1.【俺】出会う 運命の一本と
見つけたのは偶然だった。退屈していた夏休み。偶々入ったゲーム屋でレトロゲームの中にあった一本のソロ用ソフト。時は22世紀、VRゲームが流行っているこのご時世VRをしたいが高校生である俺にはそんな金がない。泣く泣く特大セールのレトロゲーを漁っていたわけだが訳の分からないゲームを見つけた。
「なんだこれ?」
名前はデュアルミッシュ。パッケージに描かれた絵はアホほどリアルだが、ゲーム機が何世代前だよってレベルで古い。
「詐欺パケってやつか?核地雷級の糞ゲーだろこれ」
そう思って値段を見た俺は目を見開いた。なんと10円。在庫処分も青ざめる値段設定である。もはや呪われた人形とかそういう類の領域。
怖っと戻すが、結局俺は数本のソフトと共にこのゲームを購入してしまった。どれだけ糞ゲーでも10円ならいいかと思ってしまったから。
俺はこのデュアルミッシュにドハマりすることになるのだが、このゲームが異常であることに気づくのはずっと後になってからのことであった。
◇◇◇
購入したゲームは秒で飽きた。やっぱ古くて無名のゲームは駄目だと溜息をついて、俺は最後に残ったパッケをじっと見つめる。無論、デュアルミッシュである。
「んー」
やるべきかやらざるべきか寝るべきか。時刻は24時を回っているが……。
「まあ取っておくゲームじゃねえし」
ちょっとだけやろうと俺は倉庫から出しておいたゲーム機PG5を引っ張り出す。数世代前のゲーム機。据え置きゲームはVRによって淘汰されてしまった。こんな骨董品を持っている親父ならこのゲームについて知っているかもしれないけれど。
パチっと付けてみる。が、メーカーが出てこない。
ネットで軽くこのゲームを調べたが出てこないのがちょっと恐怖。もしかして誰かの自主製作ソフトなんじゃないかと思い始めた。
「曲はいいな」
RPGチックな曲が掛かり、メニュー画面が開かれた。意外としっかり作られている。ニューゲームを押してちょっとワクワクする。暗転し、映し出された映像に俺は目を輝かせた。
「おっマジかよ」
まるでMMOゲームのようなキャラクリエイトが始まった。リアルな半裸の男性の横に細やかなエディットが表示される。髪色から目の色、輪郭、背の高さなど自在だ。
主流であるVRMMOは開発に多額の資金が掛かるためここまでの自由度は存在しないので逆に新鮮だった。
「んーオフゲーだしな」
無茶苦茶変なのにしようとモヒカン魔人作成を試みるが……
「あれ?」
調整できるのに何度やっても金髪イケメンに戻ってしまう。
「はぁー流石10円。さっそくバグかよ」
もはや絶対にこのアバターを操作させると言われているかのようだ。仕方ないと諦めて長い髪を真ん中分けした金髪碧眼の糞イケメンが完成した。OKを押すと名前決めに移行し、ここは適当に行う。
「一郎……サブローでいいや」
本名最上一郎。そのサブということでサブロー。
「え?姓名いんのかよ。じゃあ、サブロー・ブローで」
雑。後で後悔するかもだが……。続いて職業が登場した。
◆───-- - - - - - - – --───◆
○ ヒーロー ● ヴィラン
戦士 ヴァンパイア
弓士 真ヴァンパイア
魔法使い ゴブリン
騎士 オーク
英雄 魔王
??? ???
◆───-- - - - - - - – --───◆
意外と選択肢が多くてびっくりする。
「ってか英雄とか魔王とかあるんだな。しかも、選べるし」
ヴィラン側のラインナップがツッコミどころか。真ヴァンパイアって何だ。少し悩んだが無双することにした。そして普段のゲームならば選ばない魔王をすることに。どうせ糞ゲーだし、無茶苦茶やってやろうという気になっていた。
「魔王っと」
ドォーンっと太鼓による重低音が鳴り、ステップが進む。
「おっ形態フォルムとかまであんのか。凝ってんな」
いわゆる形態変化は、禍々しいアバターが4体用意されていた。鳥、虎、竜、亀形を模したオドロオドロした黒き化け物。このどれかが本体ということなのだろう。これは面白い。
「じゃあ男は黙って竜型で」
選ぶと絵が動き、竜が咆哮する。ビリビリとコントローラーが振動。何だか昔のゲームなはずなのに迫力が凄い。
”他の三体は振り分けられました”
「ん?」
一瞬、文字が流れたが見落としたかも知れない。どうやらこれでキャラクリが終わり始まるようだ。画面がゆっくりと暗転して消え、眩い光が輝いた。オープニングだと俺は座り直した。
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異界エルダイン。それは神の遊技場。12柱の神が自らの分身とする生物を生み出し、神々は覇権を懸けて戦った。生物はぶつかり合い、その命を散らして大地に転がる。うん千年と続く闘い。しかし、決着は付かずして終わりを迎える。
神々が飽きてしまったのだ。彼らは世界を放棄した。けれど遺恨は残る。戦火によって分断されたその大地で種による争いは絶えない。
そんな大乱の世に貴方の魂は舞い落ちた。種に加担して覇に導くも、全てに目を向けず森奥で潜み暮らすも、殺戮するも、英雄を目指すのも貴方次第。
何故ならこれは“戯れ”だから。
選択によって無限に変異する新感覚RPG デュアルミッシュ
あれ?気のせいか?10円なのに何か面白そうと俺は首を捻るのだった。