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性悪貴族は勇者に追放される

登場人物

ケイ

 黒髪に知的な瞳を持った22歳の男。(物語開始時点)貴族出身の元勇者。魔法の腕は一流だが、性格が悪い。この性格の悪さは過去に原因があるらしい。意外にも情に厚く、親しい相手は大切にしている。


ゼン

 赤髪に筋肉質な大男。ケイとは同い年だが、勇者としての経験はゼンの方が長い。最注目の若手剣士であり、ケイの所属していたパーティーのリーダーでもある。頼りがいのある性格である一方で、酒癖は悪い。


ルーカ

 金髪を短く切り揃えた好青年。ゼンの師匠であり、最強の魔法剣士。勇者筆頭を務めており、ケイに勇者を辞めさせた張本人。性格は良いが、都合のいい人になりつつある。年齢は27歳。(物語開始時)


1. 二度目の追放


「正直に言って、ケイ、おまえはこの仕事に向いていない。パーティーから抜けてほしい。」


 赤毛で筋肉質の若い男は重々しくそう告げた。この男の名はゼン、若手の中で最も注目されている剣士だ。俺と同じ22歳だが、ゼンの方が勇者の経験が長いという理由でパーティーのリーダーをしている。ゼンは前衛、俺は後衛として二年間一緒に戦ってきた。しかし、俺が勇者業に向いていないとは納得がいかない。


 集合酒場には有象無象があちこちのテーブルで騒いでいるがこのテーブルだけ空気が重い。ゼンとは最近よく揉めるが今回は覚悟が違うように感じた。俺はゼンの思惑をぶち壊すために、あえて煽るように返した。


「おいおいおいおい、それはないだろう。俺みたいに何でもできる魔道士はそうそういないぜ?いたとしても、多くは学者の爺さんばっか。むしろもっと俺に感謝すべきだと思うね。もちろん、感謝の気持ちは金で示せよ。」


 事実、魔法を覚えるためには、高度な教育が必要になる。そのため、魔法のほとんどは貴族に独占されている状態だ。たまに、庶民にも魔法を独学で覚える者もいるが、魔法大学を飛び級で卒業した俺からしたら、あまりにお粗末なものである。間違い無く、勇者の中で俺に匹敵する魔道士はいない。


 ゼンは、酒を一杯煽り、口を開いた。


「確かにお前は強い。でも、最近調子に乗ってるだろ!なんでおまえの分の荷物を前衛に持たせているんだ!そのせいで被弾が増えているんだぞ!もし一撃で死んだらどうするんだよ!責任取れるのか!?」


 ゼンは煽りに弱い。怒りのボルテージとともに酒が進み、最終的には記憶を失って、次の日には、ほとんど忘れている。面倒くさいが、本当に追い出されても困るので、いつも通り彼を怒らせることにしよう。


「その件については、何度もパーティーの人数を増やせって言っているだろう。人数を増やせば、一人あたりの荷物の分担量が減るだろう?何度俺が進言をしても人数を増やさないのは君の責任じゃないか。」


 俺たちのパーティーは俺とゼンを含めて4人いる。ただし、残りの2人のメンバーはあまり安定しない。最近は、一度か二度狩りに出たら、パーティーを抜けていくことが多くなってきた。

 

「おまえがその態度とか、女癖の悪さでうちのパーティーの評判を下げているから毎回メンバーを集めるのが大変なんだよ!それに人を増やせば、一人当たりの報酬も低くなることを分かっているのか!?おまえみたいに金に余裕があるやつばかりではないんだぞ!?」


 勇者業は、命をかけている割に収入が渋い。勇者は、竜を狩り、その素材を売ることを生業としているが、小竜(3m以下)を狩っているだけでは普通に働いたほうが儲かる。多くの勇者は中竜(3m以上6m以下)、大竜(6m以上20m以下)を狩り、一攫千金を目指しているが、狩れるのは実力のあるごく一部である。いや、実際に中竜や大竜を狩ろうと努力をしている者でさえそもそも少ない。多くは優秀な人が率いるパーティーの一員になって、報酬を山分けしてもらうことを目指している。確かに中竜を狩れない雑魚の生活まで考えるのならば、人数を増やせない。もちろん、本当は雑魚とパーティーなんて組みたくない。


 それはそれとして、俺には気になるところがあった。ついつい語気を強くして返してしまう。


「女癖のことは他人にとやかく言われたくないね!本人が合意してるんだから問題ないだろ!」


 なお、ここで言う女癖の悪さとは、娼婦をより好条件で雇い、専属の娼婦にすることを意味している。何も法律違反は犯していない。


「だとしても、色々なところから恨みを買ってるんだよ!」


 一方的に煽るつもりが、俺も少し熱くなってしまった。一度冷静になり、再び煽ろうと思考を働かせる。しかし、次の煽り文句を発する前に思わぬ人物に話しかけられた。


「どうした二人とも喧嘩か?ほどほどにしろよ。あまりうるさいと店に迷惑だ。」

 

 突然話に割って入ってきた男の名はルーカ、勇者の中で最強の魔法剣士だ。金髪を短く切りそろえていて一見若く見えるが、その戦歴を肉体が語っている。また、ルーカは、ゼンの師匠で俺と同じ魔法学校の卒業生でもあり、何かと俺たちと関わりが深い。だが、俺はどうしてもこいつのことが好きになれない。


「ルーカさん!?別に喧嘩をしているわけでは……。ただ、ケイが勇者に向いていないって話をしていただけ何です。」

 

 ゼンがたじろぎながら答える。ルーカの前でゼンが怒りを見せることは考えられない。俺の企みは完全に砕け散った。ここからは彼らを説得しなければならない。


「ケイ君には悪いが、勇者に向いていないという意見は、確かに納得できる。勇者はチームワークが重要な職業だ。どんなに優秀な勇者でも相性が悪い竜に簡単に殺されてしまうこともある。君の素行はチームワークに悪影響を及ぼしている。素行を改めないと、勇者としてやっていくのは難しいぞ。」


 この台詞を言ったのが他の誰かなら俺は無視をする。しかし、言ったのがルーカならば、話が別だ。ルーカはここ前線街フロントの勇者を取り締まる立場にある。その気になれば、俺をここから追い出すことができるのだ。つまり、これはルーカからの警告である。


「ルーカさん、私はここの法律に違反したことは無いですよ。ちゃんとルールを守っているのに、素行が悪いだなんて、あんまりじゃないですか?」


「ルールを守るだけでチームワークが円滑に進むわけではない。君は他人の気持ちを尊重することができていない。そこが問題なんだ。」


 他人の気持ちを尊重?俺の気持ちを無視して、「楽して竜を狩り、金持ちになりたい」程度の考えしか持っていない雑魚の気持ちを尊重しろと?それが勇者に必要な能力ならば、あまりにも勇者は終わっている。


「確かに私は、他の勇者に嫌われているかもしれません。しかし、嫌われているというだけで私が悪いことになるのは、納得がいかないです。どんな人も生きていれば、他人に嫌われます。特に私に嫉妬をする人は多いでしょう。ルーカさんは、街を仕切るリーダーですから、私を悪者にするのではなく、フラットな目線で見るべきだと思います。」


 ルーカは、真っ直ぐに俺を見つめている。ゼンは、ルーカと俺が口論をしていることに混乱しているようだ。静かではあるもののゼンとの口論よりもヒートアップしていた。長い沈黙の後、ルーカは意を決したように口を開いた。


「俺は他人の気持ちを尊重しろって言ったんだ。君が嫌われているかどうかは関係ない。俺の言いたいことが分からないならば、ここに君の居場所はない。この街を出て行ってくれ。君は勇者にこだわらなくても生きていけるだろう。」


 とうとうルーカにこれを言われてしまった。もう俺に街を出て行く以外の選択肢はない。いや、きっとルーカは俺が謝れば許すだろう。しかし、それは服従を意味している。ルーカに対してではない、雑魚に対しての服従だ。絶対にそれは俺のプライドが許さない。俺は気がつくと早口でまくしたてていた。


「あなたにまで嫌われていたのならどうしようもないです。私はここを出て行きます。今までお世話になりました。」


 俺は席を立ちあがり、店を出て行く。最後に直前に座っていたテーブルを横目で見ると、ルーカは無言で俺を見つめ、ゼンはずっと俯いていた。


 

 

 思い返すと、フロントで過ごした日々は悪くなかった。フロントは勇者が竜狩りをするための街で、中身はほとんど野営地である。飯は集合酒場でしか食えず、住居はテントであり、娯楽は娼館が一軒あるのみであるが、竜を狩ること自体に満足感を感じていたので、気にしていなかった。そして、ゼンという友人を得たことも俺にとって幸福だった。俺がゼンと出会ったのは、俺にとって最悪だった時期である。ゼンはその中で数少ない信頼できる存在だった。最近はゼンと揉めることも増えてきたが、今でもゼンのことは嫌いではない。最後は喧嘩別れになってしまったが、ルーカさえいなければあの場は丸く収まっていたはずだ。


 俺はフロントの外れに設けたテントで荷物をまとめ終わった頃、ゼンがやってきた。気まずそうに俺を見つめるが、明らかにかける言葉が見つからない様子だ。相当悩んだのであろう、たどたどしく口を開いた。


「本当に……出て行くのか……?」


「ああ。」


 ゼンは再び沈黙した。ゼンの言いたいことは大体予想がつく。俺を止めたい気持ちと俺が勇者に向いていないという現実がゼンの口を閉ざしているのだろう。俺はゼンと目を合わせることができなかった。


「ここを出た後はどうするつもりだ?」


「まずは実家に帰るよ。その後はまだ決めてない。」


「ケイ、おまえなら何をやってもきっと上手くいくさ……。」


「勇者以外は?」


「ああ……勇者以外は……。」


 ゼンの気遣いに対して皮肉を返してしまったが、気持ちに嘘はないことは分かっている。ゼンは色々混乱しているのだろう。俺は最後にゼンの目をしっかり見据えてゆっくり別れの言葉を絞りだした。


「それじゃあ、元気で。俺の知らないところで死ぬんじゃねぇぞ。」


「ああ。おまえもな。」


 


2.帰還と再起



 フロントから俺の故郷、王都セントルに帰るまで一週間かかった。セントルにはあまりいい思い出が無い。いや、あの事件以降セントルを出るまでずっと地獄だった。だが、フロントでの日々は再びセントルに立ち向かう勇気を与えてくれたと思う。きっと大丈夫なはずだ。しかし、いざ実家の前に到着すると落ち着かない。あの大きいだけで、空虚な豪邸には俺の思い出したくない過去が詰まっている。


 門の前で深呼吸をする。所詮、敵はただの過去、ただの人、竜とは比べものにならない雑魚だ。俺は思いきって呼び鈴を鳴らした。しばらく待っていると、執事が出てきた。執事は俺の顔を一瞥すると、明らかにその表情が歪んだ。


「お帰りなさいませ、ケイ様……。急なご帰省でしたので、お部屋の用意ができておりません……。お疲れのところ申し訳ないのですが、広間でお待ちいただけないでしょうか……。」


 たった2年家を空けていただけにも関わらず、どうやら俺の部屋はもう残っていないらしい。きっと誰も俺が二度と帰ることはないと思っていたのだろう。仕方ないことだが、少しショックだった。


「ああ、わかった。あと風呂の用意も頼む。疲れているからなるべく早くな。」


「承知いたしました……。すぐにご用意致します……。」


 執事は逃げるように去って行った。俺は広間のソファーに腰をかける。二年ぶりのソファーはとても気持ちがいい。このまま眠りに落ちそうになっていると、聞き覚えのある声が話しかけてきた。


「いつの間に帰ってきた!久しぶりだな!」


「父さん……、ただいま……。」


「おかえり!」


 父さんは俺の背中を叩きながらそう言った。父さんはあの事件以降、唯一俺と変わりなく接してくれる人であり、あの事件で一番迷惑をかけた人でもある。


「勇者はどうだ、上手くやれているか?まあ、おまえはどう考えても勇者ってガラじゃないし、嫌になって帰ってきたか。」


「全然ちげーよ!むしろ勇者業は楽しかったよ!ただ、勇者をまとめている奴と揉めて追い出されたんだよ!」


「えっっ!本当に勇者やってたの!?やってるフリで良かったのに!?」


「父さんが勇者になるように言ったんだろうが!!」


 父さんはとある事情で俺に勇者を勧めた張本人である。だが、もうちょっと適正があると思って勧めてたのかと思っていた。やってるフリでいいって何だよ!?ふざけるな!!


「まあ、おまえが元気そうで良かった。おまえにとってこの家は居心地が悪いだろうが、ゆっくりしていってくれ。」


「ありがとう……。」

 

 俺は目を背けながら答えた。


「あっ、そう言えば、おまえこれからどうすんだ?フロント以外の場所で勇者を続けるのか?」


「まだ決めていない。納得できないけど勇者に向いていないと言われたし、勇者の中には嫌いな奴も多い。勇者を続けるかずっと悩んでる。」


 父さんはいつのまにか真剣な表情に変わっていた。そして、はっきりとした声を発する。


「ケイ、まずは、何をやりたくて、何をやりたくないのか明らかにすること。向いてる向いていないとか悩むのはそれからだ。貴族で勇者を経験したことがある者は少ない、きっとケイにしか思いつかないこともあるはずだ。ケイ、おまえは賢いからよく考えて決めたことなら上手くいくさ。」


 父さんがしてくれたアドバイスはありきたりなものだった。しかし、父さんに励ましてもらえて、少し前向きになれた気がする。


 俺はそれからこの2年間にあったことを語っていると、執事が戻ってきた。


「旦那様、お話し中のところ失礼いたします。」


「どうした?」


「ケイ様のお部屋のご用意ができましたので、お伝えに参りました。」


 執事はこちらの方を向き直し、そのまま少し目を伏せた。


「お風呂も沸いております……。ごゆっくりお過ごしください……。」


 俺は執事と目を合わせないまま、父さんの方を向いて答えた。


「ありがとう。じゃあ、俺、風呂入ってくるから。」


「おう、それじゃ。」


 俺は父さんに礼を告げ、浴室にむかった。


 俺は湯加減を確認してからゆっくりと湯船につかる。俺は改めて父さんからのアドバイスに思案を巡らせた。


 まず、俺のやりたいこと。竜を狩りたいという気持ちに間違いはない。魔法を駆使して竜を討伐することは楽しかった。実は勇者は数少ない魔法を実戦で扱う職業でもある。回復魔法、強化魔法などは医者が使うが、それ以外の魔法はほとんど使われない。それよりも重視されるのは、理論分野である。大魔法開発、永久魔法研究、竜機関学など新たな魔法を作り出すことこそが魔法職の花だ。正直、魔法学者になるのも悪くないと思っている。


 逆に、やりたくないこと。竜は狩りたいが、雑魚とは組みたくない。俺やゼンの方が竜を狩ることが上手いのは事実だが、雑魚が何もしていないのは腹が立つ。普通なら雑魚と組みたい奴などいないはずだが、それをルーカが許さない。若手の死亡率を下げ、成長を促すために実力者と若手でパーティーを組ませている。確かにこれで死亡率が下がったのは事実だが、ゼンを除いて若手はあまり育っていない。若手が育たない原因は単純である、何頭か中竜を狩ってある程度稼いだら勇者を辞めるやつばかりだからだ。ルーカはきっと責任感で勇者をやっているのだろう。だから、金のために勇者をやっている奴の気持ちは分からない。俺ならもっと若手の取り分を減らすことで勇者を辞めれない状況を作る。俺とルーカは思考が180度違うのだろう、確かにルーカからすれば俺は勇者に向いていない。

 

 俺は思考を切り替え、久しぶりの風呂を満喫することにした。ああ、風呂は気持ちいい、まさに貴族の特権と言えるだろう。この風呂は竜機関を使って水を温めている。竜機関とは竜の素材を使うことで、竜の魔法を再現する装置である。竜の素材が希少であるため、貴族の間にしか広まっていないが、竜機関は生活を一変させた。薪を使わず煮炊きができる火竜器、低温で食料を保存できる氷竜庫などがその典型だろう。俺以外の貴族であれば、竜機関無しの生活なんて耐えられないかもしれない。


 しかし、竜を狩っていた身としては、竜の力をこの程度に抑えるのはもったいない気もする。竜の魔法は人を遙かに凌駕している。たとえ、小竜であっても、俺の使う魔法の2倍の出力はあるだろう。これを武器に使えれば、竜狩りがより楽になるかもしれない。だが、仮に竜狩りに使えるとしても、貴族に売れないのは明白である。そうなると、採算が取れない可能性が高い。きっと竜機関を使った武器が作られない一番の理由はこれである。だから、俺ならこの武器を決して売らない。俺自身が持って戦えばいい。さらに雑魚どもに持たせて少しはマシになるなら儲けものである。この武器で竜を狩り、その素材を売って稼げばよい。この考えはなかなか良いのではないだろうか。


 少し今後の方針が固まってきた。竜機関武器を開発して勇者業に革命を起こす、いや勇者業自体を終わらせて、竜素材の市場を俺が独占してやる。そうすれば、ルーカも見返せるし、勇者に向いていない"らしい"俺でもできるはずだ。


「ルーカ、今度は俺の番だ。」


 俺は小声でつぶやいて決意を固めた。


3.空中浮遊(スカイウォーカー)


 竜機関の開発を始めてから2年後、ついに試作品が完成した。その名も竜杭(りゅうこう)。竜杭の名前の通り竜骨でできた長さ約1mの杭だ。竜杭は近接と投擲による遠距離攻撃の両方をこなすことができ、カセットを切り替えることで様々な魔法を杭に纏わせることもできる対竜特化武器だ。

 

 特に、近接攻撃と遠距離攻撃ができることには大きな意味がある。竜狩りは「撃墜」と「討伐」の二つの段階に分かれている。撃墜は飛んでいる竜を空中から地面に落とす段階であり、討伐は落ちた竜の首元にある逆鱗に刃を突き刺すことでとどめを刺す段階である。現状だと、魔法や弓矢は撃墜に、剣は討伐にと使い分けているが、竜杭はどちらでも使うことができる。特に遠距離攻撃は勇者の魔法よりも遙かに強力であり、撃墜を楽にすることは間違いない。


 竜杭の実用性を検証するため、俺は屈強な12人の屈強な男に軽く竜杭の訓練を施した後、フロントに連れてきた。そして、四人一組でパーティーを組ませて小竜、中竜を狩らせている。結果は想像を絶する大成功、竜の素材の供給量が増え、価格が大暴落した。当然、勇者を辞めるものも続々と現れ、市場の独占に大きな一歩を踏み出した。


 俺たちがいつも通り、竜杭を使って狩りをしていると、フロント全体に鐘の音が鳴り響く。この鐘は大竜警報、大竜が出現する時に鳴り響き、勇者を招集する役割を持つ。そして、招集された勇者の中から大竜を狩る者をルーカが選定するのだ。俺は大竜をずっと待っていた。竜杭は大竜との戦闘データを得なければ完成したとは言えないだろう。そして、大竜はフロントに年数回しか現れない。だからこそ、この機会を逃す訳にはいかない。俺は各パーティーを集め、フロントに向かうことにした。


 集合酒場には60人ほどの勇者がいた。フロントには勇者が入れ替わりながらも、常に安定して100人ほどいるはずだから、残り4割はまだ来ていないのだろう。俺は辺りを見渡し、慎重に一人ずつ顔を確認すると、やはりいた。俺は群衆をかき分け、ゼンに話しかけた。


「ゼン、久しぶりだな!」


「ケイ!?こっちに戻っていたのか!?もう会えないと思っていたよ!」


「まあな、やっぱり勇者を続けてみようと思ってな。」


 俺は言葉を濁したが、ゼンは何かと察するところがあったようだ。


「おまえ、ルーカさんにちゃんと許してもらったのか?」


 当然、許してもらっていない。ここに戻って来てから俺はルーカを避けて過ごしてきた。ルーカに見つかれば、間違いなく話しかけられるだろう。そこで俺が謝れば、きっと丸く収まるはずだが、それは俺のプライドが許さない。そんなことを考えていると、俺はついついゼンから目を離してしまった。この意味に気づかないほどゼンは鈍くは無い。


「早いうちにルーカさんに挨拶しておけよ!」


 ああ、ルーカにはすぐに()()をすることになる。だが、それを今ゼンに明かすことはできない。俺は話題を変えることにした。


「そんなことより竜狩りに使える武器を作ったんだ。見てくれよ。」

 

 俺は荷物から竜杭を取り出した。


「何だよそれ?そんな細い武器で竜が狩れるのか?」


「おまえが特別なだけで、逆鱗を突くには十分だよ!これぐらいの方が投げやすいし、何よりも……」


 俺が竜杭のスイッチを入れると、杭の先は燃え始めた。


「これは誰でも魔法の力が使える竜機関というものだ。貴族の間で流行っているんだが、戦闘で使えるように改造してみた。」


「竜……機関……?よく分からないけど、これすげーな!」


 だろう?だからこそ、俺が勇者に向いていないのは間違いであるはずだ。


 すると、集合酒場に設けられた簡易的な壇上にルーカとくたびれた中年の男性が上がってきた。ルーカは大きく息を吸いよく響く声を発した。


「勇者諸君!まずは集まってくれたことに感謝する!君たちも分かっているように大竜の痕跡が発見された。これより竜学者のドク先生から詳細な情報が発表される、けして聞き漏らすんじゃないぞ!それでは、先生お願いします。」


「ご紹介に預かりました、竜生態学会のドクと申します……。一昨日、フロントから北西50km先の山岳地帯に大竜の糞が発見されました。そして、この糞を分析した結果、出現したのは約10mほどの鋼竜であると推測されます。これを受けて学会はこの未確認鋼竜をAlvida(アルビダ)と命名、勇者の皆様には至急Alvida(アルビダ)の捜索と討伐をお願いしたく存じ上げます。」


 小声で聞き取りづらい部分もあったが、どうやら今回発見されたのは鋼竜の本体では無く、糞であるらしい。これは少し厄介だ。大竜は各個体で姿や生態がまるで異なる。一応、鋼竜全体の傾向として魔法は使わず、物理攻撃が強力であることが挙げられるが、飛べる個体と飛べない個体があり、それぞれ戦い方が全く異なる。だからこそ、目撃情報が無いことは大きな不安要素になる。


「ドク先生、ありがとうございました。それでは、俺からAlvida(アルビダ)の討伐パーティーを発表する!」


 大竜は人里を壊滅させる恐れがあるため、12名ほどのルーカに選ばれた精鋭部隊で狩猟を行う。俺は過去に6回、ゼンは2年前の時点で15回選ばれている。ルーカは次々と名前を読み上げていくが、案の定俺の名前

は呼ばれなかった。


「……最後にゼン!君をサブリーダーに任命する!そして、今回も討伐パーティー以外の者は当該区域に近づくことを禁じる……以上!」


 どうやらゼンはサブリーダーにまで昇格していたらしい。確かに2年経ったのだから、ゼンは若手から中堅に差し掛かる頃だ、サブリーダーになってもおかしな話ではない。


 壇上から降りようとしたルーカに俺は大きな声で陽気に呼びかけた。


「ルーカさん!私をパーティーに入れなくていいんですか?」


 ルーカはこちらに振り向き、ため息をつく。


「誰かと思えば、ケイじゃないか。確か、2年前にフロントから出て行ったはずだが、戻っていたのか。この際、君がフロントに戻ってきたことはどうでもいい。だが、君をパーティーに加えることは認められない。」


 まるで俺が自分の意思で出て行ったような口調に腹が立った。実際、ルーカからしてみれば、あくまで謝罪と改心を促したつもりだったのだろう。しかし、俺が納得できない以上俺にとっては追放に他ならないのだ。


「なぜです?今回選ばれた後衛よりも私の方が優秀でしょう。実力で選んだ方があなたにとってもリスクが低いと思いますが。」


「君はパーティーメンバーと何度か揉め事を起こしている。チームワークが重要な大竜の狩猟において君を連れて行くこと自体がリスクなんだ。分かってくれ。」


 ルーカが言うことは概ね分かっていた。そして、俺はもともと用意していた言葉を口にする。


「でしたら、私が仲間を集めて勝手に行かせてもらいます。」


 ルーカの表情は一気に険しくなり、周りの群衆がざわつき始めた。許可されていない者が大竜を狩ることは勇者にとって禁忌である。このルールは、竜の素材を巡って勇者が互いに殺し合うことを防ぐためにある。実際、過去には勇者の同士討ちが日常茶飯事だったらしい。俺もこのルールを破る者を厳しく処罰すべきであると思う。だから、本気で破るつもりは無い。真の狙いは別にある。


 ルーカはこちらを睨みつけ、ドスの聞いた声で言った。


「それが何を意味しているか分かるな。取り消すなら今のうちだぞ。」


「取り消すつもりはありません。全て覚悟の上です。」


「俺は勇者の筆頭として、禁忌を破ろうとする者を見逃すわけにはいかない。力ずくで止めることになるが、いいのだな?」


 この言葉を待っていた。ルーカを群衆の目の前で倒し、大竜を狩れば、勇者たちの結束は弱まる。それをきっかけに勇者を辞め、こちらの駒になる者も現れるはずだ。つまり、ここでルーカを倒すことは、竜素材の市場独占という目標へのショートカットになる。もっとも、ルーカに復讐をしたいという気持ちがあることは否定しないが。


「ええ、もちろんです。ここで戦うのもまずいので、外でやりましょう。」


 俺は群衆にジロジロ見られながら、集合酒場を出て行く。奴らが気になるのは当然である。ルーカが武力行使をすること自体が初めてだからだ。俺もルーカが人と戦っているところを見たことがない。だが、ルーカから剣を教わったゼン曰く、ルーカは対人戦においても最強であるらしい。とはいえ、俺も無策でルーカに喧嘩を売ったわけではない。もちろん秘策がある。


 ルーカが出てくると、自然と群衆は俺たちを囲んだ。俺たちは、それぞれ戦いの準備をする。ルーカは剣の鞘が抜けないように紐で固定をし、俺は荷物から長さ1mほどの竜骨でできた杖を取り出した。向かい合い、互いに構えを取る。


「では、行くぞ!」


 ルーカは空中に()()()()()。ルーカの二つ名は空中浮遊(スカイウォーカー)その名の通り、空中を駆けることができる。空中に足場を作る<浮遊>の魔術の応用であるが、ルーカにしかできない芸当である。<浮遊>自体は簡単であるが、人を支えられるほど強い足場を作ることはできない。せいぜい落下速度を遅くする程度である。しかし、ルーカは足場が落ちる前に次の足場を作り、飛び移ることで空中を駆けることができる。その難易度は水の上を走る感覚といえば分かりやすいだろう。


 ルーカが飛び出したことをきっかけに、群衆に紛れた俺の部下が四方から鎖付きの竜杭を投擲した。


「俺は仲間と一緒に狩りに行くと言っただろう!」


 ルーカは難なく、全ての竜杭を一薙ぎで弾いた。そのまま人の頭を越えた高さまで飛び上がり、竜杭を投げた者を一人ずつ仕留めに行く、群衆は散り散りに逃げ出し、俺の部下だけが取り残される。敵が明らかになったルーカは破竹の勢いで部下たちを倒していった。ある者は投げた竜杭を回収する前に倒され、ある者は竜杭を構えても何も出来ずに倒されていく。小竜、中竜相手に無双していた者がまるで練習用の丸太であるかのようである。俺も火球を放ち、援護するが、ルーカの三次元の動きに避けられてしまう。


 とはいえ、ここまでは予想できたことだ。俺はまだ奥の手である竜骨の杖を使用していない。俺の右手にあるこれは、俺が開発した初期型の竜機関だ。当時は、竜のブレス攻撃を再現しようとしていた。しかし、この杖を出力機関として、竜の鱗から抽出した魔力を注いだところ、コントロールが効かず、暴発した。結局、使用者の魔力を使用することで、コントロールを可能にしたが、起動するために大量の魔力を使用して、一日に一発しか撃つことのできない豪快な竜機関になってしまった。確かにこの杖は竜狩りには適さないが、対人戦においては話が別だ。竜機関によるブレス攻撃、勝機はそれしかない。


 俺の右手に十分な魔力が貯まった。その時、ルーカは丁度最後の一人を仕留めようとしていた。都合がいい。下手にルーカの近くに人がいると、盾にされる可能性がある。仕留めてこちらに向かってきた時、そこが狙い目だ。


 そして、最後の部下に頭上からルーカの突きが決まる。戦場に鈍い音が響き渡った。その後、倒れゆく俺の部下を蹴って、加速したルーカは、ものすごい速さでこちらに向かってきた。


「今だ!!!」


 激しい音と光が周囲に広がり、俺は杖から魔力を放出させる。


「デモ・サンダーブレス!!!」


 しかし、俺が技を放つ直前、ルーカの手に剣がないことに気づいた。ルーカの剣は俺の前方約2メートルのところに深々と刺さっている。


 杖から放たれた雷撃はルーカの剣に直撃して地面に逃げて行った。


「雷竜の狩りの基本は盾を地面から離さないことから始まる。そのことを知らないわけではあるまいな、ケイ!」


 一瞬で間合いを詰められた俺は首をつかまれ、地面に叩きつけられた。


 雷魔法の防ぎ方は分かる。杖を怪しいと思うことも当然であろう。しかし、なぜ俺が雷魔法を使うと分かった?雷魔法は威力の出る魔法ではない。雷竜の骨を使って強引に威力を上げて、ようやく使いものになった魔法だ。魔法知識があるからこそルーカには予想できない魔法だと思っていた。


「その杖は去年出現した大竜、Elsa(エルサ)の肋骨を加工したものだろう。Elsa(エルサ)は俺が狩って解剖もした竜だ。加工したって、分かる。だから、君の手下を盾にしながら、雷魔法がくる前提で動いていたのさ。」


 通りで雷魔法を見抜かれるはずだ。俺は最初から負けていたのだ。


「じゃあ、俺たちが狩り終わるまで大人しくして貰おうか。」


 ルーカは俺の首を絞めていく。抵抗も虚しく、俺は昏睡に陥った……。


 

次回予告

<竜狩り(ルーカ視点)、ケイの過去、ヒロイン登場?>

の3つを予定しております。(予定はやる気と閲覧数次第で変わります……。すみません。)

できれば来週中、遅くても2週間後には投稿できるように努力します。

多分、2話後半から3話前半がこの作品の山場であるので、次回も見て下さると幸いです。

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