表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/66

三河の不協和音

 天正六年はその後大きな戦いもなく過ぎていった。このころ織田家は柴田勝家らが北陸の一向一揆と戦い、羽柴秀吉・明智光秀らは西国で毛利家や別所長治・波多野秀治らと戦っている。そのため、信長も武田家に対しては静観していた。徳川家康と駿河・遠江での小競り合いは散発的に発生したものの、広がることはなかった。家康としても信長が手を出せない状況で大規模な戦が起こるのを避けたのだろう。

 武田は疲弊しているとはいえ、上杉・北条とは同盟を結び、全軍を徳川に向けることが可能である。家康としては今全力で勝負する必要もなく、それは避けたのだろう。そんな訳で天正六年は静かに暮れていった。


 翌天正七年正月。俺は人材探しや領国の立て直しなどに頭を捻っていた。それでも上杉と戦っていたときに比べるとだいぶゆったりした時間が流れている。

「御屋形様、明けましておめでとうございます」

 そんな俺の元に久しぶりに千代女が現れた。明けまして、と言っている通り年が明けてからは千代女が直々に報告に来るほどの事件は起こっていなかった。

「今年もよろしく頼むぞ」

「はい、どうも三河で家臣が揉めているようです」

「何?」

 俺の中では徳川家は比較的結束が固い家だと思っていたので、少し驚く。ちなみに他で固いのは北条家、ぼろぼろなのが上杉家、普通ぐらいなのが織田家である。上杉家は謙信個人の力量により何とかまとまっていただけで、信玄の調略でしばしば反乱が起こっていた。織田家は規模が大きくなったため、家臣同士の対立などは順当にあるらしい。だが、徳川家か。


「調査の経緯などをいちいち話すと混乱するので、出来事の時系列を追ってお伝えします」

 おそらく千代女の元には三河に放っている部下から断片的に情報が送られてくるのだろう。誰と誰が喧嘩したとか、最近派閥を組んでいる、とか。



 事の発端は桶狭間の戦い辺りまで遡る。今川義元の死後、徳川家(当時は松平だが)には二人の重臣がいた。石川数正と酒井忠次である。数正が西三河、忠次が東三河に領地を持っていた。そのため、織田家と戦うことになれば数正が、今川家と戦うことになれば忠次が先鋒になるということになる。

 そんな中、家康(当時は松平元康)は清州同盟を結び、今川家を攻めることに決めた。ただ、松平家はそもそも今川家に従属していたため親今川派がいる。というかそもそも、家康の正室である瀬名姫が今川義元の姪である。


 とはいえ、その対立も表立ってのものではなかった。家康が今川家を滅ぼす前に信玄が駿河に侵攻したからである。結果的に家康は北条家と同盟を結んで武田家と対峙し、氏真を北条氏康の元に送り届けている。その後武田家との戦いになるに及び、派閥対立は沈静化した。

 しかし長篠の戦い後、ひとまず武田の脅威がうせたことで派閥対立が再燃したという。もちろんもはや親今川・親織田という方針をめぐっての対立ではなく、派閥のための対立に変わっていたが。


「しかし仮に西三河派、と呼ぶが彼らは何を企んでいるんだ?」

「どうでしょう。単に人事で徳川家の中で主導権を握りたいだけのような気もしますが……分かりません」

「なるほど。ちなみに彼らが武田につく可能性はあるのか?」

「現状薄いような気がしますが……注意してみます」


 しかしそこで俺はふと疑問に思う。俺の知ってる歴史に徳川家の内紛なんて話はなかった。ということは結局解決して終わった事件ということか? そもそも桶狭間の戦いからずっとあった話だからそれで今更大規模なもめごとになるとも思えない。それとも俺の行動が何かの引き金になって表面化した対立なのだろうか。


 ちなみにまだ今川家があったころ、武田と徳川は同盟を結んでいた。そのころ徳川とやりとりした家臣がいないかと思ったが、山県昌景らすでに戦死した者たちであった。

「くそ、長篠の戦い前に転生してさえいれば……」

 俺はどうにもならないことに後悔した。

察している方もいるかもしれませんが、この話は戦国時代まあまあ有名なあの事件に繋がっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ