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118.【俺】デイジー鹿島と遭遇する

 少々やり過ぎな気もするが仮病を偽って保健室へ。有栖川さんから射殺すような視線を向けられて実は結構メンタルにきている。お嬢様怖い。左右確認、保健室に続く廊下へ辿りつきホッと息をつき、待ち伏せていた人物に息が止まった。


「げっ」


 (くだん)のお嬢様がそこにいた。腕を組んでカーペットの上に立っている。カーペット長っ!?じゃなかった。やっぱり俺かよと顔を(しか)める。


「逃げるということは察していたということ。庶民なので愚鈍かと思いきや。まあ多少見る目を持っているじゃないですか。ふふっ有栖川夜花の彼氏さん」


 ん?と首を捻る俺を品定めするように新たなるお嬢様がジロジロと見る。


「まあでもこれがあれを射止めたとはね。有栖川も随分とご趣味がお悪いこと、くふふ」


 what’s?


「さてこのような場所に余り長居はしたくありませんし本題とまいりましょう。最上一郎、今日訪れたのは他でもなく貴方「ちょっと待った待ってくれ」」


 遮って申し訳ないがこの盛大なる誤解は何としてでも解かねばならない。


「誰だか知らないけどアンタは誤解している。俺と有栖川さんはそういう関係じゃ」


「あーあーいいですいいです。そんな誤魔化し」


 いやだから誤魔化しなんかじゃと一歩前に出ようとした俺を新たなるお嬢様が手で止めた。


「それに1000歩譲ってあれと貴方が恋仲でなかったとしてもよいのです」


「へ?」


「あの有栖川夜花が興味を見せた男。それだけで一大スクープですから」


 不味い。ようわからんがえらいことになってる気がする。呆ける俺に畳みかけるように懐から白い封筒をお嬢様が取り出した。


「最上一郎、一週間後白百合で学祭があるのはご存じでしょうか?祭りごととはいえ、白百合は男子禁制。ですが私の独断で貴方を招待することとなりましたの」


 女の園へのご招待。猿なら飛び跳ねて喜ぶだろうが、俺は世界一行きたくない。ここは全力で遠慮──


「辞退するなんて思わないことです。私はデイジー鹿島、白百合学園理事の娘。つまりは権力者。九十九学園の理事長とも仲良くさせてもらってますの。断らないことをお勧め致しますわ」


 思わず固まればその肩をポンと叩かれた。耳元で(ささや)かれる。


「ではごきげんよう。待ってますわ最上一郎」


 女の子とお近づきになってるのに欠片も嬉しくない。退避する意味がなくなったのでトボトボと戻ると仮病バレし担任にしこたま怒られた。ホント厄日だ。


◇◇◇


「なあ奈々」


 学校から帰って妹との夕食。母さんがいないので俺が適当に作ったカレーをムシャりながらネットテレビに夢中になった奈々に聞く。


「んー今いいとこなんだけど」


「女子がさ男に殺気を飛ばす時ってどういう時?」


「二股された時」


 ちょうど飲んでいた水を吹きかけた。


「ごっぼごほ、だからあれはそういうんじゃねえんだって!どっちも付き合ってねえから」


「だとしても連続は拙かったんじゃない?イチ兄の恋愛事情とか欠片も知りたくないけど、女の子が興味すらない人に怒ったりすることって基本ないよ」


「いや、ありえないって。それに仮に百歩譲ってそうだったとしても続けて女子と遊んだって別にバレたわけ……」


 ハッとして俺は駆けだした。もしかして俺は盛大な勘違いをしていたのではないかと。つい俺は有栖川さんがスマホを見ていたと思い込んでしまったがその視線は別のものに向けられていたのでは……


「マジかよ」


 ちょうどスマホがあった位置。そこに高瀬さんの髪の毛が落ちていたのだ。高瀬さんもいつの間にベッドに乗っていたのか。


(まっまさか原因はこれなのか!?)


 これは保管……じゃなかった。だとすればヤキモチ。有栖川夜花は本当に俺の事が好きってことになる。いや、でもだからってあんな目向ける?嫉妬深すぎない?それとも俺がおかしいの?女の敵なの?俺。


 どうやら追ってきていたらしい。奈々がすっと俺の手から髪を抜き取った。


「やっぱり、これは前の子のもの。イチ兄、女の子ってね男よりずっと細かく見てるの。どう付き合うかはイチ兄の勝手だけど、女の子を泣かせたら私許さないから。そして最後に一つだけ愚かな兄にこの世の理を奈々が教えてあげる」


 本日三回目の耳打ち。息が掛かってぞくり。何この伝え方流行ってんの?


「男女の友情は成立しない」


 ボソッと、ドヤ顔で去ってゆく我が妹サブ子。俺の妹がちょっと大人になっている件について。ってか絶対あの情報源ネットドラマからだろ。しかし妹の言うことにも一理ある。だがだとすると……俺は自らが達した結論にわなわなと震えた。


「まさか本当に俺はモテているのかっ」


 正直、信じられない。自分で言うのもなんだがカッコいい瞬間がない。惚れられる要素なんて──


“熱すぎてちょっと最上カッコいいとすら思っちゃった。キスしてあげたくなっちゃったくらい”


 今朝のバカップルの片割れ、ギャル峰岸心愛(みねぎしここあ)の言葉が頭に響き、俺は雷に打たれたかのようにハッとした。そういうことなのかもしれない。


「実況者はモテる」


 妹にしてこの兄あり、俺は誰もいないところでドヤ顔となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久々に面白い作品に会えました。 続き楽しみにしてます!!
[一言] ないわーw 百歩譲ってもモテるのはサブサブロ。
[良い点] ここあって名前今多いんだよねー 10数年前に大量発生した年があったから…今中高生くらいだなあ
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