粉雪と天空の覇者
『腹が減ったのう。何かないのか?』
「今取りに行ってる最中……というか、それで感じるのか?」
『うむ。今はお主と同期しておるから、味や匂いまで感じ取れるぞ。しかし、今から取りに行くとは……ちょうど切れたのか?』
「いや、まだ余裕はあったけどさ……」
『であれば、何かあった時のことを考えて余分に取っておくというのがサバイバルの基本じゃぞ』
「……さっきの猪に全部吹き飛ばされたんだよ」
森を歩くユキだが、ユキとは別の声がユキのすぐ近くから発せられていた。
だが、相手の姿はない。
『なるほどのう。であれば、仕方ない』
「はぁ……」
面倒くさい奴の提案を受け入れちゃったなぁ……。
ユキはため息をつき、自分の手を掲げる。
ユキの薬指には、赤い玉が填まった古びてはいるが王族が使うよな指輪が填まっていた。
声との出会いは少し前。
リブラ・ボルボアを倒した後にまでさかのぼる。
「はぁ……」
突然、住処を失った挙句に苦労して整備した風呂も備蓄も失ってユキは途方に暮れていた。
「どうすっかなぁ……」
本当に途方に暮れていた。周りにはリブラ・ボルボアの死骸とユキ以外は何もない。
大穴となった元家を覗き込み、その惨状を眺めて一言。
「マジでどうすっかなぁ……」
どこから手をつけたらいいのかが分からず、ユキはひとまず元家の中に入る。
「もう一度作り直すしかないけど……」
大きくなりすぎた出入口を見て、ため息を一つ。
作り直すには二階建て一軒家一つ分の穴をどうやって塞ぐかが問題だ。氷で塞ぐにしても、溶けては塞ぐを繰り返すのは割に合わない。
というか、これほどの大きさの穴を塞いだことがないので体力が持つかどうか。
別の洞窟を見つけるか作るかした方がいいだろうが、周辺を探索してないので洞窟があるかどうか、洞窟に適した場所なども分からない。
あのリンゴの木より向こうにどんな生物がいるのかも分からない。
「……せめて、この穴が塞がればなぁ」
『困っておるようじゃな』
「え?」
声が聞こえた気がして周りを見回すが誰も居ない。
「気のせいか……」
『気のせいではない』
再度聞こえ、周りを見回すがやはり誰も居ない。
『こっちじゃ、こっち』
気のせいじゃない。
声は頭の中に直接響いていて、ユキは眉を潜める。
「誰だお前」
『うむ。よくぞ聞いてくれた。我は天空王アルテアじゃ』
「へぇー、天空王ねぇ」
現在、天空都市南部の王者だったな確か。つまり……。
「天空都市の王?」
『さよう。我こそが天空都市の王……天空王アルテアその人じゃ!』
「さいですか」
間違いなくやばい相手だ。此処は逃げるに限る。
そう思ってユキが穴から出ようとすると、それを察知したのかアルテアは焦った様子で引き留めてきた。
『待て待て待て! 我はお主の命の恩人。話を聞かんか!』
「命の恩人?」
記憶を遡り、死にかけたことなど最初の日かついさっきしかないのを確認するユキ。
そして記憶のどこにも誰かに助けてもらったことはない。
『そうじゃ。さっきの猪に幻覚の魔法をかけて意識だけを封じてやって隙を作ってやったじゃろう』
ユキが首を傾げていると、アルテアは誇らしげな声色でそう告げてきた。それを聞き、ユキは先ほどのリブラ・ボルボアが動かず、穴に槍をぶっ刺しても反応すらしなかったことを思い出す。
「つまり、デカ猪を倒せたのはお前のおかげってことか」
『その通りじゃ』
それが本当なら、此処で逃げては不義理者となってしまう。
それは流石に人としてどうなのかと思うので、足を止めて穴の奥に向かって顔を向ける。
「それで、天空王様が俺に何の用だ?」
『ちょっとしたお願いがあるのじゃよ』
「お願いって……俺に出来ることか?」
アルテアは無論と言い、指示をし始めた。
『まずはお主がいるこの穴の奥に来るのじゃ』
言われた通りに奥へと向かうと、その先に空間があったのか壁に穴が開いていた。
『その部屋に入るのじゃ』
「了解っと」
穴をくぐり、中に入る。
そこは七畳ほどの小さな小部屋で、壁際に古びた銅像が幾つも並んでおり、部屋の中心に石棺が横たわっていた。
「何だ此処……」
『我の墓じゃよ』
思わずそう呟いたユキに、アルテアが陽気な声色で答えた。
「お前の墓って……仮にも王様だろ。小さすぎないか」
『我は金になど興味なかったからのう。豪勢な墓など要らんよ』
ケタケタと笑うアルテアに、ユキはえぇーと漏らす。
『さて、ここからが我の頼みじゃ』
いったい何を頼まれるのか。ユキはその内容に身構えるが、アルテアは至極簡単な頼みを言った。
『その石棺の蓋を退かしてくれ』
「それだけでいいのか?」
『それだけじゃよ』
「……蘇って、お前はもう用済みだ。消えろーとかしない?」
『せんよ。第一、我はまだ蘇っとらんわ』
「罠とか……」
『ないない。罠などあったら我が蘇った時にダメージを喰らうじゃろう』
「それもそうか」
危険はないと判断し、ユキは石棺の蓋と縁の間に氷を生み出す。
そしてそのまま氷を大きくして石棺の蓋の一部を持ち上げていく。
そうするとあら不思議。蓋が勝手に滑って床に落ちたではないですか。
「これが一番力を使わない方法ってね」
轟音を立てて落ちた蓋に目を向けず、ユキは石棺の中に目を向ける。中に入っていたのは、たった今埋葬されたばかりかのように生々しい老人の死体だった。
高そうな服に豪華な指輪の数々をしており、高い地位にいた人物だと容易に想像できる副葬品の数々。
だが、埋葬されてから気が遠くなるほどの年数が経っていたのだろうか。あっという間に渇き、崩れ、骨のみとなった。
「な、なんだこれ……」
こうなっては、あるかどうか分からないが、蘇生魔法があったとしても復活は出来ないんじゃないだろうか。
『ふむ。やはりこうなったか』
予期していたのかアルテアのその一言でユキは我に返った。
「お、おい。これ……」
『我の体だったものじゃ。中々に頑丈な体だったのじゃが……まぁ耐えきれなかったのならば致し方なしじゃな』
そんな簡単に言うアルテアに、ユキは色々と思う。
復活できなくなったんじゃないのかとか、どうするんだこれとか、俺はこのまま立ち去っていいのかとか、お前はこれからどうするんだとか。
『となると……ふむ、お前』
「な、なんだ?」
声をかけられ、ユキはどもりながらも返事をする。アルテアはそんなユキの様子を無視しているのかしばらく無言でいたが、ふと。
『……もってこいじゃな』
そう呟いた。ユキがその呟きに対して何かを言う前にアルテアが提案をした。
『お主、死んだらその体を我にくれんか?』
悪魔の契約とも言うべき、それを。
「死ん、だら?」
『そうじゃ。我は復活がしたい。そしてこの世をまた統べてやろう……お主が死んだらその体は残る。ただ腐らせるにはもったいないじゃろう。故に我が活用してやると言っているのだ』
上から目線で、既に決定事項とでも言わんばかりの声色。
「俺に何の得が……」
『代わりにお主が……そうじゃな、寿命で死ぬまで。我の知恵や力。我の全てを賭してお主の全ての望みを叶えよう』
ユキが精一杯絞り出した言葉も、アルテアによって切り伏せられた。
ユキ自身には何のデメリットもない。ユキが寿命で死ぬまでユキを守り、そしてユキが死ぬまでユキの望みを叶えられるだけだ。
ユキが死んだ後に、用済みとなった体をアルテアに明け渡すだけ。それだけで、天空王と呼ばれた存在の全てが手に入る。
「……お前は、どれだけ強いんだ?」
『1人で世界を焼き払える、とでも言っておこうかのう』
「世界を……」
途方もないことを聞かされて疑いの念が強くなるユキだが、すぐにそれはなくなった。
やばいのどうのじゃなくて、ダメージや精神的な疲労から考えることを放棄した。
もうどうにでもなれという諦観にも似た感じでユキはアルテアの提案を受け入れた。
「分かった。お前の提案を受け入れるよ、アルテア」
『そうか。では、そこの骨だけの死体から赤い宝石の指輪を取り、好きな指に嵌めよ』
「あぁ」
機械的に、アルテアの言う通りに赤い宝石がついた指輪を手にとって薬指にはめた。
『契約成立じゃな……うん? お主、死にかけとるな。どれ、回復してやろう。キュア。おや、MPもないのう。マジックキュア。汚れだらけではないか、服もボロボロじゃのう。リペア。クリーン』
次々と飛んでくる魔法を受け、体の痛みが無くなり、倦怠感が消え、服が元通りになり、体の汚れが消え去る。
『これでよし。お主の体は何年後かになるかはわからんが、我の体となるのじゃ。汚れをそのままにするなど我が許さんよ』
本当に世界を滅ぼせるのかもしれない。
ユキはそう思い、礼を言おうと口を開いた時、可愛らしい音が部屋の中に響いた。
「……飯」
痛みやら疲労やらが無くなり、体は正直に欲するものを欲した。
『腹が減っては何とやら、じゃな。来た道を戻って食料を探すがいい』
「そうする」
そしてユキは来た道を戻り、その短い道中でアルテアに様々なことを教えてもらった。
アルテアは、今は指にはめた指輪に宿る霊という形らしい。
アルテアは可能な限りはユキをサポートするが、ユキでは手に負えない相手や状況だった時はアルテアがユキに憑依する形でその力を振るい、ことが終わったらユキに体を返還……というよりは、1日以上は体の主導権を得ての憑依出来ないらしい。
詳しいことは理解できなかったが、簡単に言えば生きている生物に無理やり入っても、それ系のスキル持ちではない限りはどんなに強くても憑依しているのは1日が限界らしい。後、指輪は脱着不可に破壊不可らしい。
そう言われて指輪を外そうとしたユキだが、指輪は皮膚に張り付いたようにビクともせず、逆にユキの薬指が抜けそうになったのでユキは諦めた。
もう既に後の祭りである。
ユキは先に空腹を満たすべく食料を確保するために例のリンゴの木へと向かった。
そして冒頭へ戻る。
面倒だけど、居てくれるとすごく助かるし、なんだかんだ言って1人は寂しいしな。
そんなことを考えていたユキの目に目的地が目に入ってきた。
「ここだ」
『ほう。ここか』
例のリンゴの木に到着したユキは、何かを感心したようなアルテアを置いておき、氷で階段を作って収穫をする。
真っ赤に熟れたリンゴを1つ齧り、ユキは満足そうに頷く。
「うん、美味い」
『それはそうじゃろう』
悪戯が成功したような声でアルテアは、そのリンゴの正体を口にした。
『それはミラクルアップルと言ってな。食べる者に一番適した状態に自らを変化させる奇跡の果実じゃ』
「適した状態?」
だからなんだと言うんだろうか。
ユキが首を傾げていると、アルテアはクスクス笑いながら疑問を呈した。
『お主の体温は零度を大きく下回る。対してリンゴは摂氏。食べれないとはいかなくとも高温の食べ物を喰らうに等しい。じゃというのに熱さを感じないのはおかしいこと。そうは思わんか?』
確かにその通りだ。普通の食べ物を食べれている時点で……いや、触れられている時点で気付くべきだった。おかしすぎることだった。
ユキがその事実に気づき、驚愕しているとアルテアは愉快そうに笑う。
『喰らう者に適した状態……お主の場合は、お主が食える温度になり、お主が簡単に食らえる硬さになったという所か。よもや、これほど貴重な物がこんな所に生えておるとはのう。ユキ、お前は幸運じゃったな』
「これ、貴重なのか?」
『当たり前じゃろう。どんな生物も食える果実。しかもとても食いやすい形になり、その上美味いとなれば、人間だけでなくどんな生物も喰らうというものじゃて』
確かに、美味くてとても食いやすいのなら大人気だろう。争いも起き、そしてその際に木に被害が及んだら……それが何回も繰り返されたら……。
需要に対して供給が少なく、結果的に供給元を失う。その典型的な形だな。
「大切にしないとな……そうだ、種は大切に取っておこう」
『ミラクルアップルはその実自体が種じゃ。正確にはミラクルアップルを食べた個体が出した排泄物から種じゃな』
「え」
『更に付け加えれば、不思議なことにミラクルアップルは様々な条件にあった土地に食べた個体が行かないと決して外には出ないのじゃ』
「え」
それってつまり。いや、そう言えば俺ってまだ……。
ユキはとてつもなく重大なことをしていなかったことに気づき、呆然とする。
転生やら生活基盤を整えるのに躍起になっていたとか、安心感ですっぽ抜けていたとかいうべきか。
『その様子じゃと……ふっふっなるほどのう』
「う、うっせぇ」
アルテアの無い顔がニヤニヤしているのを感じ、ユキは慌ててミラクルアップルの収穫に勤しむ。
『そういえば、あの猪は何じゃったんじゃ?』
「リブラ・ボルボアっていう天空都市南部の王者だってよ」
アルテアが不意にそう尋ねてきたので、ユキは収穫をしながら答えた。
『南部の……なるほどのう。南部は亀だったが、いつの間にか猪になっておったのか』
「亀って……もしかして玄武か?」
四方と亀とくれば四獣、その亀と言えば玄武。
そう予想したユキだが、事実その通りだったようでアルテアが感心したように唸った。
『むぅ……よく知っておるな。お主、実は我が生きている時に生まれておったのか?』
「そんなわけあるか。ちょっとした知識だよ……よし、これくらいでいいか」
数日は持つ量を収穫し終え、ユキは階段から飛び降りる。
「帰るとするか」
採れたての果実を齧りながら、籠を背負って帰路へとつくユキ。
『うむうむ。やはり食事は良い』
味を感じているのか、アルテアもそんなことを言いながら共に住処へと帰っていく。
まだ1時間も経っていないが、アルテアとは相性がいいのかもしれない。
そんなことを考えながら……。
「そろそろ色々と教えてくれよ」
ふと思い出して、アルテアに尋ねた。
『色々と言われてものう……なにが知りたい?』
「そうだな……まずは雪女について」
『雪女か。あの種族は面白い種族じゃったな』
アルテアの感慨深げな言葉にユキは何かマズイ種族なのかと不安になる。
『雪女は魔族の1種で、熱に弱く、冷気に強い。人には使えない氷魔術を使える上、氷の魔王になる素質を持つ種族じゃ。中でも氷神と呼ばれた氷の魔王は歴代最強。戦った時に我の右腕を砕きおってのう。傷ついたのは久々で大いに楽しめたわ』
それを聞いた途端、ユキは膝から崩れ落ちた。
平然と使っていた氷魔術が人には使えないという事実。
その上、氷の魔王と呼ばれる確実にやばい存在になる素質があるという事実。そして一番やばいのが氷神という単語。
『どうしたんじゃユキ?』
アルテアの問いかけにも答えられない程に脱力するユキ。
アルテアはそんなユキの様子を見てもしやと思ったのか、アナライズと呟くと驚きの声を上げた。
『お主、氷神の血族なのか! それに神の加護……であれば、こやつは』
ステータスを見る魔法だったのか、アルテアはぶつぶつと独り言を言うと何かに納得したのか軽く息を吐いた。
『中々に面白いことになってるのう』
「うるせぇ……」
アルテアの言葉に頭を抱えながら反論すると、アルテアはしかしと心底分からなさそうな声色をする。
『お主、今はどうかわからんが世界最強であった我に歴代最強とうたわれる氷神の血族としての才能。この二つを持っていると言うのに何故落胆する?』
「俺は静かに暮らしたいんだよ……氷神とか才能とかは要らないんだよ」
『力が不要とは、分からんのう……じゃが、静かに暮らしたいというのは同感じゃ。お主には寿命で死ぬまで生きてもらわないと我が困る』
アルテアも一部のみだがユキに同意したのを聞いて少し元気が出たユキだが、すぐにまたどん底に叩き落とされた。
『じゃが、才ある者が才を開花せぬのは大罪。お主には強くなる義務がある。それが才なき者へのたむけというものよ』
言外に強くなれと言われ、ユキは肩を落とす。
その様子を見て───見えるのかどうかは不明───アルテアはフォローのつもりなのか師匠をかって出る。
『も、もちろん我が色々と教えてやるぞ!』
その言葉にユキの肩が少し反応したのを見て、アルテアは攻め所を見つけたと言わんばかりに矢次早に告げる。
『例えば……そうじゃ! 戦闘法はもちろん魔物の倒し方から帝王学なんでもござれじゃ!』
「何でも……」
『そうじゃ。なんでもじゃ。どんな奴と戦おうと最低でも互角くらいには戦えるくらいはしてやろう』
「互角……」
『お主もせっかくその可能性があるんじゃ。最強を目指してみてはどうじゃ?』
「最強……」
男なら……いや、誰もが憧れては夢破れていくその座。それを目指してはどうか。そう言われて目指さないのは……。
「……最強と行かなくても、程ほどにしとくわ」
『そうか。では、程ほどにしとこうかのう』
「そうだな。程ほどにな」
『分かった。程ほどにじゃな』
「ふっ……ははっ」
『ははははは!』
どちらともなく笑い出し、ユキとアルテア。1人に見えて2人。彼女達は笑いあいながらそのまま元住処へと向かう。それ以外に行く場所などないのだから。
「はははは……なぁ、アルテア。お前って洞窟を作ったりすること出来る?」
『出来るぞ。洞窟どころか迷宮を作れるぞ』
「洞窟で十分だ」
住処への憂いが無くなり、ユキは足取り軽く元住処へと戻っていった。
『神の加護……多少のご都合主義がまかり通るじゃったか。神の祝福によってとてもいいことが起きるなどと大層な謳い文句じゃったが、どれ。いつ使われたのかを見るとしようかのう。アナライズレコード:ユキ《神の加護》』
《神の加護使用履歴を参照します》
アルテアの頭の中に機械音声のような淡々とした声が響くと、情報が頭に出てくる。
『ふむふむ。一番新しいのは我がユキを助けたこと。その前はリブラ・ボルボアの攻撃の余波で我が起きたこと……これも神の加護の効力じゃったか。その前はホールラビットと遭遇。その前は……川を発見。その前はミラクル・アップル発見。これもか。次で最後じゃな。えーと……水が目の前に流れてきた?』
最後の履歴だけは意味が分からず、アルテアは首を傾げるとすぐに読み取った情報を頭の隅に追いやって別の事を考える。
『我の記憶が確かなら氷系統の魔族は……いや、報告した奴が奴じゃ。隠蔽していた可能性もあるか』
アルテアはその可能性に行き着き、呆れたように笑った。
『弱いからどうでも良かったからと言ってちゃんと調べなかった我も我か。強者故の傲慢故の結果……いや、この場合は強者故の傲慢があったからこそ助かったと考えるべきか』
そう呟くと打って変わってアルテアは楽しそうに声を弾ませる。
『死して幾星霜……よもや雪女に助けられるとは、運命というのは分からぬものよ。故に面白きことなのじゃがな』
くつくつと笑い、アルテアは熱い息を漏らしてまた笑う。
『あぁ、楽しい。楽しいぞ。神に感謝じゃな』
全てに飽いた空の王者は笑う。
かつて自らが根絶やしにした者たちに感謝しながら。
新しく見つけたものを楽しむように。
飽きるまで、心の底から、心の中で笑い続ける。
心の中の笑みを隠そうともせずに、新しい体を育てながら……。
今日も天空王は笑う。
Get
天空王の指輪
食料数日分
Recycling
住処
↓ 本作品の改稿版的なものです。全く別物になっておりますので、こちらも見ていただければ幸いです。