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美濃へ

天正七年十一月 躑躅ヶ崎館

 俺は躑躅ヶ崎館で跡部勝資を呼んで領地の話をしていた。この一年は主に体制を立て直すことに注力し、実際に米の収穫量が増えるなど目に見える成果は上がっている。しかし実際のところどうなのだろうか。

「一応甲信ではどこに聞いても今年は収穫量が増えた、あるいは回復したとの報告があるが実際のところどうだ?」

「はい、それは間違えありません。おそらく領国全体で平均して前年比二割ほどの増収が見込めていると思われます」

 なるほど。つまり去年俺が甲信で二万の兵を動員したということは今年は二万四千の兵を動員できるということになる。最近は勝資も内政に注力しているおかげで徐々に仕事ぶりも良くなってきている。

 長坂釣閑斎切腹直後は次は自分か、とおどおどしていたようだが今は再び生き生きと仕事をしているように思える。


「何か問題はないか?」

「兵士集めの方も順調に進んでおります。遠くは荒木村重殿や丹波八上城の残党、近くは越後や関東の戦乱で没落した者たちを集めて早くも五千ほどの軍勢が集まっております。しかし彼らは農兵と違い、一度編入すれば年中養い続けなければなりません」

「なるほど」

 言われてみればその通りである。逆に言えば一年中全兵力を使い続けられるということでもあるが。

「そのため、動員出来る兵力の限界は減っているものと思われます。もちろん、今の態勢が続けば収穫が増えてある程度補うことが出来ると思われます」

「ちなみに、今年の収穫量であればどの程度の兵士を維持できると思う?」

「どの程度の扶持で雇うかにもよりますが、一万~一万五千ほどではないかと」

「ならば引き続き兵士集めを頼む」

 ちなみに今現在集めた兵士は真田昌幸と荒木村重に預けている。現在の兵力だけではまだ織田家に勝てない。とはいえこちらの内政立て直しよりも織田家の領国拡張の方が早い。


 俺は勝資の次に千代女も呼んだ。千代女はいつものようにひっそりと現れる。いつも思うのだが彼女が敵だったら俺は気づかないうちに暗殺されるだろう。

「いくつか聞きたいことがあるのだが、まず越後の状勢はどうだ」

「はい、景虎様は領内の諸勢力の抑えに苦労しているようです。というのも景虎様は勝利後に一族の上杉景信、勢力が大きい新発田重家らの領地をいちいち加増しました。景勝の領地を全て奪ったとはいえ、景虎様の直轄領自体はさして増えておりません。しかも上杉家の旗本のうちかなりが景勝とともに死んでいます。そのため、景虎様の権力はかなり弱まっているようです」


 恩賞を多めに与えたのは俺のアドバイスも一因である。ちなみに上杉景勝は御館の乱の戦果を自分に近い者たちで独占し、反乱や刃傷沙汰が相次いだが長期的に見れば集権に成功したとも言える。

 しかも景勝はほぼ己の力で勝利しているが、景虎には俺を筆頭によその勢力が大量に介入している。

「越後は表向きは平和ですが、軍事的にはあまり強くないかもしれません」

「越中や加賀・能登はどうだ?」

「越中は北条景広殿が睨みを利かせており、織田家も増山城で大敗して以来手を出しておらず静かです。そのため景広殿の目は能登に向いており、能登七尾城の遊佐続光は一応大人しくています。ただし、越後の惨状を知った以上、織田家が北上してくればどうなるかは分かりません。その織田家は柴田勝家らが加賀の一向一揆と戦っていますが、中心である金沢御坊が包囲され、時間の問題かと思われます」


「仕方ない、景虎に救援に赴くよう言ってみるか」

 正直あまり気は進まなかった。今の上杉家の状況では兵士を集めたとしても一万五千ほどだろうか。織田軍は二万にもなるという。現地の一向宗が味方し、越中や能登の国衆がきちんと景虎に味方してようやく互角だろうか。

 とはいえ、金沢御坊が落ちれば余計に不利になる。越後では粛清などを行わない限り景虎の権力が強まることはない。だとすれば、勝算が薄くてもやるしかない。俺も援軍を派遣したいのは山々だが、それよりは美濃から侵入する方がいいか。


「ちなみに織田家の西国状勢は?」

「有岡城の落城でもはや反織田勢力は風前の灯火です。三木城の別所長治は驚異的な粘りを見せておりますが、もはや気力だけで戦っている状態で長くはないです。石山本願寺も似たような状況です」

「そうか」

 景虎に兵を出せと言うなら、同じ理屈で俺も兵を出さなければならない。幸い徳川家は信康切腹事件の余波であまり積極的に動くことは出来ない。

「やるなら、今か」

 俺は覚悟を決めた。

という訳でここから対織田編です。

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