105.【俺】陰キャ戦法を披露する
「面白いお母さんだね」
考えうる最高のフォローをありがとう高瀬さん。心で礼を言いながら俺は自室の扉を開く。
「どぞ、適当に座ってくれ」
「ありがと。へーここが最上君の部屋」
何もないのでキョロキョロと見られると恥ずかしい。ベッドとモニターと勉強机。まあ普通の高校生男子の部屋だと思う。
「綺麗にしてるんだ」
いや、馬鹿ほど掃除した。やって良かったとホッとしていると高瀬さんがゲーム棚に向かう。
「凄!最上君、ホントにゲーム好きなんだね」
「VRMMO機器がないからレトロ方面だけどな」
「VRMMOも面白いけど私も昔のゲーム好きだよ。で、これがあのデュアルミッシュと。ってえ゛?」
パッケージをとった高瀬。何故に驚いた声と覗き込むと失態。値札が張ったままだった。まあ取り繕っても仕方がない。
「あーそうそう10円。レトロだからセールしてて偶に掘り出し物あるんだよ」
「それ探すの楽しそう」
「まあでも正直俺もここまで当たり引いたのは初めてかな」
「デュアルミッシュって最新ゲームと遜色ないくらい凄く綺麗だよね」
「チャンネル名でも書いてるけどマジで正体不明なんだよな。かなり面白いけどビビるほど知名度ねえし、検索しても名前すら出てこない。まあオンラインゲームじゃないし危なくはないはずだし」
そこでコンコンとノックが鳴って返事すれば母が入ってきた。来るの早っ
「どうぞ、ミルクティーと鯖の味噌煮です」
絶望的な組み合わせのおもてなし。間違いない母は気が動転している。
「あっ……ありがとうございます」
ビっと指を立てて母は去っていった。鍵閉めたいと思う。
「面白いお母さんだね」
考えうる最高のフォローありがとう高瀬さん。
デュアルミッシュの電源をオン。隣に誰かいる状態は初めてなので緊張する。あっいや妹も見に来たっけか。まあ奈々はノーカンということで。ゲーム機が立ち上がってロゴと音が鳴る。
「何か懐かしいな。PG5のこれ。私、久しぶりに聞いたかも」
「まあ皆VRMMOに夢中だしな」
俺がコントローラーを握り込むとトントンと肩を叩いてきた。そして近い。ドキッとするからやめて欲しい。
「最上君もしかしてこれ配信はしない感じ?」
「え?だって人少ないっつってもクラスの奴見てるかも知れないし、アーカイブ残るから万が一声入って邪推されたら高瀬さんが嫌だろ?」
「私別に気にしないよ?それにいいところやってくれるんだよね?だったら皆と共有したいかも」
会話し辛くなるのは残念だが、お言葉に甘えて配信することにする。
「まあでも途中からにするよ。紹介したいものもあるし」
「うん」
折角なので飛ばさずオープニングを流す。綺麗な風景に高瀬は見入っていた。彼女がゲーム好きというのは本当なのだろう。眼の色で分かる。
「凄い綺麗。配信でも見たけど昔のゲームとは思えない」
「だよな」
「いつか」
「ん?」
「いつかこんな世界をVRMMOで遊べる日が来るのかな」
どうだろう。ここまでのものは相当先の話になる気もするが科学技術が鈍化したとはいえこっち方面の進歩は計り知れない。きっとそんなものが市販されてたら俺は廃人になるまで嵌りこんでしまう自信がある。いつかその時代に生まれるであろう人を俺はちょっとだけ羨ましく思う。
◇◇◇
デュアルミッシュを立ち上げ、途中からを選択すると高瀬さんが気づいた。
「データー3つあるんだ」
「ああ、高瀬さんもやるか?」
「いいかな私は見てる方でって教会?」
始めた瞬間、いきなり教会で俺もビックリした。
「そういえば、町で落ちたらこっからになるんだっけか」
「誰もいないね」
ミハエルとクレハがスパーダにいるので誰もいない。これ経営とか大丈夫なんだろうか。ってか謎宗教やってたがアイツら普段何やって食ってたのか。まあ、ゲームなので流石にその辺り描写範囲外か。
【サブカル教内部】
「変わった名前だよね、サブカル教って」
「多分、これ海外のゲームだと思うんだよな。で、翻訳適当な感じ。変なワードちょくちょくでてくるし」
「成程」
とりあえず外に出る。配信で散々見たと思うのでペルシアの町は軽く見せて、俺はスパーダに飛んだ。
「ホントリアル。私こんなAI見たことないかも」
「でも、最新式だともっと凄いんじゃねえかな。VRは予算掛かり過ぎるからAI落としてるって聞いたことあるしな」
さて、数日だがスパーダもちょっと変わった。新たに得たトレントマナで色々と新設備を設置したのだ。魔物の家とか、橋とかモニュメントとか。いよいよ都市っぽくなってきた。まあ魔物の数が少ないのでガランとしているけど。
混沌ルートを選択したしスパーダは緑溢れる人と魔物の楽園にするのが理想。なので、極力人と融和を図りたいと思ってる。無論、敵対する者には容赦する気はないしやってくる冒険者は養分にするけど。
(完全に共栄させられたら凄そうだよな)
スパーダの最終形態をもう俺は頭で思い描いていた。
「滅茶苦茶可愛くなってる。これ最上君が作ったの?」
「ああ、つっても俺は設置しただけだけどな」
正直言うと配置にアホほど拘ったので嬉しい。設計図まで描いたのだ。この努力が勉強で使えたらきっと俺は成績上位者だろう。
「あっ生大福ちゃんだ。可愛い」
ピョンピョンと跳ねる大福がサブサブロを見つけると一瞬で頭に飛び乗った。するとどこからともなくバワンも現れ、競うように肩に降り立つ。
「最上君モテモテだ」
「相手魔物だけどな」
高瀬さんに魔物達を紹介する。ハヤテやツリーやゴブウェイなどもう彼女は知っているけどお洒落装備など身に付けさせたので改めて。バワンと大福は俺の従魔とバレているので使えない。今日は6傑の内4匹が主役となる。こいつらだけで冒険者達を阻むのだ。
やれるのかだって?大丈夫。そのための準備は整えてきた。
「じゃあ早速だけどストーリー行っていいか?」
「勿論、もう配信する?」
「いや前準備は動画にしようって思ってるんだよ俺。生は極力メインコンテンツの時間短めで、全部配信だと俺が楽しめなくなりそうでさ」
それもあるが、ぶっちゃけると長いと編集がめんどくさい。
「まあその辺りは最上君の自由だから。それで準備って?冒険者との抗争だっけ?」
そう魔王眼を使って俺は徹底して、のぞき見し彼らの備えを暴いた。その上で擁立した作戦を今こそ披露する時。
「ああ、相手の冒険者達はこの日のために装備とアイテムを購入した。まずそれをパクるか捨てる」
「え?」
「更に宿も特定したから飯に下剤を混ぜる」
薬師が解放されたのでサブサブロが自作したもの。ミハエルがテスターとなりその威力は折り紙付きである。
「……」
やはり引かれたか。だが、仲間のために俺は修羅となる。そして、軍師俺これしか思いつかなかったってのもある。
「そしてトドメ。騒ぎが起こるタイミングを見計らって奴らの靴を隠し士気を折る」
「魔王とはいえこっ狡猾過ぎない?」
「高瀬さん、俺だってこんなことやりたくない。でも、これは戦争なんだ。決して手は抜けない。やらなきゃ誰かが死ぬ。俺は今回の抗争で可能な限り死者を出したくないんだ」
真摯な顔。ここはもう情に訴え、勢いで攻める。
「最上君……」
「高瀬さん」
「でもやっぱり陰キャ戦法だと思う私」
「はい」
高瀬さんと相談でこの陰キャ戦法は皆の反応を見てマイルドに編集することに決まった。




