第6話【友情か、Cカップか】
「なぜ、助けなかった」
あたしは執事へと歩み寄り、問いかけた。
情けなくも地面に膝をつき、手を伸ばそうとしていますが届きませんよ、というアプローチをしていた執事。
彼はあたしの方へ振り返ると、さらりと何事もなかったかのように立ち上がった。
「それが、当家のためだから、でございます」
「なんだよ、家って。そんなんが理由になるのかよ」
「あの子は…まがい物なのです」
ワケが分からない。
部外者に話せる内容ではないということか?
あの子は、ジェシカは、あたしにおっぱいをくれた超恩人なんだぞ。
「…あんたさ。あの子の執事やってんだよね」
「ええ、あの子のおしめを変える頃から、付き従っております」
「それでなんの情もないのかよ」
「…ええ。ありませんとも」
そう言って、彼はどこか遠い目をした。
ふざけんな。
「あの子には、助けにいくだけの価値もないってか」
「…さようでございます」
まるで、何を言われても動じないと言わんばかりだ。
執事は銅像か何かのように、ピシリと硬い。
いいだろう。
言ってやんよ。
言っても無駄だとは思うが、伝えずにはいられない。
「おい、ジジイ。
自分に価値はないと思い込んだ女性が、どれだけ惨めな思いをすることになるか。
考えたことはあるのか」
「―――ッ!」
それだけ言うと、あたしは背を向けて、歩き始めた。
ハッキリ言おう。
初めて来た町で、さらわれた人間を探し出すことなど物理的に考えて不可能だ。
そう、物理的には。
きゅっ、とあたしは自分のCカップを掴む。
くぅ、くそぅ、くそぅ。
おっぱいからサフを感じる。
サフがささやくところによれば、人を探す魔法も使えるそうだ。
しかし魔法を使ったら、せっかく育ったおっぱいがしぼんでしまう。
友情か、おっぱいか。
究極の二択が、あたしの脳内で繰り広げられていた。