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戦姫ロイアス譚   作者: 藤出雲
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episode 0 「灰色の悪意」 第八話

第八話


「これは一体…どういう事ですかな?王妃様」

血飛沫舞うセイラガイス王宮で、第一王妃リコと第三王女トリアネルの前に立つのは、セイラガイス王国軍魔法総僧兵団長、マイエ・ヌイキア。

「…マイエか。おかしいの。貴様等僧兵共には、武闘大会に列席する騎士団長の穴を埋める為に、各地での代理任務を命じた筈では?」

リコが眉を顰める。

「…国王派王宮内兵力を、極力遠ざける為に…ですか。残念ながら、我が軍の僧兵団は優秀な者が多いのでね。私の如き老兵が、わざわざ現場に赴く必要は無いのですよ」

「ふん、よく言うわ。大方、キルン、テルヴィントレス等の調査で、ある程度妾の動向も掴めぬまでも予測はしておったのだろう?しかし自らに言うところの老兵が、一体この状況をどうにか出来るとでも申すか?」

次々と聞こえる、衛兵や侍女達の叫び声。

「…やれ」

リコの隣に立っていた、娘姫のトリアネルの号令と共に、四方から黒装束のリ・ユプナ派僧兵が十数人、マイエに向かって飛び掛かる。

或いは剣で、或いは放出型攻撃魔法で炎撃、氷撃を撃って。

「…やれやれ」

軽い溜息を一つつき、マイエが左手をくるりと円形に回す。

「!?」

何時の間にか、マイエの上空に黒色の巨大な球体が浮かび、其処から発生したらしき魔力が舞い降りる。

マイエと球体を中心に、全てが沈んでいく。マイエが立つ、王宮エントランスへ続く階段も。脇の植え込みも。そしてマイエを襲う剣も、炎も、氷も、僧兵も。

「こ、これは…!?」

「…重力、ですな。難しい話はさておきまして、私に近付いたものの持つ質量を本来のそれよりも何十、何百倍にするといった具合です」

僧兵達が、苦悶の声をあげて階段に落ち、沈む。やがて意識が無くなる程に潰された僧兵達の様子を見計らい、マイエは術を解いた。

「この様な大それた真似をなさるにあたっては、お二方の周囲に居た此奴等はそれなりの者なのでしょうが…まだまだ私も、やれるものですな」

人を食った様な笑みを浮かべ、マイエが言う。

「…おのれ…僧兵団長級と聞いていた手練揃いの部隊を…よくも…」

トリアネルが、持っていた豪奢な扇を折り曲げる。

「もう、この様な事はお止しなさい。恐らく武闘大会でもリィルナルが何か企てている様ですが、王国最強の騎士団長が集まっている場所です。武力に訴えるのは、無駄というもの」

マイエが一歩、潰れた階段をのぼりリコとトリアネルに近付く。

「貴様などに何が解る!人生の殆どを、王の政治に使われ、故郷まで…。このまま、奴の糧で終わるのは嫌じゃ!」

故郷、と聞いてマイエは一瞬考えた。

「まさか…」

言いかけた瞬間、リコとトリアネルの後ろ…王宮エントランスへ続く階段の出入口付近に、ある人物が現れた。

「マイエ…殿?」

「おお、其方は…」

戦闘の只中だったのであろう、その銀色の鎧と長剣と鉄鞭は血に濡れている。

王宮警護に残った、第十二騎士団の騎士団長、ノーマ・ルルエイゼであった。

恐らく、突然の反乱鎮圧にあたるべく部隊を散開させてリ・ユプナ派僧兵団との戦闘を展開していたのだろう…と、マイエは推察した。

特に今回の様な状況では、広範囲かつ乱戦に向くノーマの鉄鞭術は高い戦力である。

「状況は、最悪です…」

女性と見紛うばかりの美貌を持つノーマであるが、この時は疲弊もあってか、顔色がかなり悪い。

「リコ妃とリ・ユプナ派の繋がり…そして、南の大国ユスーマンの反乱財源援助の規模、投入された軍備の規模…その全てを、我々は見誤っております!」

ノーマの叫びに重ねる様に、リコが声をあげた。

「何をやっておるか!残る全員でマイエを殺せ!!」

その瞬間、再びマイエの周囲から僧兵が飛び出す。

「マイエ殿!」

ノーマが、階段を駆け降りた。

「無駄だと言った筈だ!」

マイエが、僧兵の残りを重力魔法で潰す。

そして、それと同時にノーマが鉄鞭の一撃を放った。

「ぐっ…」

マイエの胸元に、鞭はめり込み、彼の身体を貫いた。

重力の枷が解け、僧兵の半分程(4~5人)は何とか動けるといった様子である。

「我々は…見誤っていたのですよ…。だから、こちら側につくべきだと、そう思いましてね…」

沈んだ瞳で、ノーマが言った。

「ふふ…愛い奴よの…ノーマ。して?南の後宮大殿は?」

リコの言葉に、ノーマはにやりと笑い「息をしている者は、おりませんよ」と言った。

そう、リコに報告した僧兵が指差した先にあった後宮大殿は、王宮を守る筈の第十二騎士団が、宮女達を殺戮していたのである。

「しかし、重力…でしたかな。物体の質量を、空間限定とはいえ操るとは…その様な魔法使い、このヤウ大陸広しといえどもマイエ殿だけでしょうな。自慢の鉄鞭も、たった一撃でこの様です」

吐血し、倒れたマイエから鞭を引き抜く。粉々になっていたのは、マイエの術の影響と、それを突破する為に渾身の力を込めたノーマの最大最速の一撃に耐え切れなかったからだろう。

「不覚…」

マイエが、歯軋りする。

「…やれ」

残った僧兵達の刃が、魔法が、マイエの身体に突き刺さっていった。

血と闇の饗宴、と、トリアネルは唄った。

悪夢は始まったばかりである。

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