「そうそう、そっからロスカ森の端っこ抜けると一気に抜けられて一個飛ばした先の町に行けるんだよ」
下校時、高瀬さんも部活が無いということで一緒に帰ることになった俺達三人。揃って家も近いことがあって安定のバス内。俺の知らないVRMMO『フェス』の話で二人が盛り上がり出した。知ってるこの空気、小学、中学と盛り上がる友人たちの会話に全く入れずただほーっとかへーっとかいう相槌BOTと化すしかなかったやつ。
中学時代、辛すぎて俺が拗ね。母にVRMMO買って買ってとまな板の上の鯛の如くピチピチ跳ねたやつ。明日から一生ご飯抜きでええならこうてええと言われて終わったやつ。
まあそんな昔の話はどうでもいいのだ。大切なのは今っ。
現在、俺達は今一番後ろにあの長いところに座っているのだが、俺の失敗は端に座ってしまったことと乗り込んだ順番を考えず猿を隣に座らせてしまったことだ。結果、高瀬さんとの間に猿という壁が生まれてしまった。
俺史上最悪の失態。これって友人NTRってやつでは。おいっ猿おめえバス……降りろ。
「なあ聞いてんのかよイチ。って何っつう顔してんだよ」
「何だよ。俺フェスとか知らねえし聞いても知らねえ」
「んだよ。そう拗ねるなって、今もうデュアミの話に変わったから」
「ごめんね最上君、私どうしても聞いておきたいことがあって」
「え?ああ、全然構わないよ高瀬さん。俺そういうの全く気にするタイプじゃないから」
「俺への顔……」
うるせえ、猿。降車ボタン、押してやろうか。んで今、押したのコイツですって高らかに叫んでやろうか。超迷惑行為だから絶対やらないけどな。
「まあいいや、イチのさお前の動画がすげえ伸びてるなって話してたんだよ」
「ホントに凄いよ最上君、いつか本当に有名実況者さんになっちゃうかも」
ん?っと猿の持つスマフォを見ると昨日アップした動画が確かにちょっとバズってた。再生数ニ万超えてる。今までにない初速。まあ動画ウケしそうな無茶苦茶ぶりだったし。ちなみにタイトルは迷宮オープンしたら開幕ピンチになった件、Tポの騎士とキコリクマー!!にした。
長いタイトルだけど、現代人時間ないから粗筋化させた方がいいって奈々の言葉を参考に実行。まだ不安だったけど、成果を見ると間違いではなかったのだろう。
「それでさ。もしこのまま上手くいってサブイチチャンネルが収益化できてお金が入ったらイチもVR筐体『パンドラボックス』買えるだろうし、この三人でフェスやらないか。それまでは俺が高瀬さんを誘うことは絶対にない」
「猿……」
いや待て最上一郎。一瞬、感動しかけたが落ち着け。素数を知らなくてもよく考えろ。一体いつ猿飛弥彦が高瀬さんと俺との間に入れる関係性になった。こっこいつまさかっ。
俺は気づいた。口で笑顔を作ってる奴の目が笑っていないことに。流石に親友。俺達はもう目で会話することができる。
”お前猿、まさかっ”
”ふっ俺達は親友だが全てを譲り合うなどという気持ちが悪い関係じゃない。欲しい者があるなら奪い合う。どっちが高瀬さんを落としても恨みっこナシだぜ”
”一応、言っとくけど高瀬さんがどっちにも靡かないパターンが一番確率高いぞ猿”
”そん時は互いに慰め合おう。イチ”
絶対嫌だわ。その関係こそがキショいわ。ただ、目標があるのはいいかも知れない。VRMMOか、デュアミがあるからいいやって思ってたけど友人とやるのは楽しそうだ。ただやるならデュアミの世界に入りたい。
「何かでもちょっと悔しいね。皆で考えたスパ迷宮がこう簡単に突破されちゃっただなんて。実際、最上君が出てなかったらレグナードさん達に
踏破されちゃってただろうし」
「ふっふっふってわけでこの猿飛弥彦。昨日見た時点で思いついた対応策をノートに書いてきた所存、これをイチに贈呈する」
「じっ実は私もメモって来たの」
有難いし参考にはするけど、君ら俺からデュアミ奪わないでね。これしかないんだから俺。
「あっイチ」
「ん?」
「結構人気出てきたしさ。過疎ジャンルとはいえお前のこと真似する奴出てくると思うんだよ。珍しいつっても世界で一本ってわけじゃないだろうし、ライバル出現に備えとけよ?」
備えろと言われてもどうもできんが確かに出てくるかも。後からやる奴に負けたくはない。これは真面目さを封印しなければならないかもだ。
そんな会話を負えて二人と別れてバスを降りた帰り道、家の前に止まっていた糞長リムジンを見た俺は方向転換、回れ右したくなったのだった。




