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水田開発と傭兵

天正六年十一月五日 躑躅ヶ崎館

「なかなかにひどい有様だな」

「はい、ここ最近、遠征につぐ遠征で農民は耕す暇もなく……」

 一緒に歩いているのは跡部勝資と長坂釣閑斎だ。内政について相談するとなるとこの二人ぐらいしか人材がいない。他に頼りになりそうな武将は大体、どこか遠くの守りに就いている。


「どうでしょう、ここは資金さえ任せていただければ水田を復興させてみせましょう」

 釣閑斎は賄賂を受け取ると評判だが、金を預けても大丈夫なのだろうか。俺は今度は勝資の方を向く。

「人手があれば水田は戻ると思うか」

「そうですね。荒れた原因が人手不足なので……。もしちゃんとした人員がいればまだまだ開墾の余地すらあるかと。……もっとも、信玄公の時から甲信は戦乱に継ぐ戦乱で常にちゃんとした人員がいた時代はありませんが」


「なるほど。釣閑斎はその金をどう使う気だ?」

「え」

 何か後ろめたいことを考えていたのだろうか、釣閑斎は一瞬沈黙する。

「いえ、そのお金で人を雇い、開墾に当てようと……」

 その途中で一部を懐に入れる気だったことは間違いないだろう。近く証拠を掴んで処分しようと俺は心に決める。

「しかしそれなら、お金で兵士を雇って農民に耕作に専念させては?」

「確かに、謙信が死んだ今となっては甲信に敵が攻めて来ることはないでしょうし、徴兵さえしなければ農民は農業に専念できるでしょう」


 勝資の発言は悪気はないのだろうが、織田も徳川も武田本国にまでは攻めてくるまいという無意識の慢心が感じられる。確かに武田にとって両者は常に攻め込む相手であった。今も攻められているとはいえ、遠江や駿河といった、武田領としては日が浅い地域ばかりである。とはいえ、俺も甲信の地を攻めさせるつもりは毛頭ないので特に突っ込まない。


「ですが、大量の傭兵を雇うとすれば大金が必要となります。そんな金が一体どこにあるやら」

「まあそんな金があればこんな状況にはなっていないからな。だが当てはないこともない」

「ほ、本当ですか!?」

「と言っても、俺は文を書くだけだがな」

「もしや……またですか?」

 俺の言葉に勝資は呆れたような表情になる。

「いいだろう、使える物は何でも使う。これが戦国の世の掟だ」

「そうですが……そう何度も使えるのでしょうか」

「分からないが、押せば何とかなるタイプの気はする」

 そして俺は筆をとった。


『氏政殿


先日は佐竹との講和が無事成って良かったです。 最近急激に寒さが増してきましたが体調など崩されていないでしょうか。この頃武田家は出兵続きでかなり辛い状況です。特に資金繰りには深刻な困難が生じています。氏政殿は順調に領土も増え、宿敵上杉家の問題も解決し、順風満帆なようで何よりです。出兵が続くといつの間にか財政に問題が生じていることがあるのでお気を付けください。

                                   勝頼』


「本当にそれで大丈夫なのでしょうか」

「分からん。最悪、景虎に無心する」

「えぇ……景虎殿は越後の掌握が大変だからしないって言ってませんでしたっけ」

 勝資は若干呆れた様子になる。確かにそれはそうだ。

「分かった、じゃあ一文付け加えておこう」


『景虎殿も越後の統治に苦労されている様子なので迷惑は出来るだけかけたくありません』


「ひどい……」

 勝資は頭を抱えた。

「という訳で、とりあえず金で雇えそうな兵士に当たりをつけておいてくれ。工面出来たらそのときは頼む」

「はい……」

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