EX.200万PV記念SS『ペルシア住人の会話』
【アラン】
「ねえ、アラン。非常に言いづらいんだけどあのリーデシア兵と仲良すぎじゃない?」
同僚のポールにアランは欠伸をかましつつ応える。
「んー旦那はいい奴だからな。俺を気遣って装備をくれる。噂ほど悪い奴じゃねえよ」
「いや、そうじゃなくて……まあいいや」
ぼんやりと立つ二人。やっぱりペルシアの門番は暇なのである。話題などとっくに尽きておりやっぱりサブサブロの話になる。
「サブサブロさんって結局なんでこの街に来たのかな」
「さあ、そもそもがよくわからん人だからな。ただ鍛えるためってのはあるかもな」
「鍛えるため?」
「始めは実力を隠してたと思ったが冒険者どもの話を聞く限りかなり修練を積んでるらしい」
「こんな田舎で?あんまり強くなくて左遷されたとか?」
「いや、尋常じゃない速度で強くなってるぞ。それは旦那のランクを見れば明らかだ。もうDソロでCにも届く。シアラ嬢の話じゃ絶対Sに行くっつってたしな。隠してなきゃ驚異的な成長速度だ」
「何だか勇者みたいだね」
「あん?勇者?なんだそりゃ」
「御伽噺であるんだよ。英雄の中で魔王討伐の任を受けたのが勇者。気取られないために身分を隠し、ひたすら強化の旅に出るんだ。何だかほら似てるなって」
「いや、だったら魔王が復活するって話になるんじゃねえか」
「あっ」
「ないない、魔王なんざここずっと出てこねえんだ。もう奴らも絶滅したんだろうよ。皆いたことすら忘れちまった」
そう言ってプラプラ手を振って去ってゆくアラン。その腰に刺したサブサブロから贈られた剣を見て何だかやけに邪悪なデザインだなとポールは思ったのだった。
【看板娘リン】
「はぁ……」
仕事中なのに溜息が出てしまうと窓を拭くリンは暗い顔をする。仲良くして貰っていた白銀連盟の皆が死んでしまったらしい。いや、それは信じていない。きっと生きていると思っている。
そして何となくあの兵士さんのところにいるんじゃないかって。勘だけど、あれから泊まりにこなくなったし。拠点にする場所が見つかったんだと思う。
「おお、ここに居たかリン。また客が来る。出迎えてくれ」
父ドルコのにやけ顔。宿屋ポーネルはちょっとだけ繁盛している。その理由は……
「くっく宿り木邸がやらかした。毒を盛られたんだ。利用する客が流れてくるぞ」
「お父さん、人の不幸を喜んでるとバチ当たるよ」
「馬鹿言え、利益を求めるのが商売人だ。早く準備してくれ大忙しだぞ」
駆けてゆくドルコに絶対いつか痛い目みるんだとリンはジト目を送る。そういえばと棚から台帳を取り出した。そこに記されたまおーさぶさぶろの名前。
「まおーって名前なのかな?」
【プラム】
私達、Cランク冒険者は敗北した。ギルドマスターの命で今回のことは無かったことになった。抱えるトップ冒険者達が魔物、それもトレントに敗北したなど恥だからだ。責任はレグナードがとってくれた。
彼の指示とはいえ、私達は何もできなかった。まさかグレーターウルフに乗ったゴブリンがあれほど厄介だとは思わなかった。
魔王が恐れられていた理由がよく分かる。あれ?もう魔王なのでは?
「レグナードの話によると森の精霊って話だったけど」
王家と精霊は関係あるって話は聞くけど庶民である私達には正直よくわからない。まあ私が考えても仕方がない。今日も歌の練習をしようとサブカル教会に向かった私は閉鎖されていてギョッとなった。
「あれ?」
「おープラムちゃん、どうしたんだい?」
そこへ丁度通りかかった近所のおばあさん。
「あーえっと教会が閉まってて。何が起きたのかなって」
「冒険者がやってきてねえ恨みを買ったのか、滅茶苦茶にされてしまったんだよ」
「クレハさんとミハエルさんは無事ですか!?」
「ああ、その前から教会を出てたっからね。物乞いのような生活に嫌気がさしたんだろうさ」
そうだろうか。どんな状況でも布教を諦めなかったあのミハエルさんが?いらないって言ってるのに教本をねじ込んでくるあの人が折れた?後、冒険者って誰だろう。そういえばケルベックと不落の残りの人が行方不明だと聞いた。指名依頼から逃げ出したせいだろうと皆は言っているけど違う気がする。
「訳のわからない教団だからね。サブカルチャーだのなんだか知らないが食ってはいけないよ。そういえばあのリーデシア兵も団員だったんだね」
「え?」
「ここから出ていくのを見たって人がいたよ。いつも鎧を着て目立つからね」
サブサブロがサブカル教の団員?いや、まあ確かに名前似てるけど。ってことはミハエルさんの部下?ふむっと想像し私はないないと頭を振ったのだ。
【ダンプスト】
「イラつくネ、腹立つネ、怒り心頭だネ」
ペルシアのギルドマスターダンプストは苛立っていた。あのリーデシア兵がきてから何も上手くいかず、手駒だけがどんどん減ってゆく。排除したいがそれもできずに厄介者。恐らくケルベックも死んだ。何せ──
「カアアア」
彼が飼っていた魔怪鳥がここにいるのだから。名前はビバップだったか。まあどうでもいいが。
「煩いネ、お前の主人は死んだ。どこへなりと勝手に消えるネ」
まるで言葉が分かっているかのようにバサバサと飛んでいった青の魔怪鳥の姿を見届け、魔界鳥かとダンプストは報告書を見る。
不幸中の幸いだがあの王子レグナードに責任を押し付けることができた。あれにデカい顔をして貰っては困るのだ。あー邪魔者ばかりネと頭を毟るダンプスト。
そして気になるのはゴブリンライダーの後ろにいたとされる魔怪鳥の存在。サブサブロもバワンという鳥を飼っていたが……。
別個体。報告通りなら奴はケルベックと戦闘状態だったはず。流石に関係があれば何でもできすぎるかと閉じてしまう。万が一あっても関わりたくないという思いが強い。不落は分かるがなんだってケルベックもあれに拘ったのか。
先の失敗によりダンプストの立場は危うい。今回のことはもみ消すしかないとそのまま放り投げてしまった。レグナードによれば魔王復活の兆候ありとのことだが。
「ふっ魔王など出てくるわけないネ。それに出てきても畏れるに足りないのネ。AランクにSランクとどれだけの冒険者が育ってると思ってるのネ」
エルダイン人である彼はフラグという言葉を知らないのである。
200万ホントに感謝です 二人三脚で走り続けて欲しい




