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俺は人で、魔族じゃない……!

 明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。

「……」

『いい加減、機嫌を治したらどうじゃ』

「うっさい……」

『はぁ……我は寝る。機嫌が治ったら呼ぶのじゃぞ』

 膝を抱えて蹲るユキは、アルテアにそう言うとより強く膝を抱きしめた。その様子を見たアルテアはため息の様に息を吐くとそのまま眠りにつく。

 ユキが膝を抱えているのは、何も起こっているからではない。

 朝、起きたらアリシアが居なかった。ただそれだけだ。

 アルテアが夜中にでも出て行ったのだろうとか色々と言っていたが、ユキは呆然と色々とネガティブな方向で考えてしまっていた。アリシアとは色々とあったが、まぁ何とか仲良くなっていきそうだとユキは思っていたので、とてもショックを受けたのだ。

 そして現実を受け入れると、体に引きずられて若干幼くなってしまっていたのかユキは泣いた。

「うぅぅ~……!」

 マジ泣きである。

 それからのユキは酷かった。何時間も唸りながら涙を流し、泣き腫らした目で自棄食いに自棄飲みに自棄風呂(ただの氷風呂)を続けて行って気持ちを発散しようとする。

 だが、心に空いた穴は埋まらない。

「あああああああぁぁああぁああぁぁああぁあああ!」

 氷の剣を生み出すと、ユキは感情のままに洞窟の壁を何度も何度も切りつけ、剣が折れたらまた生み出してを何度も繰り返す。

 やがて疲れたのか、うなだれたユキは荒れた息を整えずに何かを睨みつけるように地面を見つめ続ける。

 頭の奥でチリチリと焼けるような感覚と共に頭を支配するのはどす黒い感情の炎。

「……フーッ」

 崩れるようにその場に座ると、ユキはその炎の熱を逃がすように浅く長く白い息を吐いて今度は天井を見上げる。体の中から生まれる煮えたぎるような熱は、簡単には治まらずにまだまだ体内を燃やし続ける。

「……1人、か」

 たかが1人。されど1人。アリシアだけが特別と言うわけではない。だというのにユキの心を掻き乱すのはなぜか。

 それは簡単。ユキが無意識に思っていた人恋しさが解消されると思っていたのだ。つまり、勝手に期待して勝手に裏切られた。ただそれだけだ。

 でも、それでも。期待が裏切られたら辛いし、悲しい。もうこんな気持ちを味わいたくない。なら、どうすればいいか。

 力で従えればいい。

「違うっ」

 脳に漏れ出たそれを否定しながら、ユキを頭を抱える。

 漏れ出た事が正解の様に感じるが、それでもユキの心は違うと叫んでいた。

 全てを恐怖させ、従え、自分が王になる。

 そうなれば、誰も自分からは逃げない。

「違う、違う違う違う、違う!」

 油断をすると心が真っ黒に染まって、暴れだしてしまいそうになるのを必死に抑えながらユキは叫ぶ。

「俺は、俺は……人で居たいんだ!」

 女になっても、幼くなっても、魔族になっても、1人になっても、死にそうになっても。

 ずっとずっと、人として生きて死にたい。

 ユキは苦しみに苦しみ抜いて、ようやくその答えに辿り着いた。

 この世界の住人なら当たり前に思うその答えに、ようやく。

「ああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁあ!」

 ユキの苦しみは続く。


(ふむ……)

 寝たふりをしながら、アルテアはユキを観察していた。

 アリシアが消えた事のショックを軽減する為にスキルまで使って納得させてもなお、ユキは苦しんでいた。

(もう少しじゃな)

 ユキは癇癪を起こして苦しんでいるのではない。

 ショックによって目覚めだした魔族の本能によって苦しんでいるのだ。

 魔族は強い征服願望と闘争本能を持ち、それが目覚めるのは大体がユキくらいの歳の魔族だ。

 これは純血であればあるほどに本能は強く、完璧な純血魔族であるユキは最大級の本能が眠っていた。

 もちろん、通常は親が面倒を見るし、仮に本能に飲まれても止める事が出来る。

 しかし、ユキに親などいない。

 居るのはアルテアのみだ。

 だが、当人はこのまま傍観するつもりだった。

(理性が本能に飲まれるか、理性が本能を押さえ付けるか。どちらにしても我にとっては好都合じゃな)

 どう転ぼうが、アルテアにとっては過程が少し変わるだけで結果は変わらない。

 時間も結果が出るまで数時間程度。

 気が遠くなるほどに生きてきたアルテアにとってはすぐである。

(本当に寝て待とうかのう)

 本当にどっちでも構わないアルテアは、結果に若干の楽しさを抱きながら眠りについた。


「ぐぅううぅぅぅ……!」

 苦しみ続けるユキ。

 その苦しみはただの心の問題でしかないと思いきや、その体にも変化が現れだしていた。

 本当にごく一部ではあるが、心を表すかのように瞳以外の白い部分がじわじわと滲む様に黒く染まり、髪も毛先の部分から徐々に黒く染まり出していた。

 力、全て、支配、王。

「俺は、俺はァ!」

 頭は受け入れろと言っているが、心は拒否を続ける。

 そもそもの話だ。

 本能に逆らえる生物など、ほぼ存在しない。

 犬猫などのペットなどは調教すればある程度は押さえ込む事が出来る。

 人間も、ほぼ本能を押さえ込む事が可能だ。

 この世界では、人間に加えて魔族などもそうではあるが……それでもだ。

 先に説明した通り、魔族と言うのは征服と闘争本能が強い。

 これは、魔族が数百年前まで強者こそが正義という戦闘民族的感覚を持っている事に起因する。

 数百万……いや、下手したら数億年以上という途方もない年月をかけて蒸溜に蒸溜を重ね続けた本能は絶対的なものであり、本人の意思では逆らえずに飲み込まれてしまう。

 下手に逆らえば、心が壊れてしまう程に本能は強くなっていた。

「お、レハァ……!」

 人、として……!

 ミシミシと脳裏で何かが軋む音を聞きながら、ユキは悲鳴にも似た唸り声を上げ続ける。

「あああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!」


 軋む音は。


 ゆっくりと。


 砂が落ちるように。


 何かが。


 壊れる音へと。


 変わった。




『……お主』

「……」

 目覚めたアルテアは、ユキを見て一言。

『変わったのう』

 愉快そうに呟いた。

 これで、やりたい事はやり終えました。

 後悔はしてません。

 この後の展開は全く考えていませんので、いつ更新になるか分かりません。

 では、またの機会にお会いしましょう。



↓ 本作品の改稿版的なものです。全く別物になっておりますので、こちらも見ていただければ幸いです。

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