15.【鳥】アタイ達は絶句した
「アンタ……男に嘴サスサス要求するとか……」
「ちがっ俺は姉貴を救おうとっ」
「あんなに気持ちよさそうにしてたのにさね?」
「ぐっ」
ホント何年振りかってくらいの姉弟喧嘩。弟者と嘴サスサスの件で喧嘩になった。あの人モドキの手はヤバい。あれはゴッドハンド、鳥殺しである。昇天しそうになる。邪魔しにきた弟に怒りが湧くほど……。
いや、助けにきてくれたのだ。そう信じよう。奴の使役魔法が強力過ぎるためと。
「悪かったさね。アタイ……気が立ってるさね」
「いや姉貴は悪くねえ。悪いのは全部アイツだ」
そういって羽ばたく弟者と共に町の門番と喋ってるアレを見る。
「マジで正気じゃねえ。アイツ人間じゃねえんだろ?万といる敵の中にあんな俺でもわかる馬鹿みたいな変装で真正面から突っ込んでやがる」
「堂々とした動き。勝算があるさね。あれだけの魔術師、アタイ達には想像もできない緻密な計算のもとに動いてるに違いないさね」
「俺達使役した場面とか行きあたりばったり感ハンパなかったけどな」
確かに……それはアタイもそう思う。スッと羽で首に巻かれたスカーフを触る。超可愛い。触っただけで付けられた時を思い出して心がトゥンクする。違う。これは奴隷の首輪。あれは悪者なのだ。良い方に考えてはならない。
「どうする姉貴?このまま逃げるか?」
「前も言ったけど無理さね。使役された魔物は主人から離れるほど魔素を必要とするさね。今、逃れたとしても徐々に弱って死ぬさね」
「じゃあ、アイツは俺達を自由にして勝手に自殺しろってかっ。悪魔かよ」
「アレはアタイ達に首輪をつけた。飼う気はあると見ていいと思うさね。アレの指示通り拠点とやらにいくさね」
「ああ、悔しいが場所がわかる。これが使役って奴かよ。姉貴、死ぬときは二匹だし逃げる時も二匹だ」
「ホント弟者はシスコンさね」
「なっ!?違えよ俺は家族を」
「はいはいさね」
「マジでちげえって聞けよ姉貴っ!?」
バサバサっと飛び立ち。アタイ達はアレの言う拠点に向かったのだ。
◇◇◇
「なっ何だよこれ……」
アタイ達は絶句した。それは想像絶する光景だった。空白の大地からやや手前に寄った場所。境目であり緑はあるものの本来何もない場所。そこに楽園が生まれていた。草花は実り、川のせせらぎが聞こえ、鳥たちの囀りが聞こえる。豊かとされる人間の領土でも見れない大地。何よりも
「トレント……何て数さね」
最弱とされるトレント。しかし、この数はヤバい。“千を超えて”いるのではないか。木が蠢いている。
「エルーグルがここに何の用だ?」
現れたのは白いトレント。その身から迸るマナに衝撃を受ける。これほど強いトレントなど初めて見た。
「ふむ、弱い者には見えぬ結界が張られておる。そこまで強者には見えぬがのう」
「なっ」
声が聞こえた。私達が止まっている古木から。慌てて飛び去ろうとしたが蔦によって捕らえられアタイ達は地に転がった。
「ぐっ何すんだてめえら」
「何をするだも何も侵入してきた者を捕縛するのは当たり前なことであろうにヒョッヒョッヒョ」
「キテンの言う通り。主様の留守を預かる者として何人たりとも侵入を許す訳にはいかない」
「可哀想だが殺すしかねえんじゃねえか?飛べる奴に場所を知られたんだ。なあ、ツリー」
「キトゥエお前はいつも乱暴すぎる。主様は争いを好まぬお方だ」
「はっどうだかな」
「ツリーよ。そこの者達から主の匂いがするのは気のせいかのう」
「本当ですか?このスカーフでしょうか?」
シュルリと伸びてきた蔦がアタイのスカーフを取り去った瞬間、ブチっとアタイの中で何かが弾けた。
「触るな……それはアタイのだっ!!返しな。殺すよ」
自分でも驚くほどの力が出てトレント達の蔦を払い解く。
「なんとっ」
「あっ姉貴?」
「え?」
身から迸るマナに自分で驚けばキテンと呼ばれていた古木が大笑いした。
「ヒョッヒョッなんじゃ我らが同胞か。紛れもなくこれは主の魔力じゃ」
「おおおこれは失礼を貴方も主様の配下でしたか」
「へ?」
「それで?今主様はどこに。いつ頃帰ってこられると?」
ズイっと白いトレントに迫られアタイはタジタジと引いてゆく。
「すまぬ、限界が近いんだ。どうか教えて欲しい」
「限界?」
「ちょいと増やし過ぎてしもうて入りきれなくなってしもうてのう」
漸く事実に気づき弟者と共にあんぐりと口が開いた。アタイ達が森だと思っていたものその全てがトレントであった。
「名付けて頂ければよいのだが」
「姉貴やっぱあれ……変態だって」
反論できない。トレントが万を超えている。そしてその数を使役することに配下が何の疑問も抱いていない。
そんな存在あり得るのさ?いや、もしあり得るのだとすればそれは魔王。そして彼は今単独で人の領域に入っている。狂っている。アタイはとんでもないお方の配下になったことを理解したのだった。
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