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戦姫ロイアス譚   作者: 藤出雲
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episode 0 「灰色の悪意」 第六話

第六話


「ちょ、ちょっと待っ…」

ロイアスが言い終わる前に、エンネランスの横薙ぎの一閃が彼女目掛けて飛んで来た。

「っ…!」

剣の横腹を縦に構えて、それを何とか防ぐ。

「…やりますね」

ぼそりと、エンネランスが舌打ちをした。

「はっ!」

気合いと共に、縦横無尽に飛んで来る連撃。

「…!」

エンネランスの腕の動きを見ながら、それらを或いは剣で弾き、或いは身を捻って躱すロイアス。

どちらも、14歳以下のものとは思えない動きである。

「おいおい何だあの小僧!すげえぞ!!」

「いや!あれを捌いてる娘も尋常じゃねえ!いいぞ!」

実際、5,000人以上の観客の盛り上がりも凄まじかった。

「ううー…!」

最初の狼狽の隙を突かれ、一気に守勢に回らされたロイアス。剣術と棒術の得物の間合いの不利もあり、全く攻撃出来ない。

しかし、エンネランスの方も攻め切れていない。

「…これだけの攻撃でも当たらないとは…」

攻め手を緩めないまま、呟くエンネランスがその直後「…では、これは?」と言うと、棒高跳びの要領で地面に木棒を刺して上空へと跳んだ。

「見え…!…きゃあ!」

太陽光との直線上に上手く隠れて落下して来たエンネランスの蹴りが、ロイアスの左肩に命中した。

そのまま素早く着地したエンネランスが、木棒を拾い上げて態勢が整わないロイアスに向かって突きを放つ。

「っっっ…!」

ロイアスの鳩尾へと、エンネランスの一撃がめり込んだ。

「…終わりです」

悶絶し、その場に膝をつきかけるロイアスを見て、エンネランスはくるりと振り返って闘技場を後にしようとした。

…しかし。

「ぐぁっ!」

エンネランスの背中に、ロイアスが先程の彼と同じく飛び蹴りをくらわせた。

倒れ込むと見せかけてそのままダッシュして、立ち去ろうとするエンネランスに漸く一撃を浴びせたロイアス。

思わぬ反撃によろめくエンネランスが「…ま…さか、あれを直撃させたのに!?」と、流石に感情を顕にした。

「いいぞ娘っこ!大した根性だ!」

観客も、最高潮の興奮であり闘技場は熱狂に包まれる。

「へへっ…!日頃の相手が相手だもんね!打たれ強さだけは同年代の誰にも負けないよ!」

それでもダメージは大きかったのだろう、鳩尾を手で押さえたまま、脂汗を流している。しかし、何とも晴々しい笑顔で。

「…ですってよ、普段の対戦相手殿」

ニヤニヤと、ユタがカルトローサに肘打ちしてからかう。

「…そうなんだよ…レベルの差だとか余りにも関係無く、めげないで向かってくるもんだから、何時の間にかとんでもなく打たれるって事に慣れちゃったんだよ…」

カルトローサが、額に汗し、これ以上無いくらいの苦笑を漏らす。

「さあ!いくよ!勝負はこれからだ!」

剣を構え直して、今度はロイアスが攻撃した。

この試合で、ロイアスが剣で初めて攻勢に回る。

「やあああ!!」

「っ!くっ…!!」

長いリーチの棒術に対して、その間合いの中に潜り込めたのは大きい。

更にロイアスの木剣は彼女の体格に合わせて、同年代の者が使うそれよりも短めの拵えであった為に、近接戦闘では小回りが効いた。

そして、何より…。

「鋭い…!」

実際、最初のエンネランスの連撃は凄まじい手数であった。

しかし、ロイアスの剣撃の素早さ、鋭さはそれを更に上回っている。

「僕よりは軽いが…速く…鋭い…か…!」

「やっ!」

そして、下段からの袈裟斬りでエンネランスの右手を捉える。

堪らず棒から手を離したエンネランスは、僅かながら態勢が上ずった。

「そこ!」

ロイアスが更に深く、エンネランスの懐まで詰め寄り肘を放つ。先程くらったのと同じ、鳩尾だ。

「かぁ…」

どさりと、倒れるエンネランス。

審判が彼の様子を覗き込む。

そして「勝負あり!勝者、リナリナ!」と、腕をロイアスの方に向けて勢い良く振った。

「…ふうっ」

ロイアスが、空を見上げて息をつく。

「どっちも凄かったぞー!」

「決勝じゃないのが惜しいくらいだ!坊主もよくやった!」

歓声は、暫く止まなかった。

「ああ、痛かった…」

エンネランスは、会場の第六医務室で治療を受けていた。

そこに勢い良く駆け込んで来たのは、リナリナ…ロイアスである。

「ちょっと君!聞きたい事が…」

「ああ、先程はどうも。やりますね。初めてですよ、同年代相手にここまで見事にやられたのは。これは師匠に大目玉かもしれません」

飄々と言うエンネランスにロイアスは「や、そうじゃなくて!何で君…」と詰め寄った。

「余り詰め寄らないでください。また肘打ちをくらいそうで、怖いじゃないですか」

何とも皮肉な物言いをする、とロイアスは思った。物静かではあるが、言い回しの展開が…。

「あれ?もしかして君の師匠って…」

「ご明察。城一番の不良坊主ですよ」

エンネランスは、そこで初めて笑った。

「さてさてリナリナ殿。この様な薬臭い場所ではなく、ちょっとあちらで話しましょうか。…とても大切なお話があります」

エンネランスはそう言って立ち上がり、ロイアスを促した。

「…御僧様。あちら側から、連絡がありました」

ドルツェと呼ばれた、リィルナルの傍に居る警護役らしき騎士の額が薄ぼんやりとした光の針に貫かれた。

伝達魔法の一種であり、その薄さと速さから、それを周囲の者が認識するのは困難であろう。

「ふむ…漸くじゃの…。もうすぐじゃ。もうすぐ我等が悲願、叶う時…」

リィルナルの笑顔と、底の見えない悪意が溢れ出る。

それが、この会場を包み込むのはもう少し先の事である。

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