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朝は君と笑おうか(仮)

作者: 二鷹紀一

『雲の上には何があると思う?

鉛色の空を眺めながら彼女は唐突に言い放つ。彼女と出会ってから何度も聞かれたこの言葉、、当初の僕は『雲の上には太陽と空があるだけだ』なんて空返事をしていたが、今となっては君への返事を自信を持って言えないでいる。

答えに詰まる僕を見つめる君の瞳は君の表情は何もかも見通しているよと言いたげで僕の心は撫でられているような奇妙な感覚に陥る。

『君はいつも私がこう聞くとそんな表情を見せるね。そんなに気にしなくていいのに、なんて言ったらいいのか分からない、そう顔に書いてあるよ』

彼女は踵を返し屈託のない笑顔を向けそう言った。そして再度空を見上げ彼女は思いふけった表情を見せる。

時折見せる君のその顔は死に際の人間の何もかも諦めたような絶望の表情とは違い何か心配でならないそんな表情だ。

僕は君の笑った顔を見ていたい。一片の曇りもとどめぬ青空のような笑顔、誰にでも平等に光を降り注ぐ太陽のような優しさ、今ではそんな君の笑顔が何よりも愛おしいと心から思える。

『君は本当に表情がコロコロ変わるね。見ていて飽きないよ』

君を笑顔にする方法を僕はもう心得ている僕がこのようなすきを見せれば

彼女は水を得た魚のように生き生きといじり倒すだろう。彼女は口の端を吊り上げにやりと笑う。

『そんなにずっと見てたの?自分で言うのもなんだけど私美少女だからなーそんなに見たいならもっと近くで見てもいいんだよ?』

彼女の悪巧みをしているときの表情は決まって、手を口にあてて大きな瞳を細める。

『本当に君は、、、、自分で言ってて恥ずかしくないのかい?』

俺は彼女に心根を見せないよう平然を装い慣れない笑みを浮かべる。

『フフフ、、君をいじるのは楽しいからねぇ、これは私の短い人生で最も価値のある行為なんだよ?』

そんなことを言ってワンピースを靡かせながら鉛色の空の下をクルっと回った。

彼女の言う『価値』どれほど本気で言った言葉なのかわからないが、君にとって価値ある人間、そんなものに本当になれているのならどれだけ嬉しい事だろうと心の底から思う。人の命には、彼女の命には一体どれだけの価値があるのだろうか。誰一人として見舞いに来ない彼女には、家族が一人としてこない彼女には、価値などないのだろうか、少なくとも今この瞬間僕にとっては君は世界中の誰よりも何よりも絶対的に価値のある唯一無二の存在である。アインシュタインは言った。人の価値はその人が得たものでなくその人が与えたもので決まると、だが本当にそうであろうか与えてばかりの人間が空になったら、与えられたものをもう持っているのなら与え続けた空の人間には本当の意味で価値があるのだろうか、

陽光を断ち切る曇天の雲の下でさえ空になったはずの君は誰よりも美しい。

『君はまた難しそうな事を考えていそうだね。そんな顔をしているよ。、、私ね思うんだ、今流れている時間の中で起こった些細な出来事、君と笑いあって話したことや君と口論したことそれらは私にとって唯一価値のあるもの、私がいなくなった後でさえこれは永遠であってほしいと思ってる』

彼女は笑みを浮かべ僕に近づき手を伸ばす。その笑みは僕をいじる時のとはまた違いこれから起こるであろう未来への期待の眼差しだ。

「あさひ君、空の上には何があるんだろうね」


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