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食とお風呂。



「ん……」

 氷に抱きついていたらいつの間にか眠ってしまっていたようで、気づけば雨が上がっていた。

 洞窟の外は、今は朝か昼か、お日様が昇って紫外線をさんさんと大地に放射しています。

 外に出れば、暖かい───俺にとっては灼熱の───日差しを全身に浴びれることでしょう。

 ……いや、現実逃避は止めよう。

(目覚めれば、全て夢でしたーってことにはならないか)

 心のどこかで期待していたのか、それとも未練がましく元の生活を求めていたのか。

 とにかく、俺は異世界転生したのだ……。

(覚悟を決めたってのに、改めて実感するとショックなもんだな……)

 水晶玉くらいまで小さくなった氷を抱きながら、俺は目を細める。

 元の生活……それなりの高校に通い、それなりの数の友達、それなりに裕福な家庭。

 つまらなかったが、失って初めて気づく、その大切さ。

「あぁ、俺……幸せだったんだな」

 もう手に届かない元の性活(幸せ)を思い、俺はこの世界に来て初めて泣いた。


 まだ少し残る涙を拭い、こぶし大まで小さくなった氷を握り締めてステータスを確認する。

『[空欄]

 Race:雪女

 Lv:1

 HP:15/15

 MP:10/10

 称号:神の加護を受けし者、氷神の血族、瀕死体験者、泥水を啜りし者

 固有スキル:神の加護、ステータス閲覧、絶対零度、氷結、炎熱弱体Ⅴ

 スキル:なし』

「全快してるな。よし」

 氷結のおかげで命の危機は脱すことが出来た。

 次にやるべきことは衣・食・住の確保。

(衣は今来ている一着しかないので大切にしよう。氷を抱いて寝ても風邪をひいてないから、風はひかないだろうけど……素っ裸だなんて御免こうむる。食は適当に周辺を散策して探すべきだな。住はこの洞窟を後で整備すればいいだろ)

 そこまで考え、サバイバル術を叩き込んでくれた今は亡き祖父に感謝する。

「ここまで考えられるのは祖父ちゃんのおかげだな。ありがとう、祖父ちゃん」

 代々マタギの家系とか聞いていたが、都会に住んでいた俺はサバイバル術を使う機会など学校の行事でキャンプをする時くらいだった。

「知恵って本当に大切だな」

 知恵と言えば、だ。

「この氷ってどこから来てるんだ? 空気中の水分にしては多いし……」

 雨で湿度が上がっているとしても、たった十分で1mにも及ぶ氷塊を作れるほどの水分があるとは思えない。

 MPとか消費しているのならまだしも、MPは消費されていない。

 どこから凍らせる物を引っ張ってきているのか。

 氷結は凍らせるだけだとしても、何なら凍らせられるんだろうか。逆に、何なら凍らせられないんだろうか。

 疑問は全く尽きない。

 そういうものだと言われれば、そこまでな話なのだが……。

「考えても仕方ない、か」

 そこで思考を止めて、まずは自分に何ができるかの確認だ。

 食を探すにしても、手が届かない場所にある木の実を取れるのかどうか。

 動物───異世界だから魔物か?───から身を守る術。

(氷結を使って、氷の形を自由に出来れば楽チンだな。出来ればの話だけど)

 こちとら、まだ生まれて(?)一日の若輩者だ。

 色々と試すべきことややるべきことが山積みになっている。

(ひとまずは武器と梯子みたいな物を作れるようにしないとな。それから……)

 服の袖を軽く嗅ぎ、頷く。

(洗濯と風呂。乾くまで全裸になるけど、その間は土を混ぜて凍らせたシャツとズボンを身に付けてればいけるか?)

 祖父から教えてもらったのは、木のつるや花の茎などで作った紐で木の葉を縫って作るズボンだったが……原始人的な感じの奴。

 今の体は女───声的には幼女───なんだから、胸も隠しとくべきだろう。

 そこまで考えると、可愛らしい音を立ててお腹が鳴った。

「とりあえず、ナイフを作ろう」

 身を守るためと、動物を見つけた場合に倒すために必要なナイフを作るべく、手を翳した。

「氷結」

 パキキッと音を立てて氷が大きくなっていき、そして氷球が出来た。

「……ま、まぁ最初はな。次だ次。氷結」

 再度試し、まるまるとした氷球が出来た。

「……想像力が足りないからか?」

 少し考え、原因と思われることに辿り着く。

(確かに、ナイフなんて漠然としているしな。十得ナイフや折りたたみナイフに投擲ナイフ。色々と種類があるからな……想像力で出来栄えが変わるなら、イメージしやすい刃物にした方がいい。となると、ナイフは止めて母さんが使ってる包丁で行くか)

 イメージしやすい包丁である母親が使っている包丁をイメージすると、先ほどの失敗は嘘のように簡単に氷の包丁が出来た。

「よっしゃ! 次……」

 次に梯子を作ろうとした時、先程よりも大きなお腹の音が洞窟内に響いた。

「……梯子は見つけた時に頑張ろう」

 腹が減っては戦は出来ぬ故、梯子は後回しだ。

 それぞれを袖に失敗した氷球入れ、昨日の氷塊の残りを懐にしまって熱対策をすると、洞窟の出入り口に向かう。

 出入り口の壁際に隠れながら、頭を少しだけ出す。

 ジリジリと顔を焼く熱線に眉を潜めながら、周囲を確認する。

 昨日から見ていたが、どうやら洞窟は森の中の開けた場所にあり、その外は木々が生い茂っていて視界は悪い。

 洞窟→草花→森といった位置関係か。

 弓師とか魔法があるなら魔法使いがいなければ守りやすい地形と言えるだろう。

 警戒をしながらそろりそろりと静かに洞窟を出る。

 洞窟から出てくるのを待ち構えているのはいないようで、無事に外に出れた。

 そう判断してすぐに見える範囲の木の上の方を見て、俺はため息をついた。

「動物……せめて木の実。何かないのか」

 洞窟前の開けた場所には、見たことのない……というか、虹色の花が大量に生えており、嫌が応にも自分の知識が通じないという現実を思い知らされる。

「最悪、この花を食べることになりそうだな……泥水を飲んでも腹痛とかないから毒がなければいけそうだけど」

 最悪の結果を考えながら、俺は森の中へと足を踏み入れる。

「っと、その前に」

 裸足状態に気づき、即席だが氷結で氷の靴を作る。

 足に直接氷を纏わせて作ったので、ピッタリだし、溶けた水が間に入るので靴擦れとかも起こらない……と思う。

 まぁ裸足よりはマシって感じだ。

『[空欄]

 Race:雪女

 Lv:1

 HP:15/15

 MP:10/10

 称号:神の加護を受けし者、氷神の血族、瀕死体験者、泥水を啜りし者

 固有スキル:神の加護、ステータス閲覧、絶対零度、氷結、炎熱弱体Ⅴ

 スキル:なし』

(ステータスも大丈夫そうだ)

『[空欄]

 Race:雪女

 Lv:1

 HP:14/15

 MP:10/10

 称号:神の加護を受けし者、氷神の血族、瀕死体験者、泥水を啜りし者

 固有スキル:神の加護、ステータス閲覧、絶対零度、氷結、炎熱弱体Ⅴ

 スキル:なし』

(森に入れば、きっと!)

 太陽光から逃れる為に森へと入り、回復しているのを確認すると、そのまま食べ物の捜索に移る。

 森の中は日差しが入らないが、ジメジメとしていて、道も根っこや土の凸凹だらけで歩きにくい。

 だが、こういった場所はあまり人が足を踏み入れていない場所であるということの証だ。

 そうなれば、木の実や動物、キノコに山菜。食の宝庫である可能性が高い。

(出来れば動物以外がいいな)

 動物は火を使わないと寄生虫や菌が怖くて食べられない。

 唯一の例外が、干すこと───生よりかはマシ程度───だが、干すにしたって時間がかかる。

(山菜は何が食べられるか分からないし、キノコは毒が分からないし……やっぱりベストは木の実かな)

 目的を決め、周りを警戒しながら木の実を探すこと数十分。

「ふぉおおおお……!」

 日差しを受け、キラキラと輝く真っ赤なこぶし大の果実。

 そう、リンゴを見つけたのだ。

「氷結!」

 早速リンゴを取ろうと、氷で梯子を作って登ろうとして気づく。

(……階段の方が良くね?)

 梯子だと倒れる危険性があるし、リンゴを取っている間は片手が塞がるのだから落ちる時に咄嗟に対応できない。

 その点、階段は土台をしっかりさせとけば倒れないし、リンゴとかも一気に取れる。

 考えれば考えるほどに階段の方がいい。

(そういえば、凍らせることが出来るのなら解凍も出来るのか?)

 それが出るのであれば、非常に便利ではある。

 梯子を溶かすことが出来るか試すが、何も起こらない。

 イメージが足りないのか、それとも別の理由か何かか。

(どちらにしろ今は駄目か……水の三態が使えれば色々と使い道が出てくるのになぁ)

 無いものねだりをしつつ、梯子も巻き込んで階段を作り上げ、滑らないように気をつけて登ると、リンゴに手が届く距離になる。

 真っ赤で瑞々しいリンゴ。

 良い匂いを放っているそれの下を持ち、そのままクルット回しながら下から上に持ち上げる。

 それだけで、食べごろのリンゴは簡単に取れるのだ。

 他のりんごと比べて大きくもなく小さくもない大きさで、しっとりと重いそれはしっかりと熟していて、蜜も多いはずだ。

 気付けば、口の中は唾液でいっぱいになっていることに気づいた。

 昨日から泥水しか口にしてなく、空腹で数十分もの間、歩き通し、その上で美味しそうな物を前にお預け状態。

(我ながら、よく我慢したもんだよ)

 そう思うと同時にリンゴにかぶりついた。

「っ」

 シャリッと音を立てて齧られたリンゴは、甘く香り高い果汁を溢れさせる。

 咀嚼した果肉を飲み込み、俺は熱い息を漏らす。

「あぁ、美味い……」

 間違いなくリンゴだ。

「美味い、美味いっ」

 一心不乱にリンゴへとかぶりつき、二個ほど食べ終えてから、俺は階段の上に寝転がった。

「ふぃーっ満腹満腹」

 お腹を軽く叩き、満足気に呟くと昨日とは全く違う空を見上げた。

 澄み渡る大空。

 木陰となっているので、太陽は見えないがあいも変わらず光り続けているのだろう。

 優しい風が森を駆け抜け、俺を全身を撫でていく。

 それを心地よく思いながら、そのまま寝転がり続けた。

 そして、ある程度動けるようになった頃合に起き上がった。

「……よしっ」

 氷の籠を作り、持てる限界までリンゴを収穫して籠を背負う。

「これだけあれば、何日かは持つだろ」

 そしてそのまま脇目も振らずに洞窟へと帰っていく。

 色々と散策したいのは山々だが、荷物があっては十分には動けないので危険だからだ。

 洞窟に戻ると、動物たちが寄ってこないように籠に蓋をしてから、新しい氷を懐に忍ばせてから再度洞窟を出る。

 これで、必要最低限の衣食住を手に入れた。

 次にすることは、生活レベルの向上。

 その中でも、最優先事項はもう既に俺の中で決まっていた。

(風呂! それ以外は全て後回し! 昨日の汗で体中ベタベタだし、泥だらけだし、手も口元もリンゴの果汁でベタベタだし、汚れをそのままにしているのは気持ち悪い! そして何より……俺の中の日本人魂が風呂に入りたいと叫び続けている!)

「待っていろ風呂! お湯は無理だから、水風呂か氷風呂になるけど!」

 誰に宣言するでもなく、俺は叫ぶと、意気揚々と森の中へと入っていった……と言いたかったが。

「川だ……」

 洞窟から歩いて十分ほどの場所にそれはあった。

 リンゴの木とは別の方向に歩くと、すぐに見つかったのでじっくりと川を観察する。

 木々によって日差しは完全に防がれている。

 川の流れは早くないし、岸の近くなら深くもない。

 透き通るような水が緩やかに流れ、所々に魚が泳いでる姿も見える。

 水に触れて温度を確認する。

(うん、大丈夫そうだ)

 水は俺にはぬるま湯程度に感じるから、長風呂をしなければ大丈夫だろう。

 そう判断すると、服を脱いで全裸になると、そのまま洗濯板を作って破らないように細心の注意を払って服を洗う。

(うわぁ、どんだけ汚れてたのかが分かるな)

 水に流れていく泥とどんどん白くなっていく服を見て、我ながらドン引きしつつ、使っている間に溶けていく洗濯板をその度に新しく作り直して洗う。

「これでいいかな」

 帯と着物を氷で作った物干し竿に掛け、重しに氷の板を載せて飛ばないようにもする。

 その後、石などを動かして一人用の湯船を作り上げた。

「そ・れ・じゃ・あ」

 やることもやったし……。

「お待ちかねの風呂だぁー!」

 年甲斐もなく、湯船へと飛び込んだ。

 久しぶりの川に、一日ぶりの風呂。

 水風呂ではあるが、ぬるま湯のように感じるので気持ちいい。

「はぁー……極楽極楽」

 つい、常套句を呟いてしまうのも仕方ないだろう。

 因みに飛び込んだ時に湯船の石にお尻をぶつけたのは内緒だ。

(液体……固体……気体……せめて固体と液体の状態変化を自由にできたら、冷凍保存とか解凍とかが楽に出来ていいんだけどな。そう、例えば───)

 氷塊を作り、それを水風船に見立て、水風船を握り潰すせば───。

「───え?」

 今作ったばかりの氷塊が無くなっていた。

 氷塊を握っていた手には少量の水が垂れ、川原へと落ちて染み込んでいっている。

「なん……いや、待て待て待て。氷結は凍らせるだけだろ。なのになんで解凍も出来てんだよ」

 疑問やらなんやらが湧いてくるが、最初に出てきたのは突っ込みだった。

 解凍が出来なかったのはイメージが足りなかったからなのか。

 それとも、何か別の理由があるのか。

 何か、変化でも起きたのだろうか。

「ステータス」

 変化、そう思った時には口からその言葉が出てきていた。

『[空欄]

 Race:雪女

 Lv:3

 HP:30/30

 MP:25/25

 称号:神の加護を受けし者、氷神の血族、瀕死体験者、泥水を啜りし者

 固有スキル:神の加護、ステータス閲覧、絶対零度、氷結、炎熱弱体Ⅴ、瞬間解凍

 スキル:なし』

 ふ、増えとる───!?

(レベルとか、固有スキルとか、HPとか、MPとか。何か、色々と気づかないうちに増えてたー!)

 ありがたいが、ありがたいが何かお知らせとか欲しかったわ!

 初めて、この世界が優しくないことを知った今日この頃であった。

「……でも、これなら氷結の練習をしても大丈夫なんだよな」

 したかったが、後始末は時間経過でしか出来なかったのであまり出来ていなかった氷結の練習。

 それがいくらでも出来ることになったので、俺は遠慮なく氷結の練習を始めた。

 風呂に入りながら……。


「今度からは気を付けないといけないな……」

 結果、練習は出来たけど逆上せてしまった。

 体を乾かすついでに治るまで待ち、動けるようになったらさっさと服を着て洞窟へと戻り、軽く反省をする。

「とりあえず、せっかく綺麗になったんだから汚れないように……氷結!」

 洞窟の壁に触れ、あっという間に洞窟の壁や天井に地面を氷で覆い尽くす。

 これで汚れなくなるし、気付けば暑さで死んでいたということもなくなるだろう。

 寝床の場所として洞窟の奥に氷のベッドを作ると寝心地を確かめるために横になる。

「快適快適」

 少しほてった体が一気に冷えていく心地よさを感じながらそう呟く。

 氷だから硬いが、その内に溶けてピッタリになるだろう。

 起き上がり、籠に手を翳す。

 そしてそのまま中のリンゴを冷凍保存した。

 瞬間解凍が出来るんだ、冷凍保存も問題ないだろう。

「くぁ……」

 ある程度の満足を得たからか、気が緩んだからか。

 急に睡魔が襲ってきて、今日は眠ることにした。

 まだまだ日は高いが、日に当たっても死ぬだけだし。

 洞窟の入り口を氷で塞いで───空気穴をちゃんと開けて───動物やらなんやらが入ってこないようにしてから、俺はベッドに横になると目を閉じる。

(明日は、もっと広い範囲を探索しよう……)

 明日の計画を立て、俺は眠りについた。

Get(入手)

リンゴ×15

スキル:「瞬間解凍」


Discovery(発見)

氷結の多様性

水浴び場


サバイバル知識は、素人の浅知恵程度です。

何か間違った箇所ががあれば、教えてくださると幸いです。



↓ 本作品の改稿版的なものです。全く別物になっておりますので、こちらも見ていただければ幸いです。

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