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謀略戦

六月二十一日


「全軍突撃!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 夜明けとともに、連合軍は雄たけびを上げて春日山城に攻めかかった。とはいうものの、南方以外は山に囲まれているためどうしても攻め手は限定される。武田軍は春日山城南面に集中せざるを得ず、数の優位を生かしきれない。

 一方、景虎軍は山間から攻めかかるものの、数が少ないために攻撃に激しさがない。従って景勝軍の兵士は南方の武田軍側に集中することになった。


「撃て!」

 城内から鉄砲が火を吹き、城壁にとりついた兵士がばたばたと倒れていく。だがそれも想定のうち。こちらに向く兵士が多くなれば、景虎と戦っている山浦国清が裏切りやすくなる。

 だが、待てど暮らせど国清の裏切りはない。このままではいたずらに損害が増えていくばかりだ。

「狼煙を上げよ」

 国清の裏切りを促す狼煙が上がる。すると。


 突然、武田軍側の城門が開く。そこから現れたのは掲げられた一つの首だった。その下には立て札があり、“裏切り者の首”とだけ書かれている。

「やられた」

 俺は臍を噛んだ。まさか露見していたとは。が、その光景を見た兵士に動揺が走る。そこを容赦なく城内からの銃火が襲い来る。

「退却!」

 こうして初めの総攻撃は連合軍が被害を出すだけに終わった。


「御屋形様、大変です! 駿河から徳川家康侵攻の報が!」

 その夜、使い番が息を切らしながら本陣へ駆け込んでくる。

「何だと!?」

「はい、徳川軍七千が再び田中城攻撃に出立したとのことです!」

「そんなばかな……」

 この前徳川軍を破ったばかりなのにもう再侵攻してきたのか? と思ったところで俺は思い出す。確か史実では徳川軍の侵攻はもっと後だったはず。俺の越後出発が早まったからそちらも早まったのだろうか。いや、史実と違い俺は徳川軍に打撃を与えている。そう考えるとこの知らせには納得できないものがあった。

「いかがいたしましょう? 一部軍を残して駿河に反転しましょうか?」

 狼狽した様子の昌恒が問うてくる。

「いや、もう少しだけそれは待ってみる。引き続き春日山城の包囲を」

「か、かしこまりました」


 俺はその後千代女を呼び出した。

「申し訳ありません、国清の件、気取られました」

 千代女は呼び出されるなり頭を下げる。

「それはいい。国清がうかつだったのだろう。それよりも本当に家康の駿河侵攻は本当か?」

「いえ、私の元にはその情報は来ておりませんが……」

 千代女は首をかしげる。

「そうか、やはりな。一応真偽を確かめてくれ」

「はい、かしこまりました」

 千代女は一礼して俺の前から消える。


翌日

 俺の本陣に千代女が影のように現れた。

「御屋形様、徳川軍の駿河侵攻の件ですが何者かが武田兵に変装してもたらした誤報のようでございます」

「やはりか。景勝め、そっちがその気ならこちらにも考えがある。信濃の須田満親、岩井信能らの家族を捕えよ」

「はいっ、必ずや景勝に一泡吹かせてみせます」

 千代女も今回の件は出し抜かれたと感じたのか、いつも淡々としている口調に少しだけ熱が籠っていた。


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