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洞窟革命

「ふんふんふふーん」

 鼻歌交じりにアルテアによって修復された洞窟で寝そべりながら、ユキはリンゴにかじりついている。

 どこからどう見ても上機嫌だ。

 何故、上機嫌でいるのかというと……それは、単純明快。洞窟内だというのに昼間のように明るく、そして見るからにふかふかなクッションがユキを地面の硬さから守っている。

 そう、革命が起きたのだ。

 革命が起きたのは洞窟を直そうとした時。

『直すのであれば……そうじゃな、お主に憑依した方が効率がいい』

 と、アルテアが言いだしたところから始まった。

「憑依って、何すればいいんだ?」

『お主は突っ立っておるだけで良い』

「憑依されたらどうなるんだ?」

『そうじゃな……意識はあるが、体は動かないと言った感じじゃな。心配することはない。我がお主の中に入り、体の主導権を握るだけじゃよ』

 そう説明され、ユキは金縛りみたいなものか、と納得して深呼吸をして心の準備をする。

「よし、来い」

『では、行くぞ』

「ぅ、ぉ……?」

 アルテアの掛け声と共に、ユキは何かが中に入ってくる異物感を感じた。

 そして徐々にその異物感が消えていくのと同じ速度で動かなくなる体。

 そのことに恐怖するが、それが顔に出る前に体の主導権をユキは失った。


「……」

 何かを確かめるように手を握っては開いたりを数回繰り返す。

 ペタペタと自分の顔を触り、笑みを浮かべる。

「あぁ、久しぶりの肉体じゃ。やはり肉体は良い」

 感激し、体を震わせて熱い息を漏らす。

「我、再臨せり。とキメ顔をするべきか。ふふふ、良い。良いぞ。思った通り、この体は良い」

 拳で空を斬り、足で風を斬り、体の実感を得る。それはいつまでも続くかと思われたが、頭に響いた声によって唐突に終わる。

『おい、いつまでやってんだ』

「ん? おぉ、すまんすまん。久しぶりの体で舞い上がってしもうた」

 ユキに憑依したアルテアは楽しそうに声を弾ませながら返答すると、ユキは咎めるように催促した。

『とっとと洞窟直してくれよ』

「分かっておる。だがその前に、お主に魔法というものの使い方を教えてやろう」

 アルテアはそう言うと、崖に向けて手をかざす。

「まず魔法というのはイメージが大切で、次に思い込み。最後に慣れじゃな。今回はお主にも分かりやすいように手をかざすが、慣れてくると一瞥しただけで思い通りに魔法を使える」

 簡潔にそう説明され、ユキはなるほどと思うと同時にふとした疑問を尋ねた。

『俺の持ってる固有スキルに氷魔術があるけど、魔術と魔法って何が違うんだ?』

「うむ。いい質問じゃな。魔術とは魔法陣を使用せずに己の力のみで行使するもので、直接的効果は小規模なものになる。間接的効果も含めれば別じゃが……まぁ、程度は知れておる。お主の氷魔術で言うなら、空気中の水分を集めて凍らせたり、触れたものを凍らせたりするのが直接的効果。生み出した氷で何かを冷やすのが間接的効果じゃな」

『なるほど』

「次に魔法は、大ざっぱに言えば魔法陣を介して行使する魔術じゃ。魔法陣を用意したり、魔方陣に必要な文字などを覚えたりする手間があるが、魔術よりは大規模な魔術が使えるし、強力にもなる。あぁ、後は面倒じゃが星が持つ魔力である龍脈を利用して魔法陣が無事な限り半永久的に発動させ続けることも出来る。その気になれば世界全体を絶対零度に包み込むことも出来るのう」

『つまり魔術はすぐに使えるし、使い勝手がいい。魔法は魔法陣を用意しないと駄目だけど、その分強力ってことか』

 ユキの言葉にアルテアは認識のずれを感じるが、後で矯正すればいいし、特に間違ってはいないので頷く。

「そんなところじゃ。それで、今回は魔法を使うのじゃが」

『あぁ、魔法陣を用意するんだな』

「うむ。魔法陣には二種類がある。1つは何かに刻み込む刻印型魔法陣。もう1つは今からやる魔力型魔法陣じゃ」

『魔力型?』

 ユキの問いに頷きながら、アルテアはかざした手から魔力を放つ。

「簡単に言えば自分の魔力で魔法陣を描く。これをやるには魔力可視と魔力操作のスキルとそれなりの集中力が必要じゃが、慣れれば一瞬で出来る。我が憑依している状態であればお主にも見えるじゃろ」

『この熱気みたいな奴か』

 アルテアの手から空中に向かって熱気を通して見たかのように、ゆらゆらと歪む空間がユキの目に映っていた。そしてそのまま魔力の形が変化し、円を作るとその中に奇怪な文字が形作られる。

「今回は分かりやすくゆっくり、そして空中に浮かべたが、本来であれば一瞬で地面の下などで形成するものじゃよ。放っておいても勝手に消えるし、魔力探知のスキル持ちでなければ罠としても使えるから便利なものじゃ」

 カラカラと笑いながらアルテアは生み出した魔法陣を使って魔法を発動し、崖に空いた穴を小さくしていく。

 メキメキバキバキと怖い音がしているが、崩れるといったこともなく穴が2m程の大きさになった所でアルテアは魔法を切る。

「とまぁ、こんな感じじゃ」

『おぉおおお!』

 すっかり元通りとなった洞窟を見て、ユキは歓声を上げる。

 これで危険を冒す必要がなくなったと喜び、ガッツポーズ───動けないけど───をしてアルテアにお礼を言おうとした時、アルテアが地面にガリガリと何かを書いているのにユキは気づいた。

『何してんだ?』

「敵対生物撃退用魔法陣じゃ。今回は奇跡的に攻撃を受ける前にお主が気づいたからこそ生きておるが、また奇跡が起こるとも限らん。我も寝ておるかもしれんしな」

 アルテアの言う事は最もだと思うが、ユキはツッコミに似た疑問を覚えた。

(幽霊って、寝れるのか?)

 寝るようなことは出来るだろうが、睡眠は出来るのだろうかと気になるユキだが答えは出ない。

 なので、後で聞くことにして魔法陣について尋ねる。

『発動とかはどうするんだ?』

「龍脈を利用しておるから魔力切れは起こらん。発動の方は勝手に発動するので心配はない。まぁ少しでも文字が崩れれば発動せんが……それと、後で洞窟周辺に近づいた者を探知する魔法陣も刻んでおく。それでとりあえずは安全になるじゃろう」

『おぉ、そいつは便利だな』

「それと洞窟内も軽く整備するかのう。洞窟内は氷点下にするとして、後はそこの豚の毛皮を作ってクッションでも作るかのう。お主はまだまだ成長期。骨が歪に育って貰っては困る。育った後に砕いて矯正するのも面倒じゃからな」

 ありえない骨の矯正の仕方を呟かれ、ユキは一瞬冗談かと思った。

 だが、アルテアの声色は冗談を言っている感じではない。よって、本気にやりかねない。

 そう思ったユキは現実から逃げた。

『あー……そうだな』

 そもそも、ユキとしては元に戻す程度で十分であった。

 だが、アルテアはそれを許さなかった。ほんの少しでも害となる事柄を徹底的に排除し、過保護とも言うべきレベルで洞窟を改造していった結果。

 ユキが住処としていた洞窟はもはや快適な住み心地を実現した要塞にまで成り果てる。

 その洞窟の様相を見て、満足したのかアルテアは軽く頷いた。

「これくらいでいいじゃろう。では、憑依を解くぞ」

『あぁ……』

 今度は一瞬で戻ってくる感覚。

 一瞬、体に力が入らず、ユキは転びかけるが何とか踏ん張って転ぶのを回避した。

 そしてアルテアが魔法を使う時に使っていた腕がとてつもなく痛かった。鋭いとか鈍いとかではなく、疲れすぎて痛いといった痛みだ。

「なぁ、魔法を使ってた腕が痛いんだが。痛いというか、疲れすぎて痛いって感じなんだけど」

『あぁ、許容量を超えたか』

「許容量……?」

 アルテアはうむ、と頷くように肯定する。

『生物に魔力が通るとその部分が活性化される。無論、自分が扱える以上の魔力でなければそうならんがな』

「つまり、魔力を使いすぎたと……」

『そうじゃな。お主に分かりやすく言うなら、ずっと腕に全力で力を込めていた状態だったということじゃな』

(つまり、お前のせいなんだな)

 ユキは最後の言葉を飲み込み、安全面から洞窟の中へと入る。

『我はしばし寝る。少しはしゃぎ過ぎたからのう』

「分かった。おやすみ」

『む。おやすみか。久々の言葉じゃ……』

「そうか?」

 そう言ってからユキは、アルテアが何年もの間、あの柩の中にいたことを思い出してもう1度、改めてその言葉を言った。

「おやすみ、アルテア」

『む、むぅ。おやすみ』

 少し上擦ったような声色で、アルテアは返事をするとすぐに無言になった。

「……」

 洞窟内はヒンヤリと冷え切っており、設置された魔法陣によって眩しくない程度に光る天井を見上げると、ユキは無言で取ってきたリンゴ数個を床に置き、アルテアが作った───デカ猪の皮に砂を詰め込んだ───クッションを下敷きに寝転ぶ。

 皮は腹部の物を使っているので柔らかく、中身は砂なのでジャストフィット。獣臭さも魔法で綺麗にしているので全くしない。

 ユキはリンゴにかぶりつき、一言。

「魔法ってすげぇ」

 と呟いた直後が冒頭である。

「あー、マジで安心だわ」

 嘘か本当かは分からないが、自称世界の覇者によって齎された恩恵は凄まじく、ユキの生活レベルは原始時代から近代にまで一気に引き上げられた。

 ユキの目標である何事もなく暮らすことが可能になったのは誰の目から見ても明らかだ。

 とはいえ、それがずっと続かないことも明らかではある。

「後は、俺が強くなれば完璧だな」

 その為の近道を知っている存在もいるし、その存在は自分を鍛えてくれる───というか、鍛える気満々だしで何も言うことはない。

 何の憂いもなくなったユキは、久しぶりに安心し、いつの間にぐっすりとその場で眠りについた。


 ユキが深い眠りについた頃、ユキがゆっくりと起き上がった。

「うむ。やはりいいな」

 そう呟くと、ユキ───アルテアは食べかけのリンゴを齧りながら洞窟を出る。

 外は既に夜。真っ暗闇だが、持ち前のスキルによって昼のように見えているアルテアには関係なく、そのまま森へと足を向ける。

「ちと体が幼いが、まぁ問題なかろう」

 闇夜に浮かぶ月が木の葉の間から森を照らしている中、アルテアへと襲いかかる影が2つ。

「おぉ、ちょうどいい」

 音もなく、4つへと分かれる影の1つを掴むとアルテアは口角を上げる。

「久々に血が滴る肉が喰いたかったところじゃ」

 そして、何かをすする音と咀嚼する音が静かな森に木霊する。

 食事を終えたアルテアは、汚れた部分を魔法で綺麗にするとさて、と呟き目を閉じて柏手を打つ。森に響いたそれが完全に消えたところで目を開く。

「我が眠っている間に生態系が乱れておるな。まぁ最低限のことは守っておるようじゃが」

 そう呟きながら、アルテアは洞窟の少し上の方角を眺める。

 並大抵の者では見えないが、アルテアの目にははっきりと見えるソレ。

「この様子では配下は皆死んでおるか……。寿命か疫病か。それとも我に反抗する者か」

 思いつく理由を並べるが、アルテアは別に理由や結果はどうでも良かった。問題は自分が楽しめるかどうかだけ。

「時が来たら、世界を見て回るというのも良いのかもしれんのう」

 クスクスと笑い、アルテアは月を見上げる。

「新たな体を手に入れ、新たな世界を手に入れた後は宇宙。飽きたら異世界にでも手を伸ばしてみるか」

 それまでに何度死ぬことやら、と呟いてアルテアは洞窟へと向かい始める。

 用は済んだかのようにわき目も振らずに───

「む?」

 ───不意に、アルテアは何かに気づいたのか足を止めて振り返った。

 そのままじっと真っ暗な森を見つめ続けると、不快そうに鼻を鳴らしてまた歩き出した。

 というわけで、ユキちゃんは安全を手に入れました。

 完全な安全を得たわけではありませんが、ある程度の敵は自動迎撃するようになりました。

 ……まぁ、天空都市にある程度の敵なんてほんの少ししかいませんけどね!



↓ 本作品の改稿版的なものです。全く別物になっておりますので、こちらも見ていただければ幸いです。

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