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賭け

「何、徳川家が内応するかもしれない?」

 岡崎城を包囲していた俺は千代女にその報を聞いてさすがに驚いた。おかしい、俺は奥平貞能ら三河国衆を勧誘したのであって家康を勧誘した覚えはないのだが。さんまを釣ろうとしていたら鯛が釣れてしまったような気持ちだ。

「はい、服部半蔵配下の忍びから、武田は徳川が味方するならどうするのかと」

「それは本気だと思うか?」

 この状況であれば本当に武田につく可能性はあるが、それ自体が罠という可能性もある。ここまでずっと織田と結び続けている徳川だが、だからこそ信じられるとも言えるし、だからこそ織田を裏切る訳がないとも言える。

「どうでしょう……ただ、忍びを介してこそこそ打診してくるというのは、本気の表れのような気もします」

「そうか」

 とはいえ、常にそれはただの見せかけという可能性もある。


「とりあえず何と答えておきましょうか」

「そうだな、味方するなら三河からの完全撤退、遠江は現状のままと伝えよ。あと、意味があるのかは不明だが佐久間信盛からも徳川に打診するように頼んでみてくれ」

 俺はとりあえず寛大な条件を述べる。出来ればせめて人質交換ぐらいはしたかったが、本当に味方してくれるのであれば領地についてはある程度やむをえないという気持ちはあった。

「分かりました」

 考えられる最上の結末は徳川も佐久間も両方が武田につくこと、逆は佐久間がすぐに制圧されて徳川も裏切ることだろうか。しかし徳川が味方になる可能性がある以上、これ以上徳川を攻めるのはどうなのだろうか。それとも三河・遠江への揺さぶりを続けるか。結局、この日は岡崎城周辺の略奪だけを行うのにとどまってしまった。


 翌日。朝早くに、刈谷城の佐久間信盛からの使者が現れた。そう言えば、刈谷城と岡崎城はかなり近い。つまり、織田軍も実はかなり近くにいることになる。

「武田殿、信盛様は実は同じ使者を同時に徳川殿にも送っております。なにとぞ信盛様を救援していただけないでしょうか」

 使者はそう言って地面に額をこすりつける。

「俺は構わないが、徳川が後ろをついてくる可能性がある以上難しいな」

「大丈夫です。我ら、三河の国衆にも多少顔が利きますので、もし徳川殿が武田の背後を突こうとしても止めてみせます」

 さすがに使者も必死であった。ただ、信盛が生き残るために適当なことを言っている可能性もある。どこまでいっても可能性は消えない。徳川の裏切りにかけて危ない橋を渡るか。それとも徳川が裏切らなかった場合に備えて岡崎城の攻略に専念するか。


「賭けに出るか……」

 今を逃せば、信長は本願寺や西国を落ち着かせて全軍を率いてくるかもしれない。上杉軍も勝利したとはいえ、加賀、越前を越えてくるのはだいぶ先になるだろう。今を逃せば信盛は討ち死にし、徳川が本気で裏切るつもりだったとしても方針を変えるだろう。

 それともここからは守りに入って本能寺の変を待つか? だが、俺がここまで介入した以上変が歴史通りに起こるかも不明だ。やはり今やるしかないか。

「分かった、救援に向かうと佐久間殿に伝えよ。そしてくれぐれも徳川を頼むぞ」

「はっ、ありがたき幸せでございます!」

 使者は再び額を地面にこすりつけると足早にこの場を離れた。


 ついで決心した俺は武将たちを集める。

「皆の者、これより刈谷城の佐久間信盛を救うため、織田信忠を襲う」

 俺の言葉に当然諸将はざわめいた。

「しかし今が徳川を叩く好機では?」

「徳川は交渉して内応させる」

「何と」

 俺の発言にさらに諸将はざわつく。

「確かに、佐久間殿を助ければ徳川も我らを信頼してくれるかもしれませんな」

 昌幸がぽつりとつぶやいた。もし裏切りの原因が信長が徳川を見捨てたことであれば、俺が佐久間を救うというのは意味のある行為かもしれない。


「よし、これより全軍を率いて刈谷城へ向かう!」

「岡崎城の備えはよろしいのでしょうか?」

 城兵の警戒に当てられていた木曽義昌が疑問を述べる。

「ああ、徳川が本気で逆襲してくれば多少の抑えの兵を残したところで勝てないからな」

「分かりました」

 こうして武田軍一万は刈谷城へ向かった。

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