104.【俺】当日に緊張しておかしくなる
待ちに待った高瀬さんが家に来る日曜日。後、夜花お嬢様との話し合いも控え、更に加えて冒険者との戦争も待っているというとんでもない日。
緊張して寝付けなかった。歯も磨きすぎて口がぱさぱさだ。女子が家に来る。それだけで高校生にとってはビッグイベントなのだ。俺、最上一郎の夏が始まる。
髪のセットは完璧。奮発して高いワックスを購入した。つけ過ぎず浮かせる。動画で予習済み。俺の顔面偏差値──過去1の決まり具合。
「イチ兄、寝ぐせ凄いよ」
「……」
どうやらおこちゃまな妹、奈々(サブ子)にはこの魅力はわからないらしい。
「ふっ」
と微笑し俺は朝ごはんの味噌汁を啜る。
「何かムカつくんですけど」
「アンタその髪、生きるホウレン草でも目指しとんの」
エプロン姿の母がのたまう。この家の女は駄目だ。何もわかっちゃいない。でも今日の俺は怒らない。明鏡止水。我田引水。多分、使い方間違ってるし意味も分からないが響きがカッコいい。
「母さん、今日家に友達来るから」
「何でそれでドヤ顔やねん」
弥彦が来ると思っているだろう。否、驚くがいい。
「ごちそうさま、歯磨いてくる」
「アンタ何回磨くねん!?」
◇◇◇
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高瀬 :最上君の家って北町の4だよね?
最上 :そうそう。ってか迎えにいくけど
高瀬 :ううん大丈夫。待ってて。自分で行った方が私覚えられるし
覚えられる。まさか既に次回来る気で?これは脈ありか。いや、落ち着け最上一郎。弥彦から借りた恋愛本にも書いてあった。女子のちょっとした優しさで勘違いするな。女の子は繊細だ。グイグイいくと嫌われる。
「グイグイいかない。よし」
最上 :了解。じゃあ待ってるわ
高瀬 :うん、待ってて。すぐ行くから
「くッ」
何故だ。普通のメールなのに文字すら可愛く見える。一生保存しておこうと思う。コントローラーも充電したし、飲み物も用意した。部屋の掃除も終えて、見られて不味いものも隠した。完璧だ。
ドキドキしているとチャイムが鳴った。扉を開けばワンピース姿の高瀬彩。制服と違った姿のせいでより輝いている。やっぱこの子が俺の家に来るとかどうかしてる。ありがとうデュアルミッシュ。あの時、購入を決めた俺。そして全視聴者にありがとう。
「えっと……最上君入っていいかな?」
「あっごめん。どぞどぞ」
いかん。学校だと普通に会話できるのに意識して顔すら見れない。自惚れるな最上一郎。高瀬さんはゲームを見に来ただけ。好意を抱かれていると思うな。少しでも好感度を上げることを意識しろ。
「最上君……申し訳ないんだけど入っていい?」
「あっ」
俺が入り口を塞いでいた。
玄関。小さい女性ものの靴を見て高瀬さんが聞く。
「妹さんがいるんだよね」
「そっ4人家族で俺と奈々の兄妹だな。父さんは単身赴任中な」
「じゃあホントに家と一緒だ。って前に話したよね」
「高瀬も兄貴がいるんだっけか」
「うん、私がゲームに嵌ったのもお兄ちゃんの影響かな。どっちかっていうとプレイするより後ろで見てるの好きなんだけど」
「へー」
「一郎、ご近所さんから鯖貰っちゃ……」
22世紀に鯖を鷲掴みして登場した母。茶化されるの嫌だったから言わなかったが女子が来るって言うべきだった。後悔してももう遅い。ドチャっと鯖が落ちた。ガっと手を掴み、連れていかれてヒソヒソ話を行う。
「どういうこと!?誰や!?」
「言ったろ友達呼ぶって」
「女の子やんか!」
「俺だって女の子の友達くらいいるって」
いや、家に来るような子はいない。マジ幼稚園以来じゃなかろうか。最上家に奇跡が巻き起こっている。
「最上君のお母さんですよね?こんにちは」
「え!?あっこんにちは」
「それであの……汚れちゃうといけないのでその……鯖」
「「う゛」」
母と共に俺は唸ったのだった。




