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戦姫ロイアス譚   作者: 藤出雲
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episode 0 「灰色の悪意」 第十六話

第十六話


剣氣現力。

ヤウ大陸における騎士団の展開する戦闘で、特に重要性がある要素の一つは間違い無くこれであろう。

魔法使いの行使する「魔力」(セイラガイス王国を含むヤウ大陸西部では、正確には魔的術式現力と呼ぶ)と対になる、武的行使の最大戦闘能力である。

一流の闘士にのみ備わるとされる、剣氣と呼ばれる気合いの一種。

それを実践的に具体的な戦闘能力に迄特化・昇華させたもの、と言えば良いのか。

ともあれ、セイラガイス王国軍騎士団においては、これの会得が上位騎士認定の必須項目である。

この、剣氣現力の発動、行使、操作にも様々な条件があるのだが、その中の一つが色素態鉱鉄である。

騎士が発する剣氣は、いわば精神的なものであるが、色素態鉱鉄には、それを持つ者の精神力を顕在化させるという不思議な特性が備わっていた。

更に現在のセイラガイス王国領内においては、様々な理論体系が確立されており、「十属環性」と呼ばれる、剣氣現力の分類も成されている(剣氣を十の種類に分けて考えるという理論)。

色素態鉱鉄の持つ特性として、製鉄された形状、持つ者の剣氣の十属環性によってその出力、威力、精度、効果は違ってくるというものがある。

故に自らの剣氣の十属環性の把握と扱う色素態鉱鉄の形状には、細心の注意を払うものとされる。

ラゴロデ・ケラスコットの、そのルーツとなる鍛治探鉱民族レラ人は、そうした色素態鉱鉄の製鉄技術を駆使しつつ、それを扱う剣士の十属環性に合った武具を造り出す一族なのである。

例えば、先程のカルトローサが放った攻撃「蒼風剣」。

あれは、剣氣現力十属環性の内「天位操属」(自然現象に干渉し、操作する)に類するものである。

それは即ちカルトローサの剣氣の十属環性が「天位操属」に属し、それに類する力と性質を有するもの、という意味だ。

そして、色素態鉱鉄を使った武具を「聖剣」と呼ぶ。

カルトローサの持つ聖剣レローニは「天位操属」の持ち主がその力を発揮出来る様な形状へと製鉄された物、という訳だ。

そして、ロイアス、アスドガリス、エンネランス(避難途中でちゃっかりペイドン、リトラスと合流し、自分も参戦すると言い出した)、リトラス達が手にしている、ラゴロデ作の武器も「聖剣」(正確には槍や棒もあるが)である。

「かっかっかっ、それも、この俺様特別製の最新型だぜ。今迄の聖剣にはねえ特性てんこ盛りの、スペシャル版だ」

ラゴロデが、にやりと笑った。

「…しっかし、見事にあの小僧共の得物にぴったりのもんばっかしだったなあ…不思議なもんだ…」

「でも、大丈夫だったの?パパ。あれって…」

闘技場の端から、何となく不安そうな面持ちでラゴロデの娘、ラーニャが尋ねた。

「あん?何が?」

ラゴロデが、耳を指で穿りながら聞き返す。

「だってさっきの女の人、武器持った途端に多分聖剣の魔力とぶつかったから、変身の魔法が解けたんでしょ?」

「みてえだな。それが何だ?」

「いや、あの人多分…王女様だと思うよ?王女様に、悪魔と戦って来いなんて言っちゃったのばれたら…」

ラーニャが、小さな手で首を切る真似をする。

「…マジか…あの娘、王族だってかい…まずいな…ど、どっか逃げ道とか、その辺に無いか?」

額に汗しながら、ラゴロデが周囲を見渡した。

「…世間知らずも程々にしないと駄目よ?」

「はい…」

七歳の娘に、何とも情けない説教をくらう、大陸西部一の鍛冶屋であった。

「ところで、皆が持っていったあの武器…全部、色素態鉱鉄とは別に、あの金属も使ってるんだっけ?」

ラーニャが、一人前に腕を組んで唸る様に尋ねた。

「ん?おお、そうそう。多分製鉄に成功したのも、大陸では初めてなんじゃねえか?思った通りの逸品だったわ。…そう考えたら、あのガキ共でもかなりやれると思うぜ?」

聖天星鉄。

ラゴロデが製鉄に用いた、ヤウ大陸武具の歴史を塗り替える、全く新しい鉱鉄である。

「…師匠の仇!」

ちらりと、右眼を抉られ、倒れたキルンを見ながらエンネランスが言い、黄色く輝く金属の長棒の連撃をカーシュに叩き込む。

「むっ…!」

(聖剣を所持していなかった者ばかりとはいえ)上位騎士をすら、赤子の如く手玉に取っていたカーシュが、両手に魔力を込めてそれを防御。

「まだ死んではないんだが…」

キルンが、力無く呟く。

「何だ、死んでないのか…残念な事だ」

キルンに声をかけたのは、第七騎士団長、ハパトラ・ナムヤ・ナムルデンだった。

スキンヘッドに、浅黒い肌。細身で長身。

騎士団の鎧は装着しておらず、上半身は殆ど裸。その肌には、極彩色の刺青が所狭しと刻まれていた。

両腕、首にはジャラジャラと、 無数の装飾品。耳と鼻にも大きな穴を開けて飾りを付けている。

「はは…あ、相変わらずの毒舌で…」

キルンの苦笑に、ハパトラはにやりと笑った。

「さて。うちの手の者は、悪いが加勢出来んよ。灰色の結界からは抜けられそうにないが、あれに触ると即死するという、人体破壊の仕組みは概ね理解した。今、奴等にはそれを解呪して貰っている」

「流石、魔的害対策本部長殿…魔法僧兵団長以上の魔法を使える唯一の騎士ですね」

「ふむ。まだ皮肉を言う元気はある様だな。君達程の魔力が扱えるのなら、こんな格好はしてないよ」

どうやら、肌に刻んだ刺青や身に付けた装飾品は、魔力の底上げに使っている物の様だ。

そしてハパトラは、キルンの前にしゃがみ込み、失った右眼の箇所に手を翳した。

「救護専門の第十騎士団や、第十二魔法僧兵団の様にはいかんよ?」

痛みが和らぎ、出血がゆっくりと止まる。

「あ、ありがとうございます…しかし、俺の事なんかより、姫君様達を…」

「がっ…はっ…そーだぜ、ハパトラ!あのガキ共を…止め…」

キルンのその言葉に同調したのは、横腹を手で押さえてよろりと立ち上がっていた、ユタだった。

「ふむ。これはまた、キルンより生きていて残念な男が居るな」

やれやれ、とハパトラが肩を竦める。

「冗談言ってねえで、あいつらを早く何とかしや…がれ…!」

ユタが怒鳴る。

「…よく見てみ給えよ。それとも、脳味噌迄筋肉になると、視界も覚束ないか?」

ハパトラが指差した先には、カーシュを囲んで剣を、槍を、長棒を振るう少年達の姿。

「こい…つら…!!!」

明らかに、あのカーシュを相手に、優勢に戦闘を展開している。

少しずつではあったが、あの灰色の身体に、確実な傷が増えていた。

「よく見るのは…てめえの方だ!あん…な馬鹿でけえ現力、今は勢いで動けてても、あのガキ共のガタイが耐えられる筈がねえだろ!すぐにガタが来るぞ!」

ユタが、ハパトラに掴みかかる。

「ふむ。それもそうか…」

「だっ…から、早く…!」

吐血しながら、ユタが叫ぶ。

「その穴を何とかするから、貴様が加勢しろ」

ハパトラが、今度はユタの横腹に手を翳す。

「さて!ユタ先輩の治療の間は、今度は俺達が加勢しますよ!」

言って、ハパトラの背後から出て来たのは、第七騎士団と共に観客の避難誘導をしていた、第六騎士団長クルレ・ツィーヴァと第六騎士団上位騎士達。

「カルトローサ先輩!第一騎士団の皆さん!一度引いてください!交代で奴を叩きます!」

「やれやれ。お前もそうだが、第六騎士団も暑苦しい連中だ」

ハパトラが、溜息をついた。

「さて。体力馬鹿が時間を稼いでいる間に、キルン。我々は我々の準備をしようじゃないか」

「え?」

急に話を振られたキルンが、疑問符を投げかける。

「…準備だよ。魔的像封印の」

ハパトラの言葉の意味に、キルンはすぐに気付く。

「…解りました」

決着の時が、近付いている。

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