表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/66

来る者、去る者

 信康の死後、西三河派の一部家臣が出奔・隠居した。そうした者に声をかけたところ、岡崎三奉行の天野康景、伊奈忠次の二人が応じた。とはいえ二人ともばらばらに勧誘されたため、躑躅ヶ崎館で顔を合わせたときは驚いていた。そして気まずそうにしていた。


 俺は二人が平伏している上座に姿を現す。

「まず初めに言っておきますが我ら信康様への扱いに憤慨して出奔したものの、主家を売るような真似は致しません」

 開口一番天野康景は言った。他家に出奔してきたとは思えないほどの意志の強さを感じる。もしかしたら隠棲するところを無理を言って連れてきたのかもしれない。

「その通りでございます。あくまで一宿一飯の恩義はお返しいたしますが、徳川に弓引くことは致しません」

 伊奈忠次も続く。さすが頑固と噂の三河者である。

「御屋形様に対してその言いよう、無礼であろう」

 隣にいる勝資は腹を立てているが俺はそれを手で制す。正直、仕えてくれるなら贅沢は言っていられない。


「別に徳川家に弓引けとは言わん。武田領でゆっくりしていくがいい。武田の情報を主家に届けるのも構わぬ」

「お、御屋形様!?」

 勝資が思わず声を上げる。目の前の二人もさすがに驚いた顔を見せる。何せ目の前で敵国の領主から「諜報していい」と言われてしまったのだ。

「だが、一介の浪人として領内に仮住まいするよりも、どこかの領地でも治めながらの方が得られる情報も多いのではないか?」

「何と……」

 予想外の展開に驚く二人。俺は主導権を握ったことで少し気を良くする。


「残念ながら我ら武田家は長篠で大量の人材を失っている。戦場で共に戦って欲しいのはやまやまだが、長年の戦で領内は疲弊している。その立て直しをしていただけるだけでありがたい」

「は、はい」

 二人とも思わぬ申し出に困惑しているようであった。俺だっていまだに徳川家に忠誠を抱いていそうな者二人を召し抱えたくはない。だが俺は先ほど千代女から受け取った長坂釣閑斎が信長から金銭を受け取っていたという報告を思い出す。内通しそうな者よりも内通している者の方が問題なのは明らかだった。

「二人には俺の直轄領の城代という形で治めてもらおうと思う。信濃のどこかにしようと考えている故、徳川と戦うことはないだろう、安堵いたせ」

「ありがたき幸せ」

 二人はそう言って平伏するものの、その声には困惑が混ざっていた。まあ当然だろう。


 そんな逃げてきた二人の会見を終えた後、俺の元にやってくる者がいた。長坂釣閑斎である。まさか自分の汚職の証拠を握られているとも知らずに。

「御屋形様、折り入ってお話が」

「何だ」

「実は信長殿より和議の話がありまして。何でも、徳川領は切り取り次第のため織田家とは戦わないという密約を結ばないかと……」


「黙れっ」


 俺は思わず一喝する。釣閑斎は不意の罵声に思わず肩をすくめる。

「信長に我らと和議を結ぶ気など毛頭ないと言っているのが分からぬか! 三木城や有岡城が落ちたらこちらに兵を向けてくるというのが分からぬか! それとも己が銭さえもらえれば何でもいいのか!」

 俺の言葉に釣閑斎は顔を青くする。やはりばれているとは思っていなかったらしい。

「いえ、それは何かの間違えでございます」

 が、そう言う彼の声は震えていた。俺は黙って千代女から受け取った書状を差し出した。そこには釣閑斎の織田信忠にお礼の言葉がしたためられている。


「腹を切れ」

「……いえ、私はただ武田のためを思ってしたまでで、」

「これ以上何か言うなら切腹すらさせぬが」

「ひぃっ」

 こうして武田家は二人の家臣を迎えて一人の家臣を失った。


九月

 武田領内も収穫の時期を迎えた。この一年ほど大きな戦いもなく、農民を耕作に専念させた甲斐もあって順調に収穫量は増えているようであった。新しく赴任した天野康景と伊奈忠次もしっかり城代をしてくれている(ちなみに今福昌和が城代をしていた高島城を任せている)。長坂釣閑斎切腹の報などを徳川に報告しているようではあるが、どの道伝わることなので俺は無視していた。当然、監視はつけているが。

さて、そんな武田家に新たな来訪者があった。


「殿、最強の人材を招くことに成功いたしました」

 珍しく頬を紅潮させた跡部勝資が躑躅ヶ崎館に現れる。

「誰だ? 珍しく興奮しているが」

 そんな大物がいるのだろうか。全く心当たりがない。


「荒木村重殿です」

必死にこの時期に滅ぼされた勢力とか調べました。

多分この話で一番のご都合主義展開です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ