episode 0 「灰色の悪意」 第十七話
【第十七話】
「ヤウ大陸北方バイル山脈帯守護方、セイラガイス王国軍第六騎士団!騎士団長クルレ・ツィーヴァ他、同騎士団上位騎士、参戦します!テバル、クリア、レーベ、ダブはカルトローサ先輩と交替!「嵐熊の陣」でいくぞ!ノアレナは、負傷した第一騎士団の皆さんの救護に回れ!子ども達を離脱させた後は彼等の様子もみるんだ!ゴーギ、オンク、スクヨーぺは左!特化撃態勢を取れ!右は俺とサァーミン、メアデ、ハピリアナで叩きながら、子ども達と交替だ!」
第六騎士団長のクルレ・ツィーヴァが戦斧を振りながら、部下の上位騎士達にそれぞれ、指示を出した。
「クルレ…すまん…世話になる!」
カルトローサが、歯軋りした。
「何の!先輩方には世話になってきましたから!」
筋肉質な巨体に合わない、優しい顔立ちの第六騎士団長が、にっこりと笑った。
「ハパトラさんとキルンさんが、何か秘策があるっぽかったです!ただ、かなり時間がかかりそうで…。その策が講じられる迄の間を、俺達で何とかしましょう!…本当、こんな事ならちゃんと自分の得物を持って来ておくんでしたが…そうも言ってられませんね。頑張りましょう!」
言って、クルレが斧を肩に掲げて勢い良く突進していった。
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セイラガイス王国軍第一騎士団長補佐、ペイドン・リ・ハーリンレイスが軍部でも一目置かれているのは、騎士団長のカルトローサをも凌ぐと言われる剣技、信義に厚い人格の他にも、彼が持つ剣氣現力の能力における汎用性の高さがあった。
彼の剣氣現力は、十属環性の内「両極流属」(自らの剣氣現力を他者に与える)と呼ばれるそれにあたる。
治癒や保護等、直接戦闘ではなくサポートに適した性質であったが、彼はこれを見事に活かした能力を発揮し、今の地位迄のぼりつめた。
戦闘中に、自らの剣氣現力を自陣の味方に分け与え、敵方との戦闘能力の調整をはかるのだ。
例えば、今の状況で言えばロイアスは速度、手数は自陣随一であるが威力、重さに難がある。
そこを、ペイドンの剣氣現力を与えて補う。
こうした、戦闘中における現状分析を常に流動的且つ正確に、正しいサポートを速やか且つ細やかに現力で行うのだ。
更にペイドンは、自陣に居る他者の剣氣現力を自らの身体と色素態鉱鉄を媒介にその一部を吸収する能力も、極一部ながらも有していた。
これは、剣氣現力十属環性の内「両極合属」と呼ばれる性質のものである。
例えば、自陣のロイアスの速度が随一である事。
エンネランスはロイアスよりも威力、重さはあるが速度は彼女程無く。
そのあたりを、自らの身体と聖剣を媒介にして、エンネランスにロイアスの速度を、ロイアスにエンネランスの威力、重さを流し与えるのである。
自らの剣氣現力を分け与え、小~中規模動員の戦闘員の能力の全体的な底上げをし、更に個々の能力の均一化を行う。
戦闘員が複数名以上動員される団体戦において、こうしたペイドンの能力は極めて有効であった。
勿論、伝説の灰色悪魔を相手にしているロイアス達が戦闘を優位に進めているのには、ラゴロデ作の聖剣の力によるところが大きいのだが、細やかな調整に関してはペイドンの助力があったのだ。
「やあ!」
ロイアスが、真正面から聖剣タチュエラによる上段からの連撃を叩き込む。
「お…のれ…このガキめが!」
カーシュが腕を使って魔力を込めて防御するが、その腕にざっくりと斬跡が食い込む。
「ぐっ…調子に…乗るな!!」
「っ!?」
カーシュが腕を掲げ、灰炎蝙蝠による大きな炎撃をロイアスに放つ。
「…させるか!」
ペイドンが、何事か呟きながら腕で空に紋様の様なものを描く。
灰色の炎が爆炎を撒き散らす。
「な…んだと!?」
しかし其処には、ダメージこそ多少はあるが、五体無事の少女の姿。
「…っ…ぷあぁ…!あ、熱い…!!!」
ペイドンが、やれやれ、と安堵の溜息を漏らす。
これも、彼の剣氣現力「両極流属」と「両極合属」の応用だ。
要は攻撃を受けた瞬間、自分、アスドガリス、エンネランス、リトラスの剣氣現力を彼女に集中させて防御に使う、といった様な使い方である。
能力の高さと、これらの戦法を行使するにあたっての、細やかな判断能力こそが、ペイドンの真骨頂なのだ。
「よーし!一気に畳み掛けるぞ!」
「…命令しないでください!」
「お、俺は左だな…!」
狼狽するカーシュに、ペイドンによって剣氣を戻されたアスドガリス、エンネランス、リトラスが三方から斬り、叩き、突いて攻撃。
これ等も、見事に灰色悪魔を捉える。
「…それにしても…」
各々、ラゴロデ作の聖剣を持ち、その恩恵によって大いなる力を得た少年、少女達の剣氣現力を行使した攻撃、防御、速さ、威力、重さ…。
「騎士団長級か…それ以上…の人間を四人同時に調整は、初めてだな…。しかも聖剣の力が、我々の物とは根本的に…違う…?」
これらを調整して灰色の悪魔に対峙する事の集中力は、出力の高過ぎるロイアス達より、ペイドンの方が先に参りそうな程であった。
「ペイドンさん!子ども達と一旦引いてください!」
クルレが、部下の上位騎士と共に駆ける。
「おお…クルレ君…ではない。クルレ第六騎士団長、ありがとうございます」
冷静な様子ではあるが、その顔には汗の粒がびっしりと浮いているペイドンの肩を力強く叩いた。
彼の部下達はペイドンの横を駆け抜け、子ども達の居る戦場へと参戦していた。
「厳しいですが、やれるだけやりましょう!子ども達は、うちのノアレナに診て貰ってください。第十騎士団からの出向で、回復術の方は指折りです!」
クルレの言葉にペイドンは「重ねて、ありがとうございます」と、頭を下げた。
「近くで見ると、確かにこの剣氣は尋常じゃないですね…身体への影響、ユタ先輩が言う通り怖いです。単純な消耗だけでもこりゃ、俺達以上…か?でも、彼等の力はこの後また必要です。消耗した分を回復する迄は、俺達が時間を稼ぎます」
「…はぁっ」
「…ふう…」
「ぐぐっ…」
「うー…」
確かに、事を有利に進めているが、少年達の疲労は確実に積まれている様子だ。
そして、ハパトラとキルンに秘策があり、それの行使迄を繋げましょう、と言ってクルレも戦場へと走っていった。
「…私の後輩だった頃に比べて、本当に逞しくなった…」
ペイドンが、かつての後輩の大きな背中を見ながら、笑って溜息をついた。
子ども達や、若き騎士団長の可能性に、希望が見えてきた。そんな気がしたのだ。




