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戦姫ロイアス譚   作者: 藤出雲
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episode 0 「灰色の悪意」 第五話

第五話


サフェリリス・スリリンナ・スィルドルスン・サルネルォーニ・セイラガイスは苛ついていた。

11歳下の妹姫、ロイアスの事である(今日迄、王に男子の子供は産まれていない)。

王家の子供は五人姉妹であり、長女は幼い頃に病死している。

サフェリリスは次女にあたり、現在のところ王位継承権第一位の立場にあった。

しかしどうだろう。妹姫が女だてらに剣を持ち、騎士団や魔法僧兵団に手ほどきを受け、この様な大きな武闘大会に出場し、更にそれらを王宮が(身分を隠させているとはいえ)容認しているという事実。

全く、父上は何を考えているのか。

父王だけではない。

公務である筈の、武闘大会への列席を拒んだ第三王女のトリアネル・トリコーネラ・トルディナンシュ・トレサリア・セイラガイス。

昔から何を考えているか解らない娘ではあったが、ここ最近のトリアネルの態度は目に余る。

王宮議会での、穀倉地域一帯への輸出制度改革法、国境南部地帯国防壁建設計画、王国南部ピアル山脈ユプナ教伯領建設問題等、近年解決を急がれている案件において、トリアネルの母である第一正妃、リコ・リリルタニア・リフラネール・トレサリア・セイラガイスが強行案を推し進め、議会可決までを文字通り支配していた。

元々政治的手腕のあるリコ妃ではあったが、娘のトリアネルが2年前の進冠の儀(王族成人の儀式。これを経て王族は王宮議会等、政治の場に出る)を経て以降、急激にその様子は変わっていった。

「才能…なのかしらね」

サフェリリスは、こと妹の天才的な頭脳に対しては畏敬の念を抱く。

ただ、実の妹の時折昏く沈む、あの瞳に滾る黒い炎の様な感情に恐怖を同時に感じてしまうのだ。

確かに、リコ妃と現王の間柄には政略結婚の名の下に、様々な経緯や事情があった。

結婚当時、幼くしてリコ妃が何も知らないセイラガイスへと嫁いできてからの日々は大層孤独だったとサフェリリスは聞いている。

しかしながら、それ等個人的な感情と王宮議会、国政は切り離すべきであるとサフェリリスは考える。

幼かった当時のサフェリリスは、見知っている。

トリアネルへの子守唄に、現王への怨恨を聞かせるリコ妃を。その形相を。感情の巨大さを。

「しかし…」

幾ら考えても、トリアネルの進める政治的な動きはサフェリリスの理解の範疇外である。

リコ妃、トリアネルの繋がりと現王への恨み、それ等が今の彼女達を各種法案改正への原動力になっている。それは解る。

ただ、その動きの結果が、現王にどの様なものを齎すのかが解らない。

だからこそ、この様な時に武闘会のお祭騒ぎに自ら参加するロイアスと、それを安穏と許し対策を講じない父に苛立つのだ。

しかも、王宮へ残ったリコ妃とトリアネルに対しても何の沙汰も無く。

父王には過去、何度かこの件で問い詰めた事もあった。

しかし父王は依然態度を崩さず、飄々と武闘大会を楽しもうなどと言う。

「全く…私の心配なんて、どなたも解ってはくれないのね」

そう呟くサフェリリスの予感は、ある意味当たっていたのだ。

この後訪れる、最悪の厄災。

それこそが、リコ妃とトリアネルの陰謀だった。

武闘大会2回戦は、開催二日目に行われた。

ロイアス(リナリナ・アンプリンという偽名で選手登録している)とアスドガリスは無難に1回戦を突破し、この二日目に臨んでいた。

アスドガリスは特に問題無く、2回戦を勝ち抜いた。

そしてこれから、ロイアスの出番である。

対戦相手の名前はエンネランス・フリネラ。僧兵団の見習いという経歴だ。

魔法戦闘が主流の僧兵団ではあるが、戦となれば勿論直接的な戦闘能力を要求される。そうした中で、武術に長けた僧兵も勿論多数存在するのだが、このエンネランスという僧兵見習いもその一人なのだろう(武闘大会は魔法戦闘は反則となる)。

「おお、姫様の相手は棒術か。しかもえらい長さだな。キルン、お前姫様の優勝に賭けてるんだっけ?相手は?」

ユタが楽しそうに、尋ねた。

「うちのペアスナとです。前回の大会では、貴方達上位騎士の部で賭けてたんですがね。子ども達の方が、意外な出来事が起こるので楽しいかなという話に」

キルンの返答にユタより早く反応したのは、カルトローサであった。

「全く、何て僧侶だろうね君達は…第一僧兵団長の不良振りは評判だけれど、第二僧兵団長まで…。キルン、君の悪影響の大きさは計り知れないよ」

やれやれ、とカルトローサが眉間に皺を寄せた。

「まあいいじゃねえの、カル。僧兵の皆さんも、こんな時でなけりゃ滅多にはじけられねえんだ。ほら、ぼちぼち始まるぜ」

ユタが再び、闘技場に目配せした。

闘技場の熱気も、上々だ。

「…よろしくね」

ロイアスが、にっこりと挨拶をする。

「…こちらこそ、お姫様」

「…えっ?」

僧服に身を纏ったエンネランスが、無愛想に返答をして構えを取った。

「始め!」

審判の声が、大きく響いた。

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