EX.300万PV記念SS『二つの英雄』②
【ユーリ】
新進気鋭。若手ナンバーワンのペルシアの星。三度の飯より冒険が大好き。が、このノリだけは理解できないとユーリ少年は目を細めた。
「では見事敗北したこのボッシュ!乾杯の音頭をとらせて頂きます」
「いいぞボッシュ!敗北者!」
宿の宴会場を借りてC級冒険者という早々たるメンバーが揃っているがやってることは下の冒険者と変わらない。大人の飲み会ってやつ。ホント理解できないとユーリはムスっとする。ライバルであるレグナードも乗り気じゃなさそうなのが救いか。
(勝ったなら分かるけど負けといてこんなのやってる場合かよ。ウィルソンさんも助け出せてないってのに)
そう考えつつもやっぱりレグナード達がそこまで焦ってないのは変だと思う。いけすかない奴だがそこまで非情な男じゃない。もしかして生きてるってことが分かってんのかな。
「イッキ!イッキ!イッキ!」
「おいこら私にも飲まそうとするな。リバシアするぞ」
「ちょっ!やめろレグ。あんなんされたらマジで吐く。それにあれを人前でやるなって。前々から思ってたがやっぱりダサいぞ」
「ほう我が祖先が編み出した秘術を馬鹿にすると。誰かグラスを。飲み比べといこうかボッシュ。潰す」
「お!いいぞやっちまえ!審判はこのホルスターのマインツが勤めてやるぜ」
うおおおっと場が盛り上がれば盛り上がるほどユーリの心が冷めてゆく。大人になるとこれの良さが理解できるんだろうか。だったらあんまり大人になりたくないかもと目の前のパンを頬張るユーリ。
「んー暗いですよー。飲んでますかー」
そこに酔った悪滅聖歌隊のモニカが突撃。彼に軽くだきついた。
「ちょっ!モニカさん!」
とてつもなく柔らかいものが当たってる。この人ローブの下に何も着てないかも。ヤバいこんな所キャスに見られたらと周囲を見渡すが幼馴染の姿は見当たらない。
(キャスの奴どこにいって)
「ほら、ユーリ君も飲んで飲んで」
「いや俺未成年っすから。駄目っす」
「えー意外と堅いのですね」
酒が入ったらCランク冒険者であっても駄目駄目だなとユーリは一瞬思うもモニカの瞳に理性的な光が宿っていることに気づいた。女には気を付けろとキャスから口酸っぱく言われているユーリ。よほどの酩酊状態や普段からそういう人じゃない限り女性からしな垂れ掛かることは無い
(もしかして探られてる?)
そう思った瞬間、彼の視界が少しだけ開けた。楽しんでいるがピリついている。同ランクの冒険者は戦友でありライバル。情報を抜くために大枚をはたく者もいると聞く。ここに呼ばれた時点で見る価値があるってことなのかな。ちょっと嬉しくなるが──
「うわああレグナードが潰れたああ」
「よえええ。こいつに酒飲ませば勝てるぞ」
やっぱこの飲み会ってやつの必要性は理解できないと溜息が零れる。
「分からないって顔してますがとても大切なことですよ」
「これが?」
「冒険者はいつ死ぬか分かりません。レグナードさんとボッシュさんは帰ってこなくたっておかしくなかった。そういう時パーティ以外名前も知らないってのは寂しいじゃないですか」
そういうもんかと恥ずかしさから頬を掻いたユーリはこっちを凝視するスラハンおじの姿にピシッと固まった。多分というか間違いなく呼ばれてないのに彼はいる。怖っと目を逸らすユーリ。それでも感じる視線に居たたまれなくなって彼はその場を脱出した。
「すいません、俺トイレいきます」
用を足して手を洗う。鏡には数々の冒険を経てやや逞しくなった少年の顔が映っている。便利。こういった技術は迷宮が齎してくれている。人類の敵である魔物を産む迷宮はこうやって人に恩恵を与える。
そういうものだと習ったけれどやっぱり不思議なものだとユーリは思う。
「何で俺らって冒険者やってんだろ」
思わず出た独り言。最近、ユーリはそんなことを考えるようになった。ランクを上げればより強い敵が待っていて常に命の危機が付き纏う冒険者。人社会の中で際だった歪なシステム。
それは彼が冒険者となって積みあがってきた違和感だった。何故冒険者という職業が成り立っているのだろうと。
ほとんどの職業は偉くなると現場から離れる仕組みだ。でも、冒険者はその逆で強敵と戦う権利が与えられる。それこそ戦いを遊びとでも思ってる奴が大半でなければ人は集まらないのでは?と。
(それだけ戦い好きな奴が多いってことなのかな)
自分も好きだが死にたいとは思わない。大金を得られるが怪我を負えばマイナスになることが多く、欠損でもすれば最悪。凄腕だったアランですら足をやり、門番になっている。
知り合いが死ぬたびに割に合って無さすぎないかと疑問が噴き出してくる。
「弱気になってんのかな俺」
レグナードとかサブサブロとか凄い奴らに出会って自信を失ってるのかもと気合を入れなおして外に出たユーリ。そこで見覚えのある赤い頭を発見した。
「あーユーリ発見したであります!」
誰これ。俺の知ってる幼馴染じゃないと口元を引き攣らせるユーリは匂いに気づいた。
「酒臭っ!お前飲まされたな。気を付けろよ持ち帰られるぞ」
「はい!キャスカ大人の階段を上ります!」
これは酷い。記憶があったら噴死しそうだ。フラフラして歩け無さそう。しょうがないとおんぶの体勢となる。
「ほらもう帰るぞ。俺らは明日も予定があるんだ」
「んー」
普段なら絶対嫌がるのにちゃんと乗った。店員に挨拶はいいだろうとキャスカを背負ってユーリは宿に帰還した。
朝。アホほど寝て眠いと目覚めたユーリは欠伸を一つ。横にある赤い頭の存在に少し安堵とする。そういう関係じゃないが節約のために彼らは同じ部屋に泊まっていた。相棒から聞こえたうぅっという呻き声に苦笑する。
「二日酔いって奴か?飲まされすぎだ。マジで気を付けろって」
返事が無い。チラッと見て彼女が震えていることに気づきユーリは慌てた。
「キャス!?」
覗き込めば顔面が真っ青。ガっと手を掴まれそれだけで彼は何が起こったかを察した。
「また見たのか」
「うん、ユーリが別人になってそれから私の中に誰かが入ってきて……私達が消える」
えづきそうになった彼女の背を摩る。ある日を境にこの夢を見るようになったキャスカ。ユーリは馬鹿にしない。そういう性格じゃないというのもあるが彼自身もそれが起るという確信があったから。
そう、自分たちには強くならなきゃならない理由がある。
「キャス落ち着いたら冒険に行くぞ。どんな奴だろうがぶっ飛ばせるくらい強くなる」
「うん」
「ユーリ声が聞こえたの」
「声?」
「何を指している言葉かはわからない。でも確かに器って言ってた」
ペルシアに存在する二組の英雄。彼らは奇しくも同タイミングで同じ言葉を口にしていた。




