131.【白銀連盟】察しだす女性陣
白銀連盟のイミール、レナ、パイネ+メルカトル魔導大国の学生ライザ、エリー、は完全にスパーダにある現代施設の虜となり馴染んでしまっていた。
「イミール、漫画とって」
「ああ、これか。読み終わったら私にも貸してくれレナ」
「オッケー」
PTリーダーであるイミールはチラっと周囲を見る。エリー、レナ、パイネ、ライザもそれぞれが娯楽品に夢中になっている。
「平和だな」
こんな日々がいつまでも続けばいいのにそう微笑し、新しい漫画に手を出そうとした瞬間、ハッとして女剣士イミールは立ち上がった。
「いやっ!違う!何だこれは」
「何よ急に大声出して」
「前回もやった気がするぞ。何故こうなる」
「諦めなさいって、ここにあるものが中毒性が高すぎるのよ。まさに人を堕落させる部屋ね。アイツ私達を飼うつもりよきっと」
「かっ飼うだなんてそんな」
「何で照れてんのよ。冗談よ。でも、いっそ国外に逃げるとかせずここにいた方が幸せなんじゃないかしら」
「そっそれは駄目だ。彼にこれ以上の迷惑は掛けられん」
そう言うイミールにレナは窓の外を見る。
「迷惑かしら。住人集めてるみたいだし残るって言ったら案外喜ばれるかも知れないわよ」
住人?と首を捻ればレナは肩を竦めた。
「明らかに町を興すつもり、サブカル教を引き入れたのがその証拠。よく分からない宗教だけど信者だけは多いから」
「町を興す?まさか壁に囲われたここでか?何のために」
「魔物と人間の町を作るため」
学園組エリーの答えにイミールはギョッとする。
「は?」
「でしょうね。私もそう思うわ」
「!?ちょっと待て!お前まで何を言ってるレナ」
「アイツの魔物は指示に従い、死なないように手心も加えていたわ」
「いやそれは彼がテイマーで従魔だからだろ」
そうイミールが答えればレナはハァーとため息をついた。
「貴方って戦闘になると途端、視野が狭くなるのよね。バワンと大福以外首輪ついてなかったわよ」
「なっ!?」
首輪はテイマースキルの増幅装置。それなくして細かな指示を出すのは難しい。ましてや──
「もっと言えばアイツはその場にいなかった。完全に掌握、いえあれがあの子たちの素なんでしょうね。イミール、申し訳ないんだけど私もう冒険者には戻れないかも知れない」
「急に何を言って――」
「魔物は人類の大敵。打倒すべきものだって教わってきたわけだけど、彼らも満たされていたら襲ってこない。ううん寧ろマナを独占している人側の方が……」
「レナ、それは危険な考えだぞ」
「そうかしら、だったらイミールは今からあの子達を殺せる?」
「どうしてそんな話になる!」
「だって従魔の首輪をつけていないものは討伐対象よ。別に私は襲ってくるものに対してまで攻撃してはいけませんなんて柔な事を言うつもりはないわ。でも、今の冒険者制度では共存可能な子達も関係なしに攻撃してしまってる。殺せるとは思うけど、あの子達の姿が過ってきっと動きが鈍る。命のやり取りでその隙は致命的。そんな状態で冒険者でやっていくのは厳しい……私も貴方も」
ぐっと呻くもイミールは首を振った。
「100歩譲ってサブサブロ殿の目的がそれであったとしよう。だとしてそんな彼に付いてゆくのは茨道どころではない。そんな言葉が今の世で利を得る者達に届くものか。賛同する者をどれだけ集めたところで、揃って大敵。格好の的にされ、世界中の国々から引き潰されるだけだ」
「サブサブロはダンジョンマスター、彼ならできる」
すっと此方に来たパイネ。
「ダっダンジョンマスターだとっ!?」
驚くイミールをよそにパイネはハンマーを取り出した。
「彼が作ったハンマー、弟子になって貰った。私のお師匠よりも上。ジョブがないと不可能。でも、彼はテイマー。だから複数持ち確定。でも英雄じゃない。この不自然な空間は彼が迷宮だとすると説明が付く」
「空があるのに迷宮なのか?」
「あれ幻影魔法みたいな何かよ。風がないもの」
貴方もエルフなら気付いてるわよねと学生組に視線を送り、エリーが苦笑した。ちょっと気づくのに遅れたレナだったが内緒である。
「ダンジョンマスターが人類にとって敵か味方か分かりません。それでも私達はここにいさせて頂こうって思います。私達だけならいいのですが周りに迷惑を掛けてしまいそうで。勿論、サブサブロさんにもですが助けていただいたご恩もありますし何とかお手伝いして返していきたいなって」
「エリーの言う通り。恩は返さないと。それに英雄の勘が言ってるんだよ。ここにいた方がいいって」
エリーとライザは何かそれっぽいこと言ってるが、彼女達の手には少女漫画がひしりと握られていた。ふぅっと息をつきイミールは軽く天を仰いだ。確かにこの続きを読めなくなるのはきつすぎると。
現代の娯楽、それまさに麻薬なりけり。




