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一方的死闘

サブタイトルを間違えて投稿してしまいました。

申し訳ございませんでした。

「これでいいか」

 森の中。

 開けた場所にある洞窟。

 虹色の花に囲まれたその場所に、その少女は満足気に目の前にある透き通った氷で出来た籠を見ていた。

 籠の中には小さく切り分けられた何かの肉があり、その様子はそれはまるで干しているかのように見える。

「あっついな……」

 少女が忌々しげに呟きながら手で日差しを作り空を見上ると、すぐに逃げるように洞窟の中へと入っていた。

 少女が洞窟に入ると同時に、徐々に洞窟の入り口が氷で塞がっていき、そして完全に入口は閉じられた。

「♪~」

 少女のいる洞窟の中は氷に包まれており、洞窟内の温度は氷点下以下にまで下がっている。

 だが、少女は震える事すらせず、むしろ気持ちよさそうに洞窟内を歩く。

「今日はダーツでもしようかなっと」

 そう呟くと、少女は桶のような形の氷の中にある土を手に取ると、それを混ぜながら丸い板のような氷を生み出した。

 蜘蛛の巣状に線が入ったそれを、壁に張り付けると距離を取る。

「はい、パッジェーロッパッジェーロッ」

 どこか懐かしい掛け声を呟きながら、どこからとも無く氷で出来たダーツの矢を構えて投げた。

 ダーツの矢は寸文の狂いも無く、ど真ん中に───中る事はなく、壁へと突き刺さる。

「……」

 無言でダーツの矢を投げる少女だが、その殆どが壁に、ほんの一部が申し訳程度に板へと突き刺さっていく。

 それを見て、少女は最後と言わんばかりに氷で出来たナイフを投げ、氷の板を割り砕いた。

「ノーコンじゃないし、ノーコンじゃ……」

 そう呟きながら、少女はその場に座り込んだ。

「ステータス」

 囁くような呟きの直後、少女の前に半透明の板が出現し、少女はそれを見つめる。

『[空欄]

 Race:雪女

 Lv:13

 HP:180/180

 MP:100/100

 称号:神の加護を受けし者、氷神の血族、瀕死体験者、泥水を啜りし者、上級氷魔術師、ボッチw

 固有スキル:神の加護、ステータス閲覧、絶対零度、氷結、炎熱弱体Ⅴ、瞬間解凍

 スキル:なし』

「スー、ハー……」

 板が消えると、少女は深呼吸をして叫んだ。

「俺は好きでボッチなったんじゃねぇよ! 日中は暑くて遠出できねぇし! 夜は明かりがないから危険だし! というか、草! 草が生えてるってどういうことだよ!」

 床をどんどん───実際はペチペチ───と叩きながら少女は叫び続ると、不意にぐでっと寝転がった。

「なーんて言っても現実は変わんねぇんだよなぁ」

 真っ白な着物の裾がめくれようが関係なく、芋虫のように移動する少女。

 美しい真っ白な髪が擦れようが、帯がズレようが関係なくそのまま移動し続ける少女。

「あ、でも。いつまでも名前の部分? が空欄ってのもなぁ」

 名前……決めるか?

 ずるずると移動しながら、少女はそんなことを考えていた。

 少女が少女として目覚めてから1週間。

 やっとのこと辿り着いた、とても重要な事だった。

(いやいや、名前って普通は一番最初に行き着くところだろ。まぁ、俺は自分の身の安全の方を優先してたから……それに、名前ってのは一生モノだし、安易に決めるのはいけないだろ。考えるのに時間がかかるだろうし、その間は動かないのなら生き残るために時間を使ったほうがいいし。そうだ、俺は効率的に動いた結果だ。そう、俺は間違っていない。今は安全で暇……やることがないから名前を決める。それだけだ。うん、それだけだ)

 そう結論づけると、少女は自分の名前を決めることにし、這って動くのを止めた。

(雪女だし、それ関係の名前にするか)

 ユキ、ミユキ、フブキ、サユキ、コオリ、ヒョウ、セツナ、セツ、コゴエ、トウ……。

 色々と名前の候補を考え、短くない時間悩み続け、少女は決断した。

(ユキにしよう。シンプルイズベストだ)

 そして名前を決めた後に姓も決めると、改めて口に出した。

 世界に自分の存在を伝えるかのように。

「俺は、これからはユキ。ユキ・セツナだ」

 ステータスを確認し、名前の欄が変化しているのを確認すると、ユキはため息をついた。

「これからどうすっかなぁ」

 名前を考えてからはこれからの目的や目標が思いつかず、ユキはしばらく考えた後、そのまま昼寝をすることにした。


 大勢の老若男女が行きかう街。

 時代に関して詳しい人物が見れば、中世辺りだと見当をつける街並みだ。

 客の呼び込みをする掛け声と談笑の声……多くの人々が居ることによって起こる街の声。

 それを起こしているのは、人だけではない。

 二足歩行の動物といった見た目の獣人(ビーストマン)にケモ耳と尻尾もしくは翼が生えた人獣(ワービースト)

 耳が長く尖った美男美女のエルフに低身長短足のドワーフ。

 様々な種族が入り乱れ、街は活性化していく。

 此処は都市国家「リブラ」。

 犯罪以外であればどんな種族だろうと、どんな物だろうと全てを受け入れる完全なる中立国だ。

 リブラにある通常の建物の数倍の大きさを持つ建物。

 中にいるのは木のテーブルを囲み、飲食をしながら相談をする何組もの男女たち。

 此処はギルドという組織の支部の1つ。

 ギルドとは、主に誰かからの依頼をギルド会員に仲介をし、その仲介料で運営されており、世界連合に加盟している国には必ず支部が存在する巨大な組織だ。

 依頼には、指名されて受ける指名依頼と支部に張り出されている依頼書を持ってカウンターにいる受付嬢に渡す一般依頼の2つがある。

 指名依頼は誰かかギルドから指名されて受ける依頼で、一般依頼は難易度別にランク付けされているので、最低でも依頼と同ランクでなければ受けられないようになっている。

 そのおかげで新人がすぐに消えるということは多くはない。

 そしてこのリブラ支部(通称)のカウンターに、黒髪の女性が受付嬢から相談を受けていた。

「動物の臓器が川上から?」

「そうなんです。食い殺された死体から漏れ出たのではなく、臓器だけが流れてきたんです」

「川上というと……リブラの森に誰かが入ったとか?」

「まさか。あそこは特別指定禁域ですよ。周辺にだって勝手に入ることは許されませんよ」

 特別指定禁域は、入るには許可証が必要なほどに危険な領域を示す禁域の中でも最上位の超危険領域だ。

 そんな所に誰かが入り込むということはありえない。

 並大抵の生物なら、入ってすぐに食い殺されて終わりだ。

 女性も言ってみただけなようで、別の原因を考える。

「うーん、となると何かが生まれたとか?」

「動物を解体出来る知恵と技術を持つ何かが、ですか?」

 受付嬢が一瞬で鋭い目を女性に向けると、その目を見て、女性はギルドの意図を理解して頭を抱えながらため息をついた。

 先ほど言ったように、リブラの川上はリブラの森という特別指定禁域だ。

 危険で強力なモンスターがうようよしている。

 例外があるかもしれないのは、調査が行き届いているリブラの断崖と呼ばれる大きな崖の先。

 その先は人類未踏の地なので、その先に何かがいるかもしれない。

 つまり、ギルドは女性が思いついた何かが生まれたかもしれないということに既に行き着いており、こう言っているのだ。

 特別指定禁域を調査し、原因がいなければ未踏査の地も調査しろと。

「仲間と相談させて」

「もちろんです」

 女性はカウンターから離れ、談笑をしている仲間の元へ向かいながら思う。

(この依頼は逃げられないな……)

 そして女性は深い溜息をついたのだった。


 最初は僅かな音だったと思う。

 乱暴に扉を叩いたような、小さなドンドンという音。

「んだよ……」

 起こされたから、少し不機嫌そうに呟くユキはあくびをかきながら音の方を向く。氷の閉ざされた出入り口の向こうから、その音は鳴っていた。

「……」

 前もって作っておいた出入り口から少し離れたところにある別の入口に向かい、表を覗き見てユキは目を瞬かせた。

 第一印象は猪だった。

 葉っぱのような緑色の体毛混じりの猪で、高さはおよそ3m程だろうか。見た目からして強そうなので、とりあえずステータスを確認することにする。

(ステータス閲覧っと)

『[空欄]

 Race:リブラ・ボルボア

 Lv:83

 HP:2820/2850

 MP:1890/18900

 称号:上級風魔術師、天空都市南部の王者

 固有スキル:ボアアタック

 スキル:突風、旋風波、風葬───』

 足元に及ばないほどに強かった。

 え、超格上なんですけど。というか、天空都市って何?

 ユキが驚きや疑問で固まっていると、突然猪が洞窟から距離を取った。

(よし、そのまま立ち去れ!)

 ユキが必死に祈る中、リブラ・ボルボア───ユキ内ではデカ猪───は鼻から大きく息を吸い込み始める。

(なにやってんだ?)

 ユキが首をかしげる中、リブラ・ボルボアが吸うのを止めて一拍。

 森中を衝撃が駆け抜けた。

 ユキはその衝撃で吹き飛ばされ、空を何度もくるくると回りながら舞う

 あ、これ死んだな。

 ユキは直感的にそう思うと同時に地面に向かって落ちていく。

 やばい!

 咄嗟に全身を氷で覆って即席のクッションを作ると、そのまま地面へと落ちていった。

「がっ……!」

 地面に叩きつけられ、氷のクッション越しに衝撃を受けたユキは、自分の体がバラバラになったかのような錯覚に陥る。

 それでもなんとか起き上がり、咳き込みながらも現状を理解しようと周りを見回してユキは戦慄した。

 崖にあった洞窟は丸くくり抜いたかのように跡形もなく消し飛び、その上で周辺数m程の草木が吹き飛んでいた。

「っ……ざけんな、マジで無茶苦茶じゃねぇか」

 十数m程だろうか、それほど飛ばされた上に全身が軋むかのように痛い。

 生まれた(?)場所兼家を吹き飛ばされ、自分自身は満身創痍。

 普通なら逃げるだろう。

 だが、ユキは逃げずに歯を食いしばって身の丈以上の氷の槍を作り出す。

 リブラ・ボルボアは王者の称号を持っているので、周辺にリブラ・ボルボア以上の存在はいないのだろう。

 だが、王者以外の存在はどうだろうか。

 その中に王者と同等レベルが居たら?

 逃げてそれに出会ったら?

 絶体絶命だ。

 なら、死ぬとしてもただでは終わらない。

「一矢報いてから死んでやる……」

 ユキは死ぬ覚悟を決めた。

 王者の余裕故か、それともただ単にユキが弱すぎるのか。

 幸い、リブラ・ボルボアはユキの存在に気づいていない。

 ユキは静かにリブラ・ボルボアの下へ歩き出す。

 気づかれないようにそっとだ。

 リブラ・ボルボアは暢気にフゴフゴ言いながら洞窟があった方を見つめている。

 ある程度近づいたところで一旦隠れて様子を見る。

 一体何が気になっているのか、ユキは疑問に思うがすぐにそれを頭の片隅に追いやると、氷の槍を握り締めた。

 タイミングを見計らって、隠れていた場所から飛び出し、氷の槍をリブラ・ボルボアに突き立てる。

 その場所は穴。

「凍れぇ!」

 スキル絶対零度発動!

 ユキが生まれてから一度も使用したことのなかったスキル絶対零度。

 名前から凄まじいと思い、使わなかったユキ。

 どうせ死ぬならと、ユキはそれを使った。使ってしまったのだ。

 悲鳴も上げずに一瞬で氷の彫像となるリブラ・ボルボア。

(やった!)

 思った以上の成果を上げ、ユキは喜びで顔を綻ばせる。

 しかしそれは一瞬のことで、すぐにユキの顔が凍りついた。

 比喩ではなく、文字通り凍りついた。

「ぇ……」

 パキパキと音を立てて凍り始める髪の毛。

 氷の槍を握る指は凍ってはいないが、既に感覚がない。

 呆然とするユキの体が徐々に凍り始めていく。

「ひっ!」

 短い悲鳴を上げて咄嗟に槍を手放したユキは、地面を伝って水に垂らした絵の具のように徐々に広がっていく霜に息を飲む。

「と、止まれ!」

 震えた声で命令するが、効く訳もなく霜は広がっていく。

 だ、駄目か……ならっ。

「瞬間解凍!」

 別のスキルを使うと、今度は効果があったようで広がる速度と同じ速度で溶けていくのを見て、ユキは胸を撫で下ろした。

「あ、あっぶねー……」

 絶対零度が自分すら巻き込む程の威力を持っているとは思いもしていなかったユキは、霜が消えるのを確認するまでじっとそれを見つめていた。

 最後にリブラ・ボルボアも解凍され、ステータスを確認して死んでいるのを確かめるとその場に倒れ込んだ。

「あー……死ぬかと……いや、普通は死んでるか」

 そんなことを呟きながら、ユキは自分のステータスを開いた。

『ユキ・セツナ

 Race:雪女

 Lv:35

 HP: 4/500

 MP: 5/350

 称号:神の加護を受けし者、氷神の血族、瀕死体験者、泥水を啜りし者、上級氷魔術師、ボッチw、天空都市南部の王者

 固有スキル:神の加護、ステータス閲覧、絶対零度、氷結、炎熱弱体Ⅴ、瞬間解凍

 スキル:絶対零度耐性Ⅱ』

 誰がなんと言おうとボロボロだ。

 超格上を倒したのにレベルの上がり方がおかしいとか、絶対零度耐性があるのに氷や冷気の耐性は無いんかとか、それも全て後だ。

 今は、ただこう思おう。

 生き残って、良かった……!

 地面も絶対零度の影響で冷たいはずだが、関係なくユキは大きな声で叫ぶ。

「生き残った……俺は生き残ったんだ!」

 今、襲われれば終わりだと分かってはいるが、ユキは何度も何度も叫ぶ。

 生き残った、と。

 どれほど嬉しいことなのか、自分以外の誰かに教えようとするかのように。

「アッハハハハハハ!」

 大きな声で笑い続けた。

Get

称号「天空都市南部の王者」

スキル「絶対零度耐性Ⅱ」


lost

風呂

備蓄



↓ 本作品の改稿版的なものです。全く別物になっておりますので、こちらも見ていただければ幸いです。

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