第一話【おっぱいがなんだ】
連投するよ(((ง'ω')و三 ง'ω')ڡ≡" シュパパッ
「〇〇〇は可愛いね。
猫みたいに大きなお目めはお母さんそっくりだし
さらさらの黒猫みたいな髪も、猫みたいなしゅっとした小顔もお母さんそっくりだ」
という猫好きのパパンから貰える無償の愛を真に受けたあたしは、
おっぱいという重要な要素が欠落していることに気付かぬまま、一生を終えた。
はず、だった。
神奈川県某所で生まれたあたしは、こんな風景は知らない。
石畳の上を馬車が走る光景を。
電柱さえなく、家すら石造りである世界を。
なんだ、この、異国情緒あふれる空間は。
ドイツ村か?これが噂のドイツ村か?
「あたし……どうしたんだろ」
街ゆく人々の服装もどこかおかしい。
社会科の資料集で見たことある。
中世ヨーロッパ風の服装じゃないか。
あたしは自分の服装を見下ろす。
寝巻であるTシャツに短パン。
まるで、映画の舞台に着の身着のままで来てしまったかのように異質だ。
「ここ、マジで」
察しの悪いあたしでも分かる。
異世界転生なんて信じたことはないけれど、そうかもしれないと。
「……」
あたしはもう一度、自分の身体を見下ろした。
転生って言ったらアレだよね。
なんか神様から無理難題を押し付けられる代わりに、ひとつくらいお願いを叶えてくれるとかいう。
そうしたらアレだよね。
願うのはひとつしかないよね。
ぺたーん(あたしが自分の胸を触る音)
つるーん(あたしがもう一度自分の胸を触る音)
ふんふん。なるほどなるほど。
そういうお願いを聞いてくれるような神様はいないってことですかね。
それじゃつまり、あたしはAAカップということになりますよね。
「ふ、不服だーっ!
リセマラを要求するーっ!」
うっがーとがなり立てるあたし。
しかし、空からはなんの返信もない。
通行人がなんだなんだとあたしを見てくる。
なんだもへったくれもありゃしない。
あたしの胸にはなにもありゃしない。
こんなあたしに向かって、紳士的な男性がそっと近づいてきた。
「そんな何もないところでどうしました、マドモアゼル」
「あァ?! なにがないって?
お前どこ見て言ってんだあァんコラァ!」
「ひ、ひぃいっ!?」
はぁ、はぁ。しまった、ついパニックになって取り乱してしまった。
オーケーあたし。クールにいこう。
もしも、もしもだ。
もしこれが異世界転生だとするならば、っていうかあたし本当に死んだのか謎だけど。
…とにかく、状況を整理しなくてはならない。
「……おい、聞いたか」
などという町の人の会話が聞こえたので、あたしはそっと屋台の日陰に隠れて聞き耳を立てる。
こういう町の人の何気ない会話にほど、貴重な情報があるというものだ。
「ああ、聞いたぜ」
「それがもし本当なら、大変なことだな」
「ああ、大変なことなんだぜ」
「新王女、Hカップらしいな」
「ああ、由緒正しきHカップらしいぜ」
「これでこの国の今後も安泰というものだ」
「ああ、早くその顔を見てみたいもんだぜ」
ふんふん、なるほどなるほど。
「お前ら一体なんの話をしているんだぁああーー!!?」
「わああぁああああっ!?」
話をしていた男たちは蜘蛛の子を散らすように去って行ってしまった。
何か大事そうな話をしているかと思えば、おっぱいかよ。
何か大事そうな話をしているかと思えば、おっぱいかよ!(大事なことなので)
「はぁ、はぁ……ったく」
髪の毛をくしゃりとかき上げ、なんとか平静を保とうとする。
ちくしょう、おっぱいがなんだ。おっぱいがなんだ。
「この世界にあるおっぱいが全て盗まれてしまえばいいのに」
などという途方もない妄想をぽろりと口にしたときのことだった。
( 'ω')o[ 続くよ! ]o