103.【ペルシア】シアラの恋とペルシアの星
【受付嬢シアラ】
「先輩先輩」
ギルド受付。可愛い後輩の囁きにシアラは気づけなかった。そのためむくれた後輩ちゃんに服を引っ張られてよろめく。
「なっ何!?」
「もうボーっとして!でも分かりますよシアラ先輩。あんなに熱い視線送られたら仕事も手付かないですよね」
「う゛」
そう正体不明のリーデシア兵サブサブロ。いや、受付嬢シアラは知っている。中身が金髪の超絶イケメンであると。そのイケてる男子から見つめられているのだと自覚し、真っ赤に染まったシアラはぴこぴことケモ耳を動かし顔を伏せた。
サブサブロは壁に凭れ掛かって微動だにしない。ガン見である。
(なになに何なの!?)
シアラはダンプストからサブサブロに色仕掛けをやれと命令を受けた。家が貧乏。物心ついたころからずっと仕事で恋愛経験0。なけなしの知識を使って上目遣いしたりとか流し目とかしたりしてみたけど、まさかこんなに効果があるだなんてとイヤンイヤンと首を振る。
(いや、待つのよシアラ。話がうますぎる。もしかしてこれは怒らせてしまったパターンでは?)
だが、だとしたら怒鳴りにくると思うのだ。やはりこれは好感触。
「先輩、絶対あれ先輩のこと好きですよ」
「そっそうかな」
ダンプストから命令を受けた時は最悪だと思ったけど、滅茶苦茶カッコいいなら話は別であるとシアラの頬が緩む。お金も好きだけどシアラは面食いなのだ。
「リーデシア兵なんて玉の輿ですよ玉の輿。絶対お金持ちですよ」
「玉の輿……」
そうだ、冒険者としてまだ駆け出しであっても彼はリーデシアの人。いや待て結婚とか早すぎる。まずデートとかそういうところから始めなくてはならないのではないか。ダンプストの命もあるし、奥手っぽいし、こっちからデート誘わなきゃかも。
(そうよ。ダンプストがやれって言ったんだし)
だが、どう切り出すべきなのか。考えるシアラは先ほど彼から通行証を返して貰ったことをふと思い出した。ここに踏破スピードが記録されるが。見た彼女は、うん?と首を捻って見間違いかなと目を擦る。
(いっいいい1時間40分っ!?でマルタノ40層到達っ)
そこにはアホみたいな記録が刻まれていた。その前の20層も狂ってるがそこから40層はえ?壊れたとつい確かめてしまうレベルである。いや、あれが駆け出しなわけないのだ。でもこれCランクとかBランクの記録を大幅に超えてない?数日掛かるはずでは?サブサブロ様の実力って一体……
いけないっこんなのダンプストに知られたら碌なことにならないし、色仕掛け要員から外される。
(大丈夫、サブサブロ様。どれほどの不正に身を染めようとこのシアラ未来の夫を守ります)
シアラの思考はこれをどう隠蔽するかにシフトし後輩の声が聞こえなくなったのだった。
「先輩?先輩聞いてますか?え?無視!?」
◇◇◇
【ペルシアの星】
ペルシアで最も勢いがある新人冒険者の二人、ユーリとキャスカ。彼らはサブサブロの見張り。魔法での連絡を行なったユーリにキャスカが聞いた。
「連絡ちゃんとボッシュさんに伝えた?ユーリ」
「ああ、しっかり伝えたよ。受付嬢に色目使ってやがるってな」
「私にはそうは見えないんだけどな」
「どこが?どう見たって女好きだろ。あーあ、リーデシアか何だか知らねえがあんな奴見張るくらいなら俺も会議に参加したかったぜ」
「しょうがないでしょ。私達まだDランクなんだし」
「実力は足りてるだろ」
「でも、経験不足。私達二人だし一つのミスが致命傷になる。調子に乗ってこの前痛い目にあったとこでしょ。慎重にいかないと」
「糞っ」
ムスっとするユーリにキャスカは心で溜息をつく。キャスカとユーリは同じ農村育ちで幼馴染。ずっと一緒でユーリが大体何を考えてるかがキャスカにはわかった。
ユーリはレグナードに嫉妬しているのだ。憧れもあるだろうが嫉妬の気持ちがより強い。二回りも年齢が違うのだから焦らなくてもいいのに。それに人は一人一人違う。別に同じ存在にならなくていいし、ユーリはユーリの最強を目指せばいいのだ。
(ホント男って女性と強さに関して馬鹿になるのよね)
母の影響かキャスカは現実を見据える女の子だった。そして観察力があった。キャスカの視線がサブサブロと頬を染める受付嬢に向かう。
(相手はリーデシア兵。強いって話だけど正直いい噂は聞かない。まあそれは負けた側に住んでるんだしそれはそうなるんだけど。あんなフルメイルで顔どころか髪すら見えない。そんな相手から好意を寄せられて女の人が喜ぶかしら)
たとえ男からアプローチ慣れしていないとしてもあんな反応をしないとキャスカは睨む。
(シアラさんサブサブロの正体知ってるんじゃないかな?もしかしてイケメン?いや、そんなことどうでもいいんだけど)
どちらかといえばシアラの方が脈ありに見える。そして問題はサブサブロなのだ。シアラが顔を伏せても微動だにしない。疑問が浮かぶあれ本当にシアラさんを見ているんだろうかと。だがそうじゃないなら一体何を見ているというのか。
「なあ聞いてるのかキャス」
考えがいいところで纏まりそうだったのにユーリに妨げられた。顔近いと仰け反る。
「え?何」
「装備買いに行くぞ」
「今から?何で」
「アイツ、レグナードと同じ装備を買うんだ。見てろ、絶対に追い抜いてやる」
「絶対止めて、死ぬほど恥ずかしい思いするから」
会ったらペアルックになるじゃないか。ホント女性のことと強さのことになると男って馬鹿とキャスカはため息を吐くのだった。




