11.【俺】魔界鳥エルーグルと出会う
トレントのいない旅。相変わらずローリング移動だが後ろを気にしなくていい分快適だった。ただ、いないとちょっと寂しさはある。早くちゃんとした拠点を作りたいものだとボタンを連打する。
「できれば人里までいきてえけど」
兎に角、世界観を知りたい。そのためには人と出会うのがやはりセオリー。ただ俺は見た目が人なものの魔王なのでいきなり襲われたりしないかが心配だった。
「魔王選択で人と関われねえとかだと正直しんどいな」
やっぱりゲームでも文明に触れたいものなのだ。
「ん?」
相変わらず生物が出てこないが影が差した事に気づく。天を仰げば青空の上で大きな鳥が二匹縦横無尽に羽ばたいているのがみえた。そして今更気づいたがどうも時間はリンクしていないらしい。いや、もしかすると現実とゲームで昼夜逆転しているのかもしれないが。
「アイツらは配下になったら周囲探ってくれたりしねえかな?」
思いたったら即行動。使役もどこまで届くか試していなかったと片腕を鳥の魔物に合わせた。
「使役」
ビクッとした前を飛んでいた鳥が墜落した。
「届いたっ!?」
が、思いっきり地面に落ちた。死んだかも知れないと俺は落下地点に急ぎ駆ける。いた。そして生きている。オレンジ色の鳥がギョッとした表情で此方を見ている。使役によって動けないのか何故かセクシーポーズだ。
「凄いなモーションが豊富だ。ホントに生きてるみたいだ」
「フルッフゥウウ フルッ フルッフウウ」
「鳩かよ」
いけない。予想外の鳴き声に思わずゲームに突っ込んでしまった。近づこうとしたらもう一体が降りてきて庇うように俺と鳩鳥の間に立った。同じオレンジの鳥だが前のより一回り小さいか。
「クワッ!」
「アヒルかよ そこは統一しろよ」
いけない。また突っ込んでしまった。というかこのゲーム始めてから独り言がヤバい。気を付けないとであるが……ツッコミどころ満載のこのゲーム。大阪の血が流れる俺には口を噤むのは無理かもしれない。
「っと」
動ける方の鳥が襲い掛かってきた。嘴や羽飛ばしというゲーム的な攻撃。結構鋭く被弾してしまった。切りかかると回避される。
(これだこれっ!これこれ!)
歯ごたえがある敵に高揚する。
「しゃっ!!」
「グワッ」
ゴンっと斧がモロに入った。ただアヒルの鳴き声はホント気が抜けるので止めて欲しい。どうやら血はでないようだ。魔物鳥はフラフラしながらも立ち上がり、俺をギロリと睨みつけた。
「おっお前気概があるな」
いいぜ、掛かってこいよといいたいところだがちょっとどうしようと思う。HPが既にレッドゾーンなのだ。恐らく次攻撃が入ればこいつは死ぬ。チラっと俺は未だ足を流して寝そべる鳩声の方を見る。
(一匹いるからこいつはいっか)
経験値になるしと斧を振り上げた瞬間、鳩が叫ぶように鳴いたため俺はビクリと止まった。気のせいか悲痛なものに聞こえたのだ。いや、フルッフウとしか言ってないけども。
「何?お前ら友達的な?」
バっと再び前に立つ小さい体のアヒル声。よく観察すればお互いを気にし合うモーションが設定されている。仲間思いみたいな特徴がある鳥なのかも知れない。
「んー」
ちょっと悩んだがゲームでも後味が悪いかと俺は腕を伸ばした。
「しゃあねえな。お前も使役っと」
ビクンっとしアヒル声もセクシーポーズになった。怯えているのは気のせいか。まるで喋っているかのようにクワクワ・フルッフフルッフと鳴き始めて糞煩い。
「あー五月蠅え五月蠅えお前ら」
≪使役した魔物に名前を付けて下さい≫
「じゃあバードワンとバードツーで」
配下は滅茶苦茶増えそうなので基本この名付け方でいくとトレント1000体名を与えた時に俺は誓ったのだ。これでいくと思ったのだが……。
(こいつら探索とかできるなら結構呼ぶことになるんだよな)
トレントの時も思ったがこれではちょっと長くて呼びにくい。そこで捩って縮めることに決めた。
「よし!やっぱ鳩のお前がバワンっと。んで、アヒルがバッツっと」
喜んで貰えたかは分からないがキョトンとしている。エモートを使って撫でてやればクワクワ、フルッフフルッフと応えてくれた。
「そうかそうか嬉しいかよーしよしよし」
このゲーム、魔物の動きが多く設定されているので反応があって面白い。エモートを駆使してモフモフしてやる。気持ちいいのだろう。幸せ過ぎてぐったりしている。
《魔界鳥エルーグルは鳥探索・索敵を行うことが可能です》
「おおお!ラッキーってかお前ら名前カッケェな」
まさかの睨んだ通りの能力を持っていた。まあ飛んでる配下なのでできないとおかしいがちゃんと可能で有難い。じゃあ、早速行ってきてくれと俺は人里を設定し二匹の魔界鳥エルーグルを送り出したのだった。