表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/66

景勝孤立

七月二日

 土屋昌恒・北条景広が越中で戦いを繰り広げていたそのころ。

「景勝や坂戸城を落とすのは難しいと思うので、揚北衆の調略を行おうと思います」

 春日山城を包囲しつつ、景虎はそんなことを言った。


 揚北というのは阿賀野川以北を指し、揚北衆というのはその地域に領地を持つ国衆を指す。特徴としては比較的大きな所領を持つこと、独立性が強いことだろうか。現在の有名どころで言えば、本庄繁長・色部長真・新発田重家・安田顕元・五十公野信宗らだろうか。

ちなみにいずれも景勝派であり、蘆名氏とは対立している。景虎派には本庄秀綱らがいる。上越・中越では景虎派が優勢だが、距離が遠いこともあり依然として彼らは景勝派であった。


「とはいえ揚北衆は我らに味方する蘆名氏と対立しているが?」

「はい。そこで中でも一番勢力が大きい新発田重家にしぼっての調略を行おうと思います」

 新発田重家。元々五十公野治長と名乗っていたが、新発田家の長敦の死後、家督を継ぐ。蘆名との戦いを一番活発に行い、史実では御館の乱後に恩賞のもつれから景勝に謀叛を起こし、蘆名氏と結び足掛け七年に渡り景勝を苦しめた。

「それなら相応の恩賞を用意した方がいいかもしれぬな」

 まさか恩賞が足りないと謀叛を起こしますよとは言えず、俺は遠回しに告げる。

「なるほど。でしたら本庄・色部の領地を削って重家に与えることにします」

 五十公野信宗は重家の弟で、安田顕元は重家と親しいらしい。そのため、景虎は残った二人を標的にすることに決めたらしい。人畜無害そうな性格をしていて、意外とシビアなことを考えているな、と俺は感心する。

「そうだな。重家らが味方すれば、蘆名と結んで本庄・色部を討つことも可能かもしれない」

 という訳で景虎の使者が揚北に走った。


七月八日

「勝頼兄上、ついに新発田重家が我らになびきました! 五十公野信宗・安田顕元・長沢道与斎らも同心するとのことです!」

「本当か」

 これで越中から揚北まで旧上杉領全域に渡って景虎派が優勢となった。

「はい、武田軍二万の存在に加えて、つい先日の増山城での戦いも重家の心を動かしたとのことです。重家らはこれまで敵対してきた蘆名の軍勢とともに本庄・色部の攻撃に向かいました」

 史実でも重家は景勝に反旗を翻すなり今まで散々敵対していた蘆名と手を結んでいる。戦国の世の習いとはいえ、めまぐるしい。

「よし、良くやったな景虎」

「いえ、これも兄上の助言のおかげです」


七月十日

 越中での戦いに勝利した土屋・北条軍が春日山城周辺に帰還。連合軍の士気は上がった。また、春日山城に籠城していた上杉一門の上条政繁が夜陰に紛れて脱走。景虎の軍門に降るなど景勝軍には士気の低下が目立った。

 それでも春日山城の守りは固く、軽く攻めてみたが落ちることはなかった。


七月末

 北条氏邦・北条高広らの軍勢が樺沢城を攻略。景勝本拠である坂戸城を包囲した。すでに景勝方は越後全域で劣勢となり、春日山城の包囲を厳重にしなかったとしても、兵糧を運び入れる当ては尽き始めていた。


八月上旬

 蘆名・新発田連合軍が本庄・色部連合軍に勝利。本庄繁長・色部長真は自城に籠るしかなくなった。

 戦況は確実に有利になっていったが、一つだけ不幸があった。武田家を支えていた大黒柱の高坂昌信が病で息を引き取った。享年五十二であった。


春日山城内

「さすがにこれ以上は無理か」

 景勝は天守から天を仰いだ。城を包囲する武田軍は一向に帰る気配がなく、むしろ敵に寝返った越後諸将が加わり増えてすらいる。一方の城内は日を追うごとに人が減っていった。前回の攻撃は跳ね返したが、今総攻撃を受ければどうなるか。

「徳川も役に立たないな」

 本来敵(織田家)の味方である徳川家は景勝にとっても敵なのだが、武田家という共通の敵がいることで実質的な同盟関係にあった。景勝は盛んに家康に使者を送ったものの、今年すでに一度負けている徳川軍は申し訳程度の出兵に留まっていた。


「殿、殿は何があっても景虎への勝利を望まれますか」

 不意に後ろから兼続が現れる。景勝は上田長尾家から上杉家に養子に入っているが、兼続も身分の低い家から名門直江家に養子に入っており、二人の間には単なる主従を超えた共犯関係に似た関係があった。

「ええ」

 景勝の意志は揺らぐことはない。生家を乗っ取られた景勝にはもはや上杉家を乗っ取るしか己の居場所を得る手段はなかった。

「ならばまだ一つだけ手段が残っております」

「そう。ならばそれを実行するまで」


長かった御館の乱もそろそろ決着に向かいます。

ただ、実際の歴史だともっと長い時間がかかっているんですよね。

IF戦記だと主人公が最適(に近い)行動をとるので主人公回りだけすごいスピードで進んでいくのに、回りの進行は史実のままだとそこに違和感があります。

何とか話のスピード感を損なわないようにその辺の違和感をどうにかしたいものです。


追記:評価者22人&ブクマ222件達成しました! 次は33人&333件目指しますw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ