舞踏会襲撃編、邂逅
現実でこれは有り得ないと思っても、受け流してくれると嬉しいです!
今回の話も楽しんでくれると幸いです!
体中が痛み、空腹と喉の渇きが激しくネルを苛む。
それでも、ネルは必死に歩いた。
必死に生きようとした。
全ては妹、マユを殺した奴らに復讐する為。
どれだけ歩いたのか、もうわからない。
そして、遂にネルは倒れた。
此処に人が倒れている。
それなのに
倒れたネルになんか振り向きもせずに歩いていく人々。
『……ハッ。』
ネルはこの時悟った。
この世界に、救いなんてない。
そしてネルは意識が朦朧とする中で、全てを憎み、恨み、拒絶した。
どれだけ意識を失っていただろうか。
突然ネルに問いかける年若い男の声が聞こえた。
『ねぇ、まだ生きたい?』
それに、ネルは微かに頷いた。
その答えを聞いた男は不思議そうな声でネルに尋ねた。
『どうして?そんなに傷つけられ、大切なものを失って、この世界の醜さを知ってまで、どうして生きたいの?』
そう話す男にネルは視線を向けた。
そして掠れた声で呪うように言った。
『……殺したいから、僕をこんな目に合わせた奴らを、妹を殺した奴らを、みんな、みんな……』
絶望の淵に堕としたい。
最後の言葉は声にならなかった。
それを聞いた男は悲しそうに笑うと言った。
『じゃあ、私が君を生かしてあげる。その願いを叶えるだけの力を私が君に与えてあげる。』
ネルはドレスアップをして、舞踏会の会場に無事潜入していた。
ドレスによって隠れたふくらはぎには剣のホルダーを付けて、なけなしの金で買った短剣を装着し、もし何か異変が起これば直ぐにそれを引き抜けるようにしていた。
そしてネルの愛刀は、逆の足の太ももとふくらはぎにかけてベルトで固定してあった。
それ故に非常に歩きにくい
ネルの師に教えられたのは暗殺技術だけではない。
正面戦闘の技術から女装の技術まで、何でも教えられた。
だから、ネルはドレスを着るのにも困らなかったし、エレナから貰ったメイク道具で化粧をする事も出来た。
まさか、メイク道具まで貰うとは思っていなかったが。
そんな中、ネルは己に視線が集まっていることに気付き、微妙な気持ちになった。
ネルの長く煌びやかな銀の髪と漆黒の対比はとても鮮やかで、ネルを妖艶かつ神秘的に見せていた。
そしてネルの傾国の美貌。
そんなネルの美麗さに嫉妬する者、その妖美漂う姿に見惚れる者様々だが、ネルは男だ。
決して嬉しくは無い。
だが、完璧な女装だと胸を張るべきなんだろうか。
そんな時、聞いた事のある声が会場に響いた。
「アーネ!」
紅のドレスに身を包んだエレナだ。
手を振りながらネルの元まで歩いてきたエレナは、周りを見回すと満足そうに頷いた。
「流石、私のアーネだわ!皆、貴方の美貌に見惚れているわ!」
それに複雑な感情を抱きながらも、ネルは頷いた。
そしてエレナは微笑むとネルの手を取り、言った。
「さぁ、舞踏会を楽しみましょう!」
かくて、舞踏会の幕は上がる。
ネルはエレナと共に様々な女性のグループを回っていた。違和感が無いように
その中でクエト村を襲撃しようとした隣国、アトネシアの御夫人達のグループに回って来た。
情報収集をするならば圧倒的に女性からの方がいい。
女性は噂話が好きで色んな情報を持っている、そう師は言っていた。
それ故にネルは女装した。
アトネシアの御夫人達はネルとエレナを見ると微笑んだ。
「まぁ、美しい御令嬢達ですこと。」
それにネルは完璧な微笑みを浮かべた。
そんなネルを見て頬を染める御夫人達。
それ見て満足げに頷くエレナ。
何故、そこでエレナが頷くのか理解に苦しむネルだった。
たわいない話をした後、ネルは試みた。
アトネシアの貴族の情報を手に入れる為に。
「あの、アトネシアにはどなたか良い殿方はおりませんの?例えば、権力を持っていて裕福な方とか……」
あれだけの兵をクルト村へ送ろうとしたのだ。権力者か金に余裕のある人物だろう。
そのネルの問いに御夫人達はうーんと考え込んだ。
「権力を持っていて、裕福な方は……もう皆さん結婚しておられるわ。あ、でもスミュールチ公爵閣下がまだね。あの方が実際一番、有力な貴族ですのに」
「確かに、秀才で美貌をも兼ね備えた才色兼備で、爵位は公爵……正に高嶺の花ですわ。」
うっとりしながらそう語る御夫人達を見ながらネルは考えていた。
ネルとしては結婚していても構わないのだが、秀才、有力などのそれら言葉に、その公爵閣下という人物はネルの探している黒幕に一応の条件は一致している。
ネルはその貴族に一度会ってみる必要があると考えた。
その時だ。
「私が何です?」
背後からの突然の声にネルは驚くと振り返った。
そして、そこには微笑みを浮かべた金髪碧眼の美麗な男が立っていた。
因みに金髪碧眼の彼はレイヴィス・オルグエント、爵位の称号はスミュールチです。
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