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夏休みの課題が終わった数日後、一樹は急に現れたみなみに「天文学部の合宿よ!」と自分の部屋から連行され、家の前に停められた芦田先生の車の中へと押し込められラジオ体操をする小学生たちの視線を集めながらドライブする事数時間…何故か車は高速道路へと進み停まる様子を見せず、あまりの不安に遂に現状を確認せざるを得なかった…。
「で、ぼくたちは何処に向かってるんですか?急に天文学部の合宿に行くだなんて…。」
「あら?瀬戸さんは八坂くんにちゃんと説明してないの?ちゃんと親御さんには連絡してから行かないとマズイわよ。泊まり掛けなのよ。」
ぼくの真っ当な質問に芦田先生も同調してみなみにどうなっているのか問いただす。
「ちゃ、ちゃんとおば様には話したわよ!だから問題Nothing!」
「なんでぼくに話さないんだよ!ってか、泊まり掛けだなんて知らないぞ!?着替えも何も用意してないじゃないか!」
「ちゃんとおば様が着替えも水着も用意してくれてるよ?車のトランクにちゃんと鞄も入ってるし。」
「いつの間にっ…っていうか勝手に母さんも何してんだよ!?」
「そりゃあ、一樹がまた星を見る気になったのが嬉しかったんじゃない?やっぱりそれなりに心配してたんでしょ?」
「………………。」
両親の愛情に対する嬉しさと自分の不甲斐なさ、目の前の二人の優しい笑顔が何だか気まずくて窓の外に視線を向ける。
「うわぁ〜海だ!」
街の空気が揺らめく夏、その熱気はアスファルトの上に見える逃げ水のその向こう側に太陽をキラキラと乱反射させた海が見えてきて思わず声をあげてしまった。
「そう、あの海沿いをずっと行った先に私の実家があるの。そこで天文学部の合宿っていう口実に加えて、本当の夏休みを付け加えると教師の私にも夏休みらしい夏休みが可能になったのよ!」
「うわ、先生ぶっちゃけちゃった。」
「大人って夏休みあるの?わたしのお父さんは毎年休みがないけど…。」
「わたしはあるだけマシなのよ…工場やお店は普通にお仕事してるわよね。じゃないと休みの私たちがお買い物とか出来ないし。」
「大人って大変なんだね。」
しかしそれも他人事とはもう言えない時期になってきている、ぼくとみなみ。高校二年生ともなれば進学を選択しなければ就職し、社会人となる日もそれほど遠くない。
「そんな事より何して遊ぼうかしら?久々に海で泳ぐのも良いし、バーベキューなんかも良いわよね。夏祭りもあるわよ!」
「先生…楽しそうなところ悪いですけど、一応は天文学部の合宿って事なんで、星もちゃんと見に行かないといけませんよ。取り敢えず最低限のノルマの星の観察済ませようと思ったら、取り敢えずは昼寝からになりますよ。」
「「えぇ〜っ!昼寝ぇ〜!?」」
声を揃えて不満をぶちまけないで欲しい、これ以上に学校側の天文学部への不信感は必要ないのだ。ちゃんと活動しましたよという証拠くらいはでっち上げておかないといけないのではないだろうか?
「そういえば…他の天文学部の部員ってどうしたんですかね?」
「「あっ…忘れてた!」」
結局、誰も連絡先すら知らない事から残りの天文学部4名の事は暫くの間、記憶から削除する事としたのだった。仕方ないよね?
「先生…さっき実家がどうのって言ってましたが、先生のご実家に泊まるんですか?」
「何?お義父様とお義母様が気になる?」
「ちょっと!?みなみ、からかうなよ。何も知らされてないのはお前のせいだろ。だいたいお前は昔からやる事が突拍子もないんだから…。」
「うわっ、一樹のお説教が始まったよ…。」
とうんざりした口調で返すみなみは、何だか楽しそうだ。
「そうね。私と瀬戸さんは私の部屋に、八坂くんは兄の部屋に泊まって貰うわ。」
「えっ、お兄さんの部屋ですか!?」
どんな嫌がらせだろうと眉をひそめると先生はクスクスと笑いだした。
「大丈夫よ。兄もとっくに実家を出て勤務先の寮に住んでいるの。ちゃんと許可も貰ってるから心配ないわ。」
「それなら安心ですね。ちょっと焦りました。」
「いくらなんでも初対面の兄と同室で何日も過ごせなんて言わないわよ。」
それはどういった拷問なのだろう…想像もしたくない。
「いや、それは初対面じゃなくても止めて下さい…。」
「あれ?それはもうまた来ようって事かな?」
「どうしてお前はそうやって人をからかうばかりっ!!」
「こらっ、二人とも車の中で暴れないの!危ないからっ!」
こうして楽しい三人の合宿という建前の夏休みはスタートをきった。
初日の投稿はここまで~