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岡崎城の戦い Ⅱ

 右翼では真田昌幸の忠勝狙撃作戦が功を奏して徐々に押し始めた。一方、左翼では土屋昌恒隊と酒井忠次隊が激闘を繰り広げていた。兵士同士の戦闘は右翼同様、疲弊した徳川軍に対し専業兵士主体の武田の方が有利である。しかし酒井忠次は一歩も本陣を下げなかった。

(どうする? 囲んで討ち取るか?)

 昌恒は考えた。しかし下手に忠次を囲むべく陣を動かし、討ち取ることに失敗すれば逆に陣形が崩れて不利となる。いっそ自分が槍を持って討ちに行こうか。雑兵相手に槍を振るいつつそんなことを考えていると。


「土屋殿、御屋形様よりの使者でございます」

「何だ?」

「焦らず、じっくり徳川勢の疲労を待つようにと」

「なるほど」


 武田軍も連戦続きだが、同じぐらいの期間、徳川軍も遠江駿河に出陣している。である以上、長引けば強行軍の徳川の方が不利である。勝頼の意図を理解した昌恒は即座に命令を発した。

「敵陣の突破より防御に重きを置いた陣形を敷くように。突出することなく、密集して陣を組め」

 ここまでどちらかというと押している武田軍が圧力をかけるような形となっていたが、昌恒の命令により戦況は変わる。武田軍の後退を押していると勘違いした徳川軍が攻め返す。しかし武田軍は陣形を組みなおすと、固く防御に移行する。攻撃に転換しても攻めきれなかった徳川兵はやがて疲弊していった。


本陣

「戦況はどうだ?」

 俺は戦場から戻って来た曽根昌世に尋ねる。昌幸とともに「信玄の両目」とも評された武将である。

「今のところ互角です。ただ疲労は徳川軍の方が大きいかと」

「ならばもう少しこのまま戦闘を続けて徳川軍が瓦解するのを待つか」

「はい。ただ、徳川の将も薄々状況に気づきつつあるようです」


 昌世は少し不安そうに言う。もし徳川軍が俺の狙いに気づけば、どこかで兵を退くだろう。そうすれば勝つのは勝つだろうが、大勝にはならない。徳川四天王の誰かが殿軍を引き受けて整然と退却していく可能性が高い。それに、徳川領内で深追いするのは思わぬ反撃に遭うかもしれないため、厳しい。信玄も三方ヶ原の戦い後、手薄な浜松城への追撃をしなかったと聞く。


 だが、俺としてはここで大勝しておきたかった。徳川軍を壊滅させて織田信忠との決戦に臨みたい。そのためにはここで攻勢に出る方が安全か。

「昌世、徳川軍で手薄な場所があるとすればどこか」

「左翼かと。防御に入る前、わずかですが真田殿が優勢でした」

「よし。本陣から五百の兵を率いて徳川の左翼を襲え。総攻撃だ」

「はっ、かしこまりました」

 昌世が五百の兵を率いて本陣を離れると、俺は立ち上がって全員に命令を下さす。


「全軍総攻撃に移れ! 今こそ徳川軍を壊滅させるのだ!」

「おおお!」

 俺の命令で武田軍は攻撃に移った。疲労がたまっていた徳川軍は形勢の変化にぼろぼろと欠けるように崩れていく。そこへ曽根昌世の騎馬隊が突入した。本来ならすぐに徳川本陣から抑えの兵力が送られるところだったが、全軍が同時に押され始めたため、判断が遅れた。結果、その傷は徐々に広がって致命傷となった。


「昌恒と昌幸は両翼から徳川軍を包み込め!」

 ここで素直に引かせてはならない。いくら殿軍にしっかりした武将がいても左右から包み込まれればなすすべもない。これ以上の継戦は難しいと悟った徳川軍は撤退を図る。武田軍の主に騎馬隊がそれを上回る速さで両翼を包囲しようとする。そのため、両翼の兵力は薄くなるが、長時間の疲労の上撤退を告げられた徳川兵にそれを突破する余力はなかった。徐々に包囲が広がり、左右から包み込まれる中兵を退いた徳川軍は壊滅した。


「突撃! 三方ヶ原の二の舞にしてやるのだ!」

 ここまで井伊直政相手に互角の戦いを強いられてきた小山田信茂もここぞとばかりに追撃をかける。

「何とか持ちこたえよ! 持ちこたえるのだ!」

 井伊直政が叱咤するものの、兵士たちは次々と潰走していった。それを武田軍が追撃して散々に兵士を討ち取る。戦闘中の死傷者の多くは勝負が決まった後の追撃戦で出るという。こうして岡崎城周辺の戦いは同数の兵力で始まったものの、結果は武田軍の大勝に終わった。

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