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景勝の一手 Ⅱ

 武田軍が総攻撃を始める少し前。増山城背後の山に向かっていた土屋昌恒らは複雑な山の中を行軍していた。先鋒を務めるのは椎名小四郎という上杉派の越中国衆である。

「思ったより複雑な道だな」

 昌恒は何気なく口にした。傍らで河田長親が首をひねる。

「もしかしたら道に迷っている可能性があります。ちょっと確認してまいります」

「頼む」

 長親は一礼して足早にその場を立ち去る。

「とりあえず一時停止、休息だ」

 道に迷っているのであれば闇雲に進んでも仕方ない。あまり時間をかければ本隊との挟撃に遅れてしまうからもし長親が手間取るようであれば自分で確認に行こう、と思いつつ昌恒は座って水筒に口をつける。が、異変はそのときに起きた。


タタタタタタタン!


 不意に遠くで軽快な銃声が聞こえてくるとともに悲鳴が響き渡った。

「まさか」

 昌恒の表情が変わる。一応山の中を行軍する以上物見は放っており、近くに敵軍がいないことは確認している。それでこうなるということは。しかも長親が側を離れたこのタイミングということは。

「おのれ、謀ったな」

 昌恒は天を仰いだ。が、呆然としていても被害は増えるばかりである。

「よし、ここは……」


 一方そのころ武田本隊は。

「追え、二度と越中の土を踏ませるな!」

 五千の別動隊を派遣したとはいえ、一万五千対一万で兵力的には優位である。先鋒の北条景広・小山田信茂隊は織田軍を押しに押していた。

「うわああああ」「逃げろ」「退くな、退くな!」

 指揮官は懸命に立て直そうとするが兵士の退却は止まらない。織田軍は先を争うようにして山に逃げ込む。


(かかったな。山に入って立て直しを図るつもりだろうが、そうはさせない)

「追撃!」

 武田軍一万五千は津波が押し寄せるように織田軍に襲い掛かり、山に入る。織田軍は何とか立て直そうとするが、押されるがままだった。

「よし、これならいけるか」

 が、そこで異変が起こった。不意に味方の側面から喚声が聞こえてくる。おかしい、敵は前方にしかいないはずだが。

「御屋形様、増山城の兵士が我らの側面から襲撃!」

「そういうことか」


 思わず嘆息してしまう。景勝は窮余のあまり織田軍を頼ったのか。降伏して織田家に仕えるつもりなのか、一時の方便としているのかは分からない。道理で織田軍の侵攻が早かったのか。越中の景勝派は織田軍の侵攻とともに離反する手はずになっていたか。だとすれば別動隊の昌恒も危険かもしれない。

「いかがいたしましょう?」

 本陣にいた勝資が狼狽している。本当は熟考したかったが、状況はそれを待ってはくれないだろう。俺は意を決して口を開く。


「うろたえるな! たかが織田軍一万と城兵の数百程度、踏みつぶすだけだ!」

「は、はい!」

「馬を引け。俺も前に出るッ!」

 大将が前に出るというのは手っ取り早い士気を鼓舞する方法である。織田軍は飛びぬけて勇猛な将は少ない。いや、いるにはいるが柴田勝家ら越前方面軍に集中している。前に出ても勢いさえ盛り返せば危険はないはずだ。

 昌恒が不在のせいか、俺を止める者はいなかった。俺は馬に乗り、自ら先陣に立つ。周囲は敵味方の兵士でごった返していたが俺の姿を見るとたちまち道が出来る。もちろん敵兵の中には勇躍して襲い掛かってくる者がいたが、一刀の元斬り伏せる。


「御屋形様!」

 俺の姿を見た小山田信茂が驚愕の声を上げる。

「皆の者、御屋形様より後ろに下がれば先陣の名が泣くぞ!」

 泡を食った信茂は下がる兵士を叱咤する。

「上杉家は裏切腰抜けばかりでないと知らしめるのだ!」

 味方(?)の裏切りを知った景広軍も必死で奮戦していた。一時は増山城兵の裏切りで泡を食った武田軍も立て直す。士気さえ立て直せば元々兵力でも質でも勝っている。

「負けるな! 物陰に身を隠して狙い撃て!」


 一方の織田軍も地形を利用して必死の立て直しを試みる。一度織田軍に大きく傾きかけた形勢は再び武田に傾いたものの、また互角に戻ろうとしていた。

 が、そんな中。突然敵軍の後ろから悲鳴が上がる。

「敵襲だ!」

 何とか踏みとどまりかけていた織田軍だったが、突然の背後からの攻撃に急に浮足立つ。

「殿、遅くなってしまい申し訳ありません!」

 やってきたのは昌恒だった。激戦を潜り抜けてきたのだろう、体中返り血にまみれている。が、俺の顔を見て心底ほっとしたようだった。

「昌恒、無事だったか!?」

 むしろ越中衆を率いていた昌恒の方が危険ではなかったか、と思い俺の方がほっとする。

「はい、卑劣な裏切りに遭ったものの、本隊を退かせて数百の兵士のみ選抜して山を駆け抜けてまいりました」

「よくやった」

 立て直そうとしたところに背後から奇襲を受けた織田軍は踏ん張り切れず、敗走した。こうして第二次増山城の戦いでも武田軍は大勝し、織田軍は逃亡した。


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