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練習と改築

 次に目を覚ましたら、もう既に夜。

 太陽は沈み、月と星が空を支配する時間。

 それすなわち。

「燃える様な熱射もなく、激しく動かない限りは死にかけることもないということ!」

 まぁ、外に出ないから関係ないけど。

 固い氷で寝ても体が痛くならないし、泥水を飲んでもお腹壊さないし、この体って結構頑丈なんだよな。

 暑さで死にかけるけど。

 ……いや、思い出すのは。もう二度とあんな目に合いたくないし。

「さてと、前は逆上せたから途中で止めたけど。今回は眠くなるまでだ」

 頭を振って悪夢を追い出し、氷結の練習をはじめる。

 今出来るのは、氷塊、籠、梯子、階段、包丁。

 まずは洞窟の中央に氷塊を作り、洞窟内の温度が変わらないようにする。

 気づいたら死にかけとかは勘弁だからだ。

 再びちらついた悪夢を追い出し、練習に集中する。

「想像力が大切だよな……」

 風呂に入っていた時もだが、あまり想像出来ない物や状態では氷塊か変な形の氷になってしまう。

 だから、まずやるのは一番やりやすそうで一番難しそうな鏡だ。

 透明な五角形の氷を作るだけだが、透明ということは不純物が少ないということだ。

「透明な五角形……透明な五角形……氷結!」

 意を決して作り出すが、手に収まる程度の大きさの透明度の低い五角形の氷塊が出来ただけだった。

「失敗か……まぁ一発で成功するだなんて思っちゃいないからいいけど」

 新しく籠を作り、その中に放り込む。

 一々、瞬間解凍していては手間だし、後で使うからだ。

「次っと」

 そこから何度も何度も、何十、何百と作っては放り込みを繰り返す。

 そして何百回目か。

「う、うぉおおおっ!」

 透き通った水晶の様な氷が、俺の手の中にあった。

「慌てるな、俺。傷が付いたらこれまでの苦労も水の泡だ」

 そう、俺が鏡を作るのに躍起になっていた理由がある。

 それは、自分の顔だ。

 種族は雪女だから美女……いや、美少女である可能性は高い。

 だって、元は男だけど綺麗とか可愛いとか気になるじゃん。

 見た目がいいと色々と得するだろう。逆に面倒事も増えそうだけどな……。

 さて、それは置いといてだ。

(ついに自分の顔と、ご対面だ!)

 苦労して作り上げた氷のプリズムを覗き、自分の今の顔をじっくりと見る。

 簡単に言うと、真っ白な肌に大きな目の可愛い女の子。

 顔立ちは凄まじく整っているといってもいいだろう。

 神が作りたもうた奇跡といってもいい。

 ……ごめん、言い過ぎた。

 でも、滅茶苦茶可愛いということは確かだ。

 大きくなれば絶世の美女になることは間違いないことは確かな美少女だ。

 ただ、問題は……年齢二桁行くかどうかくらいの見た目だってことだ。

(やっぱり幼女だった。幼女だったよ)

 orzの姿勢に崩れ落ち、若干精神的ダメージを受ける。

 幼女が悪いわけじゃない。

 力もなく、身長も低いのでサバイバルには向かないだけだ。

(……幼女であることは一旦置いておこう。まずは武器の練習だ)

 幼女であることを忘れるかのように、俺は氷結の練習に取り組んだ。

 まずは包丁。その次に鉈。斧、槍、刀、弓矢、ナイフetc…。

 前回失敗したナイフにも挑戦し、何度も往復して練習する。

「くぁ……今日はこれくらいにしとくか」

 ある程度の出来になった頃、眠くなってきたので寝ることにした。

 幼女は体力がないからか、よく眠くなるな……。

「お休み……」

 ベッドに倒れこみ、そのまま眠りについた。

 その後、眠りやすい状況───極寒状態の洞窟───であることが原因で眠気が襲ってくるのだと気づくが、どうしようもないのでそのままにしておく。

 練習の間は、ずっと寝ては練習を繰り返し続け、その間の食事はリンゴのみだ。

 ただ、このリンゴ……前に食べた二つよりも美味しくない気がしたのだ。

 十分に美味しいのだが、蜜とか食感とか色々と一段二段下の気がした。

 まぁ、冷凍したせいと言われればそれまでなのだが。

 さて、何日もずっと練習していった結果。

 武器に関しては満足が行くレベルの物を作ることができるようになった。

 このレベルだと武器屋に並べたら売れるんじゃないかってレベルじゃなかろうか。

 うん、自画自賛が過ぎた。

(焦っていたらこのレベルを作れるかどうか怪しいところだけど、実際にそうならないと確かめられないし仕方ないか)

 氷など溶けていく物だし、壊れることだってある。

 だから、後は質の向上を今後の課題として、武器の練習はとりあえずここで終了にする。

 次にするべき練習は遠隔操作だ。

 自分がいる場所から離れた場所に氷塊を出現させ、相手を攻撃するのが目的だ。

(問題は、本当に出来るかどうかだ)

 1m程度なら問題はないが、俺が求めているのは数m以上。

 これは精度だけでなく質と氷結の速度も必要で、正直言って大変だ。

 でも───。

(身を守るのには必要なんだよな。戦うのにも、逃げるのにも)

 せっかくある力を使わないのはもったいない。

 だからこそ、この力でどこまで出来るのか。

 出来ないのであれば練習する。

 サバイバルの基本は生き残ること。

 いつか来るであろう動物か魔物か、それか人間か。

(本当は街とか村とか、人口密集地であれば必要ないんだけどな)

 敵対したときに備え、俺は練習を始めた……。


 集中しすぎたのか、ある程度のレベルまで出来るようになった頃。

「リンゴは取れたてが一番だなー」

 お腹が減ったので、またリンゴの木のお世話になっていた。

 今度は最初から階段を作り、籠に持てるだけ入れて、ちょっと摘まみ食いしながら洞窟へと戻る最中。

 俺はそれを見つけた。

「おっ」

 草むらを掻き分け、出てきたのは何てことのない野うさぎ。

 毛色が緑色なのが気になるが、動物だ。

 じっと見つめながら籠を降ろし、包丁を瞬時に作り上げる。

 質は……大丈夫、練習したおかげか完璧だ。

(ステータス閲覧)

 自分ではなくうさぎにかけると、俺の予想通りにうさぎのステータスが見えた。

『[空欄]

 Race:ホールラビット

 Lv:5

 HP:17/17

 MP:5/5

 称号:なし

 固有スキル:なし

 スキル:なし』

(レベルは俺より高いけど、それ以外は俺より低いな)

 レベルが高い方が強いと思うのは当たり前だ。

 だが、個体もしくは種族によって上昇値違えば話は変わってくる。

(まずは練習中だけどっ)

 腕を振ってうさぎの周りに氷の壁を作り出す。

「ギッ」

 うさぎが戸惑っている間に、接近して───

「ふっ!」

 ───仕留める!

 作戦は功を奏し、包丁をうさぎの首に振り下ろすと、うさぎの首が飛んだ。

 さっくりと、まるで豆腐を切ったかのように簡単にだ。

 飛んでいった頭部を無視して、すぐさまうさぎをすぐ近くの枝に氷を這わせて吊るし、血抜きを行うと氷結で冷凍保存する。

 皮はシーツ代わりにでもしよう。

 内臓は、いくら頑丈と言えど食べるのは怖いので捨てるとしてだ。

 俺はうさぎの頭部に目を向けた。

「……」

 うさぎを殺しても特に何も感じなかった。

 前であれば、何かを感じたのかもしれないが。

 雪女になった影響か、それとも弱肉強食の世界に身を置いているからか。

「……帰ろう」

 いくら考えても答えは出ないし、出す気もない。

 俺は殺した相手の肉を残さず食べる。

 ただそれだけだ。

 そう割り切りながら、少し重くなった籠を背負って俺は洞窟へと戻る。

 今日食べる分のリンゴだけ残し、それ以外は冷凍保存する。

 肉は次の日に外に干すなりすればいいだろう。

 乾燥というのはそれだけで菌を抑制するから、そのまま干しても乾燥すれば腐ることはない。

 腐ることよりも、動物とかに奪われる方に警戒しないといけない。

 洞窟内を見回し、俺はポツリと呟いた。

「……改築するか」

 さっきのモヤモヤを晴らすべく、心機一転で洞窟を改築することを決めた。

 今は洞窟の出入り口から一直線。

 曲がり角もないから、襲われた時はすぐに見つかって死亡になる。

 だから、部屋を作ろうと思う。

「氷のつるはし~……よいしょっと」

 氷でつるはしを作ると、出入り口からは見えにくい奥の場所に横穴を掘る。

 表面を覆っている氷だけを溶かし、つるはしを叩きつける。

 それだけで岩は面白いように崩れていく。

「氷結」

 少し暑くなってくると、熱対策に関節以外の箇所に氷を纏う。

 これも練習の成果だ。

 他にも、液体窒素や液体酸素も作れるが、文字通りの液体なので今のところは頭から被って冷却するくらいしか利用方法がない。

 サバイバルとサバイバル料理の二つ以外は能のない少年でしたよ、えぇ。

「ふぅ……このくらいでいいか」

 子供一人が通れるくらいの横穴を掘り終え、次にそこから徐々に部屋を作っていく。

 出た岩や石は氷結で丸く固めて外へと運び出す。

 それを何度か繰り返し、三つの部屋を洞窟内に作り上げた。

 一つは保存室で、冷凍した物や作った干し肉などを入れるつもりだ。

 一つは寝室で、ベッドとうさぎの皮のシーツで安眠を願う。

 最後は風呂場で、作るときに出た岩や石、外から拾って来る予定の土砂で浴槽を作り、氷結&解凍で作った水を入れるつもりだ。

 川でもいいけど、やっぱり住む場所に風呂くらいは欲しい。

「ふぃー。働いた働いた。汗を流しに行こう」

 リンゴを一つ持ち、凍らせたうさぎも持って川へと向かい、そこでうさぎを解体した。

 肉を洗い、血がなくなった所で再度氷結。

 これで匂いもないし、万が一食べられたとしても食べにくくて途中で止めるだろう。

 そう思いながら、汚れた服を洗い、前回作った湯船に浸かる。

「あーっ今日は疲れたぁ」

 その場の勢いで改築なんてするもんじゃないな。

 そう反省をしながらリンゴを齧る。

「大自然の風呂に入りながら食べるのもいいもんだな」

 誰に言うまでもなく、独り言を呟くとこれからを考える。

 とりあえず、最低限するべきことはした。

 食料調達以外は練習か自堕落な生活を送るかだろう。

 元の世界ではほとんどニートだな。

 そう自嘲しながら、これこそが本来のあるべき人間の姿でもあるのではないか、と思う。

 生き抜くために食料を調達し、生き抜くために研鑽し、それ以外では拠点でゆっくりと過ごす。

「はぁ……」

 祖父の影響か、元の世界で息苦しさを感じていた俺は。

「異世界転生して良かったのかも……」

 初めて異世界転生させてくれた存在に感謝した。

Get

うさぎ肉(冷凍)


After

拠点内の寝室

拠点内の保存室

拠点内の浴室



↓ 本作品の改稿版的なものです。全く別物になっておりますので、こちらも見ていただければ幸いです。

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