163.【俺】それ俺のファンかもしれません
「その……ここで渡すのは恥ずかしいかも。皆の目があるし」
ほら、皆見てる?練習が実ったぞ。これ俺の声じゃないぞ朝から恥ずかしがる高瀬さんを拝めるという奇跡が起こった。
「じゃじゃっじゃ、その屋上でいっ一緒にとか?嫌だったら全然あれで」
うん、その甲斐あったかは怪しいかも口回らね。現在、学校の教室。周りにバレないように高瀬さんとひそひそ話。もう正直これができただけで俺は満足。後ろからすっごい視線感じるけど、きっとどっかの動物園から逃げ出したお猿さんだろう。
「え?じゃあ、そうしよっか」
上目遣い高瀬さん可愛いいいいっ。危ね、思わずうひゃっふぅうっとか言いかけた。変な奴と思われる。慎重に行け最上一郎、慎重にだ。
ガツガツする男は嫌われるって恋愛バイブルに書いてあった、でも草食系男子もそっぽ向かれるって教えがあった。え?矛盾してね?恋愛アドバイザー、アドバイスで円環の理編み出そうとしてない?
マジで正解が分からない。デュアミみたいに選択肢でてくればいいのに。とりあえず、素数を数えよう
(1234、2234……やべえ俺素数が何か分からねえ)
「そっそういうことで決まりで!後でね、最上君」
じゃっと自分の席に顔を戻す高瀬の姿にあっやべっとなる。お金は先に渡して置こうと。
「高瀬さん」
「え?」
俺史上最高のカッコよさで500円を弾き、放物線を描いた。ここに昨日の成果あり、真っ直ぐ飛んで彼女の手の中へ。
「代金な」
「え?あ、うん。そうだね……」
あれ?変な空気に?そして何だか高瀬さんの目が俺を捉えていないような。
「最上君うっ後ろ」
後ろ?うげぇ……生徒指導の鬼瓦陸道。いっいつの間に俺の後ろに!?
「金を投げるなぁあ、最上みぃいい。ぶるわあ」
ぶるわあって言った。この人今ぶるわあって言った。この人、意外にも漫画に明るい勢、やっぱりド〇ゴン〇ール好きな民か。
「しぇん〇ん」
「パンツ」
「ちち」
「パンパン」
「亀仙」
「鼻血」
ガっと俺と先生は手を取り合った。
「どうやらお互い話が合うようだな最上」
「ええ、意外でした先生と好みと一緒とは。それでは失礼します先生、三年後に」
「しゃぼ!ではない!最上、お前ちょっと職員室にこい」
「ふぁい……」
知識総動員しても捕まった。でも、そろそろ怒られる気がするのでやめておこう。何がとは言わないが。
◇◇◇
「ってか何で職員室?」
確かにお金ピンは考えれば怒られても仕方がないが、ここに呼び出しはやり過ぎではなかろうか。前回もやり過ぎて頭下げてたしまさか今回も。ってか今気づいたけど鬼瓦先生の机、ド〇ゴン〇ール全巻揃ってるんだけど、いいのこれ?
アンタが指導受ける側なのでは?ってちょっと言いたい。顔怖いので言わないけど。先生は何かガサゴソしてる。
「あの、先生俺って何で呼び出しです?」
「ん?ああ、前回話したろ。お前の事良くないと思ってる生徒がいるってな」
「あー」
聞いた気がするけどマジで心当たりないんだが。
「三年の西島亮っていう不良だ」
「え”」
不良、三年?怖っ何で俺恨まれてんの。
「そいつが白百合学園のお嬢様の事好きらしくてな」
うっわ、最悪。
「お前と会ってるところを見て嫉妬、ぶっ殺してやんよぉおおおって叫んだのを聞いた奴がいたらしい。まあ俺が一応生徒指導で釘を刺しておいた」
「……ちなみになんと?」
「やったらてめえ豚箱だぞ。最上やれるんもんならやってみろぉや根性無しがぶるわぁ」
「煽ってますよね。それ全力で煽ってますよね」
勘弁してくれ、俺はゲーム大好きインドア派だっていうのに。まあ冗談だと鬼瓦先生はドンっとタブレットを置いた。いや、止めろよその冗談というツッコミは吹き飛ぶ。何せ、そこには下校時の俺が映ってるんだから。
「え……なんですこれ、俺?」
「校門前にカメラがあるんだ。ほらここだ」
「う”ーわ」
どうして俺ばかりこんな目に……。何か明らかに俺を見張ってる不審者がいる。フード被ってて女か男か分からない。華奢だし女の子か?あれ?そう思うとちょっと嬉しくなって──
「西島関連かと思ったがうちの生徒じゃないことが気に掛かってな。最上何か心当たりはないか?」
「いえ、それこそ白百合学園関連としか……でも、別に俺ただの知り合いっていうか……あっ!?」
「どうした?あったか」
「先生もしかしたら俺のファンってやつかもしれません」
パシっと頭の中でピースとピースが嵌った気がした。
「お前にファンだと?正気か最上」
正気だよ、失礼な。一昔前の話だが人気配信者にストーカーはあったって聞いたことがあるし。故に、十二分にあり得る話。だから──
「先生、こう見えて俺ちょっと配信してるんですよ」
俺はドヤ顔でそういった。




