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戦姫ロイアス譚   作者: 藤出雲
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episode 0 「灰色の悪意」 第三話

第三話

アスドガリスとユタが会っていたのと同刻。

国内の南西部。

ユプナ教リ・ユプナ派の僧侶達の総本山であるリ・ユプナ総寺院で、大総僧リィルナル・アペリィーシュと謁見している男は言った。

「やはり、目下一番の障害は王国騎士団長とヤノメ派のマイエ、キルンですね…。テルヴィントレスが騎士団長に召集をかけたタイミングからして、キルンと繋がっている事は明白。このままで間に合いますか?」

男の言葉を聞き、リィルナルは嗄れた声で笑った。噂では120歳とも、200歳とも言われる大僧が、細い骨ばった腕をゆっくりと振る。

彼の指が、琥珀色に発光した。指から離れた発光体が、ゆらゆらと揺れながら男の額を貫く。

「案ずる事は無い。事は全て滞り無く進んでおるよ。我等がこの国を得る日は近い…」

「…は」

男…カルトローサは、昏く沈んだ目で頷いた。

キルンは、思案を巡らせていた。

王宮の中と外を正面から繋ぐ大エントランスの入口に、ぼんやりと立っている。

「うーん…」

リ・ユプナ派、ユスーマン帝国の反乱は恐らく水面下で進んでいる。

「ここまで尻尾を見せないのは流石…だな」

テルヴィントレスと自分の私兵を総動員しての再三に渡る調査、偵察をもってしても決定的な証拠が挙がらない。

元々、近年の王宮内派閥・権力闘争は過激化の様相を呈していたのだが(近隣諸外国に国力低下を露呈させる事を避ける為、諜暗隊という内部組織によって情報管制が王宮内に敷かれている)、王宮議会の中でも特に反国王派として知られるのがリ・ユプナ派であった。

「数年前の魔法通商権闘争や宗税論の議会決議からこっち、大きな権力は振るえていない筈なんだが…」

ユスーマン帝国と裏で繋がるにしても、あの国との関わりは無いに等しい。政略結婚で王族の誰かが…という事も無い。

それでも、着実にこちらの手勢が減り、向こうの手勢が増えている感覚。

テルヴィントレスからの情報では、既に騎士団内にもリ・ユプナ派に寝返っているらしき者が居る様だ。

「全く…頭が痛い」

「あらキルン、体調が悪いの?二日酔いかしら?」

ロイアスが後ろから声をかける。

「ああ、姫君様。ちょっと珍しい銘柄を手に入れましてね。姫君様の栄誉ある勝利の前祝いですよ」

言って、笑いながらキルンは応えた。

「それより、いよいよですね。頑張ってください」

そう。ロイアスが夢にまで見た、大練武闘大会である。

「これから、変身の魔法をかけて貰って来るの。キルンは出ないんだっけ?見ててね!頑張って来るから!」

元気良く王宮の外へと駆け出すロイアスを、キルンは手を振って送り出した。

「さて…今日から暫くは、お祭か…」

大練武闘大会の会場は、首都中心部から東南に位置するコアナという街にある。国城からは馬を使えば1時間もかからない距離だ。

数千人を収容出来る、トーナ闘技場という施設で開催され、期間中は王族もこの街に逗留する。

故に、テルヴィントレスを始めとする王国騎士団の警護隊も列席するのだが、やはり騎士というのは国の「華」なのだろう。彼等が国王と共に街へと訪れる時はまるでパレードの様である。

「クーデター疑惑がある時にやる事かよ…」

馬上で、ユタがうんざりしながら呟いた。

「声に出すな、馬鹿者」

テルヴィントレスが、ユタの頭を小突く。

「ってえ…す、すんません」

「国王陛下の意向でもあるのだ。これを幸いにと、尻尾を出してくれるかもしれんしな」

ユタは「へい」と短く返事をした。

「ところで旦那、アイアニルスとシューイン…それにペルナ…騎士団長が三人来てないっすけど…まさか」

王宮の留守を護る第十二騎士団を除き、先日の騎士団長召集の時にテルヴィントレスから出た命が(任務の性質上来れない者、テルヴィントレスから別命を受けている者も除く)武闘大会への列席であった(前線での国防・偵察が任務の第二騎士団長のユタは例外の筈であったが、テルヴィントレスの命令で前線に戻らず残る事になった)。

第三騎士団長アイアニルス・ホーケン。

第四騎士団長シューイン・クリシュヴァン・アッシュ。

第五騎士団長ペルナ・モ・ストラジーナ。

「うむ…」

騎士団長全員召集のあった夜。

協議が終わり、テルヴィントレスに呼ばれ、残されたカルトローサとユタ。

「…ま、マジですか…!?騎士団長の中に、裏切り者が…?」

ユタが、驚きを隠せずに声を上げた。

「うむ。私の私兵を総動員して国中を洗った。間違い無かろう…」

「それで…父上…いや、総騎士団長殿。それを把握された上で武闘大会へ全員参加せよ、というのは…」

カルトローサが尋ねる。

「キルンからの報告によると、連中はある魔的像封印を所有しているらしいのだ」

魔的像封印。

魔法使いが使用・行使出来る術式で、対象を魔力で封印し、何かに閉じ込めるというものである。

何か、といっても、何でも良い訳ではなく、それはきちんと魔力を行使出来る者が一定の儀式を経て、封印の媒体として耐え得る様に造り上げなければならない。

特には、信仰対象となる神像などがそれに使いやすい。

「その封印…っつーのは…?」

ユタが疑問符を投げる。

「まだ確証は無い。封印されているものが魔術的にレベルの高いものである程、解除には複雑な術式が必要になるからな。ただ、キルンによれば三級悪魔以上の可能性が高い…と」

悪魔。

かの「龍魔戦」において、悪魔王と共に殆どが滅んだ古代生物である。

「まさかそんな…そんなもんが?」

ユタの言葉にテルヴィントレスは首を横に振る。

「龍魔戦」までの時代、悪魔はその王

タラウラを筆頭に、世界に対して大いなる猛威を奮った。

そしてタラウラの手足となって、破壊の限りを尽くした悪魔達にも軍勢が存在し、その階級によって能力には差と区分があった。

「龍魔戦」以降の時代、その存在は下層階級の悪魔が他の種族と異種交配を続けて、薄々とその血脈を維持していく。これが所謂「魔物」と呼ばれる異形種の始まりである。

また、悪魔の階級には十三から一までの位があり、数字が少ない程数も減るがその能力は高くなる。

悪魔王の側近、四大悪魔を一級悪魔と呼び、一級悪魔は古代史によれば「正面から戦えた人間」は、「青の王子と六人の戦士」のみであったとされている。

「その四大悪魔に近い存在が…封印されているってんすか?冗談じゃねえ…今時、純悪魔なんて俺達騎士団長でも…そりゃ下級ならともかく…って話ですよ?」

ユタの言う通り、異種交配して「魔物」となった悪魔の末裔は、確かに数こそ増えているが、かつて古代に世界を滅ぼしかけた程の戦闘能力は有していない。稀に純悪魔が居たとしてもそれは下級の存在である場合が殆どである。

「だからこそ、逆に封印解除は難航しておるのだ。今の内にマイエ殿、キルンにそれを食い止めて貰わねばならん。そして武闘大会を餌に、裏切者も炙り出してこれを叩く。これから話す作戦には、お主達の力が必要になる。頼んだぞ」

テルヴィントレスの力強い言葉に、カルトローサとユタは顔を見合わせてから、頷いた。


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