146.【俺】骨折をする
敢えて多くは語らないが松葉杖での登校。休みだいでぇすと土下座したが母に秒で却下された。この世無常なり。バスに乗ってホッと息をつく、暫くすると親友の弥彦が乗ってきた。彼の姿を見て俺は悟った。頬に猫に引っかかれたような三本傷。向こうも俺を見て悟ったようだ。スッと座る。
「なあ、いち」
「ん?」
「女の子出来たらさ、男の友情終わるっていうだろ?」
「ああ」
「だからさ敢えてだよな」
確かにその通りだと俺はふっと笑った。
「そうだ、敢えてだ。モテてないってことじゃない。俺達は硬派なのさ。猿、どうやら俺達の友情――」
「――永遠に続くなイチ」
いや、永遠に続いたら一生童貞なんですけど。ちょっとモヤったが拳を出してきたのでトントン・トントン・トントントン・アデュっと連続友情タッチを行った。
もうアデュってなんだよとか絶対考えちゃいけない。
◇◇◇
「最上君だっ!?大丈夫」
松葉杖姿の登場に心配してくれたのは我らが天使、高瀬彩。陸上部に所属するため肌はちょっと焼けていて健康的。細くしなやかな体を持つ茶髪美人。性格も良くクラスの人気者。改めてお嬢様方と触れ合って思ったが、席がお隣さんという幸運がなければこう気軽に話せる関係には絶対ならなかっただろう。
デュアルミッシュのお陰でもある。ありがとうデュアルミッシュ。俺を配信者として成り上がらせてくれ。超人気配信者とかなったらどうしよう。まあ、流石にないか。
「大丈夫大丈夫、軽く骨折しただけだから」
中学の時も怪我してないのに包帯巻いたりした俺だが、やっぱりちょっと怪我してる俺?カッケエって感じる。この女子から心配されるのもポイント高い。この感覚って男だけなのだろうか。いや、もしかして俺だけなのか。
すっと弥彦が会話に入る。
「なあイチ、今日も昼売店いくよな」
「そうだな」
「ねえ、その足だと治るまで一階まで行って降りてって大変じゃないかな。お昼ってすっごく混んじゃうし」
「まあそりゃキツイけど基本売店だしな。我慢するしかないって」
面倒だがこればかりは仕方がない。俺は成長まっ盛りの男子高校生。食わなきゃ死ぬのだ。何か言いづらそうにもじもじした高瀬さんは意を決したように顔を上げた。
「じゃっじゃあ!提案なんだけど」
「ん?」
「私が最上君のおっお弁当作ってあげようか?」
「え……」
パードゥン?これってリアル、それともアンリアル?俺の耳壊れた?こんなことってこの世ありえるの?この世界、ライトノベルなの?兎にも角にも浮かぶ疑問を全て消し飛ばすほど頬を染めて目を逸らす高瀬彩の破壊力がヤバい。
「あっ他意はないっていうか。ほっほら私毎日自分で作ってるし一人分も二人分も労力変わらないし、もっもののついでっていうか。おっお金も払って貰うし」
俺は読者達から耳付いてないんじゃね?こいつ目見えてないだろと罵られる勘違い系物語の主人公とは一線を画す男。これで一切好意ありませんなんて勘違いは犯さない。
これはモテ期。人生に一度起こるか起こらないと言われる現象を俺はこの青春期に手繰り寄せたのだ。まさに一生涯のチャンス。ならば迷うことなど……
「イチ」
トンと背後から肩ポンされた。振り返ると真顔の猿が拳を出している。これは友情タッチの合図。だが、俺は──。
「っ!?」
顔を逸らし、すっと掌底でその拳を押し戻した。
(すまねえ、猿。だがこのチャンスものにしないわけにはいかねえんだ)
「いちぃいいい」
「あっマジで!?お願いしてもいいかな」
「え?うん、私が言い出したことだし全然いいんだけどあの……猿飛君が拳突き出して後ろで叫んでるんだけど」
「高瀬さん、それは幻覚だ。極力見ないように。それでお金なんだけど多めに」
「え?それは悪いよ。ホントについでだから気にしないで」
ガスガス後ろから椅子を蹴られてるが俺は怯まない。この日俺達は男の友情の儚さを学んだ。捨てる神あれば拾う神あり。でも、それでもこの世は無常なのだ。
しかし、なんだって高瀬さんは俺なんかを気にかけてくれるんだろう。自分で言うのもあれだがマジで凡人でアホだぞ。嬉しいけど謎である。




